174 街の案内です 4
ここはワウラの街、アキノ商会の前です。
私たちは猫耳亭から歩いてここに来ました。
もっと大きなお店だと思っていました。
アキノ「みっともないボロ屋ですみません。
隣の土地と建築資材は確保しているんですが、
職人を手配できなくて、この有様です」
アンナ「そうだったんですか」
隣の空き地には、建築資材が置いてあります。
アキノさんは木箱を下ろしました。
アキノ「アンナさんに紹介します。妻のリンダです。」
リンダ「リンダです。アンナさんにお会いできた光栄です」
リンダさんは30代前半のきれいな人です。
アンナ「アンナです。妹の陽子、友達のローラです」
陽子 「陽子です。よろしくお願いします」
ローラ「ローラよ。よろしくね」
わたしは商品を見せてもらうことにします。
この商会で取り扱う商品は主に食材と雑貨です。
食材は、アンナ村で仕入れたものです。砂糖、乳製品、玉子、香草など。
猫耳亭のチョコビスケットも売っています
雑貨は、わたしがギルドに登録したものばかりです。
先割れスプーン、ピーラー、遊戯盤ゼンセン、けん玉など。
ファイヤースターターも売っています。これもわたしがギルドに登録したものです。
これは着火の道具です。マグネシウム合金のロッドを鉄製のストライカーで擦るとたくさんの火花が出ます。
火打石で火を起こすのは大変なので、食堂や宿の負担を減らすために、鉄工所で作ってもらいました。
わたしが商品を見ている間に、お客さんが次々と商品を買っていきます。
アキノ「見ての通り、アンナさんに関係したものばかりです。
ここはアンナさんの店みたいなものです」
いえ、それは違います。
ローラ「これがほしいわ」
アンナ「けん玉を買うんですか?」
ローラ「これなら一人でも遊べるわ」
アキノ「はい、どうぞ」
ローラはおカネを支払って、けん玉を受け取りました。
ローラはけん玉を見て、ニコニコしています。
アンナ「けん玉は、ポーチに入りませんね。わたしが預かります」
ローラ「お願いするわ」
*
アンナ「アキノさん、この中でどれが一番売れていますか?」
アキノ「どれも売れていますが、最近特に売れているのがカレーのルウです。
これがあれば、猫耳亭と同じカレーが家庭や野営で食べられますから」
アンナ「考えましたね」
アキノ「ですが一番売れてほしいのは、アンナ村の食材です。
これが売れると、スラム時代のお世話になったジミーさんに
恩返しができます。それに、食材は消費するものです。
継続的に売れば、うちとアンナ村は安泰です」
アンナ「そうですね」
アキノ「実は、アンナ村に商会の支店を出す予定なんですよ」
アンナ「そうなんですか」
アキノ「はい。支店は15歳の息子、ラルフに任せる予定です」
15歳で支店長ですか。
アキノ「最近、アンナ村に行かれましたたか?」
アンナ「これから行く予定です」
アキノ「そうですか。驚きますよ」
気になりますね。行ってみましょう。
アンナ「私たちはこれからアンナ村に行きます」
アキノ「はい。またお越しください」
アンナ「失礼します」
私たちは歩いてアンナ村に向かいます。
*
アンナ村に到着しました。
驚きです。ここは近いうちに街になるかもしれません。建築中の建物たくさんあります。
住居が不足しているせいでしょうか。テントで生活している人も多いです。
少し前まで、スラムだったのがうそのようです。
私たちは村の中を見て回ります。わたしを知っている村の人は挨拶をしてくれます。
村の代表者ジミーがいました。
アンナ「ジミーさん、こんにちは」
ジミー「アンナさん、こんにちは。今日はお連れの方がいますね」
アンナ「はい。紹介します。妹の陽子、友達のローラです」
陽子 「陽子です。よろしくお願いします」
ローラ「ローラよ。よろしくね」
ジミー「私は村長のジミーです。そして彼はアキノさんの息子、ラルフ君です」
ラルフ「初めまして、ラルフです。
父からはアンナさんの話をよく聞かされていました。
これがアキノ商会の支店です。もうすぐ完成します」
アンナ「本店よりも大きいですね」
ラルフ「はい。街の本店も立て替えればここより大きくなります」
アンナ「それから・・・ジミーさん、村長になったんですか?」
ジミー「はい。詳しいことは集会所でお話します」
私たちはラルフさんと別れ、ジミーさんの案内で集会所に行きました。
*
ジミー「さあ、どうぞ」
私たちは集会所の中に入りました。
ジミー「狭くてすみません」
中は机や棚が増えています。
ジミー「いま職員は外出中ですが、ここが臨時の村役場になっています」
私たちは席に座りました。
ローラ「おやつが食べたいわ」
アンナ「はい」
わたしは、生クリームを添えた芋ようかんと冷たいソバ茶を出しました。
私たち「いただきます」
ジミー「いただきます」
ぱくっ。
ジミー「美味しい菓子です。それにこのお茶、ソバのお茶ですか?」
アンナ「はい。そうです」
ジミー「風味の良い美味しいお茶です」
アンナ「ありがとうございます」
*
私たちはおやつを食べながら、ジミーさんから村のことを聞きました。
ここが正式に領の村として登録されたこと。村の名前は「アンナミラ」になったこと。
ジミーさんが村長に任命されたこと。周辺の街から出稼ぎや移住者が増えていること。
ワウラの街の家を売って、この村に住む人がいること。
代官の指示で農作物の生産を増やすこと。小麦の栽培を始めること。村の納税は来年からになること。
村の運営と砂糖工房を管理するため、代官が職員を派遣したことなど。
ジミー「村が発展したのは、全てアンナさんのおかげです」
アンナ「いいえ。ジミーさんや村の人が努力したからです」
わたしは食材がほしくて、仕事を丸投げしただけです。大したことはしていません。
ジミー「それから、まだ正式な決定ではありませんが、領と街の名前が代わるそうです。
神罰が下った伯爵の名前では外聞が悪いとお代官様がおっしゃっていました。
名前はサンローラになるそうです」
翻訳魔法によるとサンローラとは、ローラの光りという意味です。
わたしはローラの顔をちらっと見ました。特に気にせず、芋ようかんを食べています。
ジミー「実はアンナさんに相談があります」