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180 教師 (別視点)

* 別視点 加藤千晶 side *


 話は数日前に(さかのぼ)る。


 ここは、とある高校の職員室。授業が終了した時刻。


 2年A組の副担任、加藤千晶(ちあき)(24歳女性教師)は、悩んでいた。

 隣の席には担任の志村健一(けんいち)(30歳男性教師)が座っている。



*    *    *



 どうしよう。

 私一人の力では、どうしようもない。

 新型ウイルスが流行しているので、修学旅行は(あきら)めるしかないのかな。

 でも生徒たちがかわいそう。


 私は、修学旅行について生徒と保護者に意見を聞いた。その結果は・・・

 生徒は全員、修学旅行に行きたいと答えた。

 保護者は、「修学旅行を実施してほしい」「修学旅行を中止にしてほしい」

 と意見が分かれた。


 私個人としては、修学旅行を実施したい。

 生徒たちの喜ぶ顔が見たい。それに私自身、旅行がしたい。

 この閉鎖的な生活には、もううんざりしている。


加藤「志村先生、修学旅行をどう思いますか?」

志村「賛成、反対、どちらでもないです。学校の方針に従うだけです」


 志村先生、こういう人なのよね。なんか冷めていると言うか、機械的と言うか。

 悪い人では、ないんだけど・・・


 私は周囲から熱血教師に見られているらしい。自分ではそう思っていないけど。

 志村先生と私、バランスが取れているから同じ組の担当になったのかな。


 それより、学校側はどうするつもりなの?

 校長先生と教頭先生は、検討すると前に言っていたけど、日本人の「検討する」は「やらない」と同じ意味だよね。

 もうこれ以上厄介ごとを増やしたくない、みたいな感じだったし。


 またネットで宿泊先を探してみよう。個人的に情報収集するなら、問題ないでしょう。


     *


 海外は、だめね。東洋人が感染源だと言ううわさのせいで、差別されたり暴行を受けたことがニュースになっていたし。

 日本人が集団で歩いていると何をされるかわからない。やはり海外は無理ね。


 国内は営業を続けているところがあるけど、小さな宿ばかり。大きなホテルは、団体客お断り。


志村「また、宿泊先を探しているんですか?」

加藤「はい。ただ調べているだけです」

志村「宿泊出来て、感染もしない、そんな魔法(・・)みたいな旅行先があれば、いいですね」


 うわー、なにそれ? (いや)み?


 魔法・・・


 そう言えば、そんなサイトがあった。胡散(うさん)臭いからスルーしたけど。

 あのサイト、また見てみようかな。


     *


 これだ。異世界ツアー、2泊3日、15万円。

 なに? 異世界って? どこに行くの? 本当に異世界に行くわけじゃないでしょ。

 ツアー先は異世界・・・社名も電話番号もないけど・・・

 どこかの島にあるレジャー施設かな? これ行った人いるの?


 検索・・・


 いた! ほんとに? 写真がある。 一人じゃない・・・何人かいるみたい。

 行き先は、海、滝、湖、草原、森、マンモス? 恐竜? なにこれ? アトラクション?

 この人たち、グルなのかな。


 どうしよう・・・


 フリーメールのアカウントを作って、問い合わせしてみようかな。

 それなら学校に迷惑かからないし。学校名を出さなければ平気よね。


 使い捨てのアカウントでメールしてみよう。


     *


 何回か、メールをしてわかったことは・・・


 ツアーガイドの名前がアンナ。でも女性とは限らないよね。

 支払いは前金制で現金、振込不可。おカネを持ち逃げする気かな。

 現地で日本円は使えない。食事は外国の料理。やっぱり海外なのかな。


 行き先は異世界、観光地の移動は魔法、それって・・・


 『着ぐるみの中の人は、男性ですか? 女性ですか?』

 『人が入っているわけではありません。彼らはキャラクターです』・・・みたいな。


 客の夢を壊さないコンセプトかもしれないね。


 あと重要なことは、ウイルスの感染リスクについて。

 質問したら、ウイルスの感染リスクは無いって、断言した。

 どうして断言できるの? 施設を貸し切りにするのかな?


 大体わかった。謎はたくさんあるけど。


 聞きたいことは、これくらいかな。

 最後にちょっと意地悪な質問をしてみようかな。


私  「事前に現地を下見することは、可能ですか?」


アンナ「可能です」


 え? 可能? ほんとに? 国内かな? ひょっとしてVR?(ヴァーチャルリアリティー)


 まさか、事前に現地を下見できるとは、想定していなかった。どういうこと?

 どうしよう。

 私、何かヤバイことに首を突っ込んでいるのかな?

 ちょっと冷静になって考えよう。


私  「現地の下見を検討(・・)します」


アンナ「わかりました」


 本当に検討するよ。遠回しに『やらない』と言っているわけじゃないよ。


     *


 一日考えた結果。


私  「現地の下見を希望(・・)します」


アンナ「歓迎いたします。日時と集合場所を指定してください」


私  「次の日曜日、午前10時、新宿アイランドタワー、LOVEの前」


 約束しちゃった。もう後には引けないよ。

 あとは、志村先生にこのことを話せば、心配して一緒に来てくれるはず。


     *


志村 「えっ、異世界に行く? 下見に?」

私  「はい」

志村 「それ、(だま)されていますよ」

私  「おカネは払いませんから、大丈夫です」

志村 「いつ行くんですか?」

私  「次の日曜日、午前10時、新宿アイランドタワー、

    LOVEの前で待ち合わせです」

志村 「明日ですか?」

私  「はい・・・心配いりません。大丈夫です」

志村 「どうなっても知りませんよ」


     *


 視察の当日、日曜日、午前9時50分。

 新宿アイランドタワー、LOVEの前に到着したけど・・・


私  「志村先生、おはようございます」

志村 「のんきですね」

私  「相手がどういう人か、見に来たんですか?」

志村 「ぼくも一緒に行きます」


 思惑どうり。


私  「心配いりません。相手は女性ですから」

志村 「相手は女性を語った男性だと思いますよ」

私  「いいえ、女性です。私は(かん)がいい方です」

志村 「女の勘ですか? 宛てになりませんよ」

私  「10時になれば、わかります」


     *


 午前10時。



*    *    *




アンナ「ようこそ、異世界へ」

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