192 王都 4(別視点)
* 別視点 ポール side *
夕刻になった。
私と妻のクレアは晩餐会の会場前にいる。
子供は晩餐会に入れないので娘のリリーは屋敷に帰らせた。
宮廷料理より、街の料理の方が美味しいと言ったら、納得して帰ってくれた。
私と妻は職員の案内で席に着いた。私たちは職員からテーブルマナーの説明を受けた。
宮廷料理のテーブルマナーは、基本的に手で食べる。スプーンを使うのはスープだけだ。
今回はアンナスプーンが用意されているので、それを使ってもいいし、手で食べてもいいそうだ。
そのため、フィンガーボウルとナプキンも用意されている。
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まずは、銅製のカップにワインが注がれた。だが、まだ飲んではいけない。
全員のカップにワインが注がれた。
職員「国王陛下、お妃様、ご入場」
私たち貴族は起立する。そして右手を胸に当て、頭を垂れる。
国王「座ってくれ」
貴族が着席した。
国王「今宵の晩餐は、新しい直轄領サンローラを知ってもらうために催した。
レシピはサンローラに登録してあり、特産品も使っている。斬新な料理ばかりだ。
歓談しながら味わってほしい」
陛下がワインカップを手にした。
そして貴族もワインカップを手にする。
国王「サンローラとタマイサ王国の発展を願い、乾杯」
貴族「乾杯」
ワインを飲む。高級なワインだ。うまい。
乾杯のあとは、料理が運ばれてくる。
最初の料理はピザだ。
チーズは少量出回っているが、好んで食べる人は少ない。
調理法が斬新、しかもうまい、そう驚いている貴族が多い。
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次はミネストローネとパンが運ばれてきた。
野菜のスープは珍しくないが、ブイヨンを使ったコクのあるスープだ。パスタも入っている。
パスタは、今までにない新しい食材だ。スープなのに食べ応えがある。
パンはバゲット、ソバ粉のパン、ライ麦を使ったパンの三種類。保存性を考慮した固いパンではない。
スープにつけなくても食べられる美味しいパンだ。
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次はオムレツ。中に刻んだ野菜とベーコンが入っていて、デミグラスソースがかかっている。
高級食材の卵、手の込んだ美味しいソース、貴族達が驚いている。
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次はコトレッタ。牛肉に衣をつけて、揚げ焼きにしたものだ。
食べやすいように切ってあり、トマトソースがかかっている。衣はサックリ、肉は柔らかい。
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次はパスタ、ジェノベーゼ。香草でソースを作りパスタに絡めて食べる。
パスタは様々な調理法があり、乾燥させれば保存ができる。今後、注目の食材になるだろう。
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次はスコッチエッグ。輪切りにしてある。二品目の卵料理だ。
卵を包んでいる挽肉はくず肉とも呼ばれ、貴族が食べることはない。
しかし斬新で、うまい料理だ。挽肉に対する認識が変わることだろう。
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次はカレーライス。鼻をくすぐる香辛料の香りが食欲をそそられる。
今回初めて米を見た貴族が多いだろう。
カレーはパンと一緒に食べても美味しいが、米との相性がとても良い。
今後、米を使った料理は注目されるに違いない。
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次はデザートのアイスクリーム。器の盛られて、焼き菓子が添えられている。
王都にもアイスキャンディーがある。しかし牛乳を使った冷たい菓子はない。
多くの貴族が驚いている。私も街で最初に食べたときは衝撃だった。
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最後に出て来たのは、カフェオレとチョコレート。
通常、料理の最後に出す飲み物は紅茶である。王都ではコーヒーがまだ普及していない。
チョコレートは幻の菓子と呼ばれている。王都では入手困難である。
カフェオレとチョコレート、どちらも初めて口にする貴族が多いはずだ。
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今回の料理は、今までにない革新的なものばかりだ。
貴族はもちろん、陛下とお妃様も満足した表情をしておられた。
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職員「「国王陛下、お妃様、ご退場」
私たち貴族は起立、右手を胸に当て、頭を垂れる。
こうして晩餐会は終了した。
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* 別視点 マギー side *
私は王都に到着したその日に国王様に拝謁した。
そろばんなどの説明が終わり、肩の荷が下りてほっとした。
私には翌日からは別の仕事がある。それは、そろばんの指導を数日間行うこと。
午前中は王城、午後はギルドでそろばんの使い方を指導する。
私は、あらかじめ説明書を用意しておいた。
足し算引き算はすぐに理解してもらえたが、大変だったのはかけ算と割り算。
これは九九を理解していないと出来ない。
やはり九九の早見表を用意しておいてよかった。
教えるのは数日あれば充分。あとは練習あるのみ。
そろばんを習得すれば、計算業務が大幅に改善するので、皆さんのやる気がすごい。
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私の仕事は、そろばんの指導以外にもう一つある。それは王城で作る料理の味見と助言。
午前中に王城でそろばんを教えたあと、厨房で料理の助言をする。
私は調理をせず、味見をするだけ。完成した料理が次々運ばれてくる。
少量ずつだけど品数が多いのでお腹いっぱいになる。
しかもデザートの味見もしなければならない。太りそうで怖い。
でも美味しい。どれも街で食べる料理と同じ味。さすが、王城の料理人ね。
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晩餐会の翌日、朝食のときにお代官様から二つのことを告げられた。
一つは街の名前がサンローラになったこと。素敵な名前ね。
もう一つは、お代官様が叙爵して子爵になったこと。
男爵を飛び越えて、子爵に任命されることは滅多にないらしい。
おめでとうございます。
しかし、叙爵の功績はすべてアンナさんによるものだとおっしゃっていた。
お代官様は嬉しいと言うより、戸惑っている感じでした。
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そして翌日、私たちはサンローラの街に帰ることになりました。
数日でしたが、王都での生活はとても有意義でした。
私たちは馬車に乗りました。
ポール「サンローラに向けて、出立」
私たちは馬車でサンローラの街に帰ります。




