011 異世界ツアー初日です。9
ここは宿の2階、令奈さんの部屋です。
デザートが食べ終わりました。
5人 「ごちそうさまでした。」
わたしは食器を片付けて、テーブルと椅子を元に戻しました。今、5人でくつろいでいます。
アンナ「本来なら、このあとはお風呂、と言いたいところですが・・・」
令奈 「ないんだよね。」
アンナ「はい・・・お風呂は作れるんですが、下水の処理が出来ないんです。」
秋恵 「だからトイレがポットン式なのね。」
菜々子「日本の常識を異世界に当てはめるのはダメだと思う。」
美波 「そう、そう。」
アンナ「そう言っていただけると助かります。
魔法で体も服もきれいになりますので、ご勘弁ください。」
4人 「はい。」
令奈 「あたし、ちょっとトイレに行ってくる。」
アンナ「丁度よかったです。皆さんに見せたいものがあります。一緒に外に行きましょう。」
わたしは、ライトの魔法で皆さんを先導します。
アンナ「暗いので、足元にご注意ください。」
外階段を降りて、裏庭に出ます。
菜々子「あ、すごい。」
アンナ「気付きましたか・・・皆さん、上をご覧ください。」
秋恵 「なにこれ! すごい!」
令奈 「きれい。」
美波 「・・・・」(言葉が出てこない)
令奈 「異世界の夜空って、こんなにきれいなの?」
アンナ「はい。しかし地球でも街明かりがない夜空は、星がたくさん見えますよ。」
美波 「星って、あまり気にしたことなかった。」
アンナ「ただ、地球にアレはありませんが・・・
あちらをご覧ください。」
秋恵 「すごい!」
菜々子「月がふたつ・・・」
令奈 「みんな感動しているところ、ごめん。トイレに行ってくる。」
秋恵 「もー。雰囲気、台無し。」
アンナ「トイレはライトの魔法使ってください。」
令奈 「はーい。」
皆さん無言で夜空を見上げます。
わたしはレジャーシートを敷いて、毛布を4つ並べます。
アンナ「首が疲れると思いますので、こちらに
寝そべってください。」
菜々子「そのほうが楽だね。」
秋恵 「うちも。」
美波 「スマホできれいに撮れるかなー。」
アンナ「たぶん難しいと思います。」
カシャ。
美波 「月は小さく写ってるけど、星はダメ。」
アンナ「皆さん、自分の目に焼き付けましょう。」
菜々子「そうだね。あっ・・・流れ星!」
秋恵 「見えた!」
美波 「どこどこ?」
菜々子「もう消えちゃった。」
美波 「見たかった。」
令奈 「なになに。流れ星って聞こえたけど。」
秋恵 「もう遅い。」
アンナ「令奈さんもこちらにどうぞ。」
皆さんはシートに寝そべって、おしゃべりです。
わたしもシートに腰を下ろしました。
令奈 「今日は、色々あったよね。」
秋恵 「色々あり過ぎ。」
美波 「まさか、日比谷公園から異世界に行くとは思わなかったよ。」
令奈 「あれは衝撃だった。」
みなみ「そのあと、魔法、きれいな街並み、美味しい料理、ノエルちゃん。」
令奈 「異世界に来られて本当によかった。」
菜々子「誰だっけ? 詐欺犯を捕まえようって言った人は。」
令奈 「みんな納得したじゃん!」
秋恵 「誰だっけ? 街を見て、あれは撮影のセットだって言った人は。」
令奈 「もうやめて!」
菜々子「アンナさん、明日はどこに行って、何するの?」
アンナ「それは・・・明日になってからのお楽しみです。」
美波 「楽しみ。」
秋恵 「なんかちょっと冷えてきた。」
令奈 「そろそろ戻ろうか。」
美波 「うん。」
菜々子「そうだね。」
アンナ「皆さんにこれを渡しておきます。パジャマの代わりに着てください。」
リネン製のワンピース型ルームウエアです。
そのあと、令奈さん以外の3人はトイレに行って、部屋に戻っていきました。
わたしも部屋に戻ります。
ポロロ、ポロロ、ポロロ・・・
電話です。
ローラ「ウクライナ料理、美味しかったわ。」
アンナ「ありがとうございます。」
ローラ「以前話していたスメタナって、あれのこと
だったのね。」
アンナ「はい。」
ローラ「あの料理にスメタナは欠かせないわね。」
アンナ「ローラのおかげです。」
ローラ「次の料理も楽しみにしているわ。」
アンナ「はい。」
通話が終了しました。
実は、わたし一人でスメタナを作ることは出来ませんでした。
スメタナを作るには、特別な乳酸菌が必要です。その乳酸菌は女神ローラに頼んで探してもらいました。
ちなみにその乳酸菌とは、カスピ海ヨーグルトを作るクレモリス菌のことです。
わたしはツアーガイドですが、今日は私自身が旅を楽しみました。
異世界の魅力を改めて再確認しました。
現金収入もあり、今まで買えなかった備品も、ようやく買えるようになります。
今日する仕事は、もうありません。今のうちに必要なものをお取り寄せ(召喚)しましょう。
* * * * *
深夜
まだ話し声が聞こえます。様子を見に行きましょう。
わたしは部屋を出ます。
コン、コン、コン。
アンナ「アンナです。」
令奈 「どうぞ。」
アンナ「まだ寝ないんですか?」
令奈 「今日の出来事を振り返ったら興奮して眠れなくって。」
菜々子「私も。」
アンナ「スリープ」
静かになりましたが・・・隣の部屋も起きているようです。
コン、コン、コン。
アンナ「アンナです。」
美波 「どうぞ。」
アンナ「まだ寝ないんですか?」
秋恵 「寝るのがもったいない。」
美波 「私も。」
アンナ「スリープ」
やっと静かになりました。
明日の朝は行くところがあります。寝坊は許しません。
異世界ツアー初日が、ようやく終わりました。