200 修学旅行初日です 8
ここはアンナミラの村です。
これから異世界の社会を見学します。
そして見学する際は、トラブルを起こさないように注意事項を説明しました。
村では以前に比べてバラックやテントが大分減ってきました。
いずれ皆さんまともな住宅に住めそうです。
アンナ「村を案内します」
アンナ「元々、村の中心は、あの小さな住宅が立ち並ぶ辺りでした。
その後人口と馬車が増えたので商業地区を新たに造ることになり、
村の中心が変わりました」
男子 「あそこで火を使っている人がいるけど」
アンナ「はい、あそこは共同の炊事場です。この村では住宅の供給が追いつかず
バラックやテントで生活している人がいます。その人達が利用しています」
アンナ「大勢で押しかけると迷惑になるので、ここから見るだけにしてください」
アンナ「それではアンナミラの中心、商業地区を見に行きましょう」
私たちは歩いて移動します。
*
村の商業地区に着きました。
アンナ「この通りが村のメインストリートです。住宅地と比べて
道幅が広いです。歩道もあります。
この通りをあちらに進むと街道に出ます」
アンナ「ここは村ですが、いずれ街になるとわたしは考えています。
村長も同じ考えです。そのため将来性を考えた村の整備を
しています」
*
アンナ「皆さん馬車を見て気付いたかもしれませんが、
この異世界は日本やイギリスと同じ左側通行です。
これには理由があります」
アンナ「通常、馬車の運転席は左右に二つあります。
馬車を運転する馭者は右側に座ります。それは
右手で扱うムチが隣の助手に当たらないようにするためです」
アンナ「そして、馭者が右側になったので、馬車がすれ違う際、
衝突を回避しやすくするため左側通行になったと言われています」
女子 「それって、右ハンドル左側通行は馬車が由来ってこと?」
アンナ「そう言うことです」
男子 「へえー」
男子 「でも右側通行の国もあるけど」
アンナ「諸説ありますが、右側通行はフランスが発祥と言われています。
昔ナポレオンが行軍する際、右側を通行していたそうです。
フランスの国民もそれに習って右側通行になったと言われています」
アンナ「そのため、フランスの影響を受けた国は右側通行になったそうです」
志村 「面白い。まさか異世界で地球の交通事情を聞くことになるとは
思わなかった」
*
アンナ「それでは、歩道を歩いて大通りを見学しましょう。
2列になって進んでください。
志村先生は最後尾をお願いします」
志村 「はい」
アンナ「今この通りは建築中の建物が多いです」
女子 「なんか映画のセットを作っているみたい」
女子 「そんな感じするよね」
男子 「ほとんど木の家だ」
アンナ「はい。村の周囲は森林が多いので木材が入手しやすいです。
そのため木造建築が多くなっています」
男子 「なるほど、昔の日本と同じだ」
女子 「いま気付いたけど、異世界の言葉や文字が読めるのは
この魔道具のおかげよね?」
アンナ「はい。そうです」
男子 「これがあれば、英語を勉強する必要ないな」
男子 「この魔道具、万能すぎる」
魔道具は持ち帰ることが出来ません。英語は勉強してください。
女子 「カレーの匂いがする」
女子 「ほんとだ」
ここはアキノ商会、ラルフさんのお店です。
カレーの匂いでルウの売り上げアップを狙っているわけですね。
女子 「カレーのルウ売ってるよ」
アンナ「わたしがカレーライスを作ったら、街で流行ってしまいました」
男子 「テンプレかよ」
*
私たちは大通りを過ぎて、砂糖工房に向かっています。
アンナ「ここが砂糖工房です」
女子 「甘い匂いがする」
わたしは従業員に声をかけます。
アンナ「こんにちは、見学させてください」
従業員「ああ、いいとも。村長から話は聞いている」
男子 「暑い」
アンナ「たくさんのコンロがあるので暑いです」
アンナ「砂糖の作り方はシンプルです。甜菜を刻んで鍋で煮る。
そして煮詰めて、乾燥させる。それだけです」
アンナ「気をつけるのは火加減です。ガスではなく薪を使っている
ので、火力の調節が難しいです」
アンナ「ちなみに甜菜とは、これです」
わたしはアイテムボックスから葉付きの甜菜を出しました。
アンナ「ダイコンやカブに似ていますが、ホウレンソウの仲間です。
葉の形が似ていますよね」
女子 「ほんとだ」
甜菜は収納しました。
アンナ「手前にある鍋は甜菜を煮ているところです。
糖分を抽出した甜菜は、家畜のえさになります」
アンナ「こちらの鍋は糖分を煮詰めているところです」
アンナ「そして・・・一番端にある鍋はあと少しで作業が終わります」
アンナ「すみません。シロップを少しもらってもいいですか?」
従業員「どうぞ」
わたしは小鉢を出して、シロップを転移させました。
アンナ「これが完成間近のシロップです。
少しだけスプーンですくって、なめてください」
皆さん、アイテムボックスからスプーンを取り出しました。
ぺろっ。
女子 「あまーい」
女子 「美味しいね」
アンナ「これをもう少し煮詰めて乾燥させれば、砂糖が完成します」
アンナ「暑いので外に出ましょう」
アンナ「お邪魔しました」
外に出ました。涼しく感じます。
次は畜産工房に向かいます。
*
アンナ「ここが畜産工房です」
アンナ「こんにちは、見学させてください」
従業員「どうぞ」
アンナ「例の試作品は出来ていますか?」
従業員「はい。出来ています」
アンナ「試食してもいいですか?」
従業員「はい、用意します」
私は試食品をアイテムボックスに収納しました。
アンナ「ここでは牛乳を加工して、チーズ、バター、ヨーグルト、
生クリームなどを作っています。もちろん手作りです」
アンナ「作られた乳製品は、街に出荷されます」
アンナ「ここでは様々な乳製品を作っていますが、
その過程で副産物もできます。例えばバターや生クリームを
作ると低脂肪乳が出来ます」
アンナ「低脂肪乳は、水代わりに飲んだり、カフェオレ用として
街に出荷しています」
アンナ「また、チーズ作りの副産物は乳清またはホエイと呼ばれています。
その乳清を加熱すると乳清チーズを作ることができます。
有名なのはイタリアのリコッタチーズです。この工房でも
作っています」
アンナ「そして今回皆さんに試食してもらうのがこちらです。
ノルウェーの乳清チーズ、イェトストです」
わたしは皿に盛られたイェトストを生徒達に見せました。キューブ状にカットしてあります。
アンナ「手で摘んで食べてください」
ぱくっ。
女子 「美味しいー」
女子 「なにこれ」
女子 「塩キャラメルみたい」
イェトストはヤギの乳から出来た乳清をキャラメル状になるまで煮詰めたものです。
ブラウンチーズと呼ばれることもあります。色は茶色で、味は塩キャラメルに似ています。
そのまま食べたり、スライスしてパンにのせたり、お菓子作りの使われます。
男子 「うめえ」
男子 「これがチーズかよ」
男子 「完全にキャラメルだろ」
*
私たちは試食をしたあと、畜産工房を出ました。