010 異世界ツアー初日です。8
ここは宿の中です。
わたしは1階に降りていきました。食堂内に客はいません。
外の様子を見ると人が並んでいます。ダノンさんの食堂と同じ状況です。
わたしは厨房に行って、尋ねました。
アンナ「まだお客さんを入れないんですか。」
エマ 「食事は、宿のお客さんが先なんです。」
アンナ「各部屋に運ぶんですか。」
エマ 「はい。」
アンナ「わたし、手伝います。」
エマ 「すみません。お願いします。」
宿が忙しくなったのは、多分わたしの責任です。
わたしはエプロンを借りて、料理を運ぶことにしました。
出来上がった料理をアイテムボックスに入れます。
エマ 「アンナさん、これもお願いします。」
それは火のついた灯りです。夜になったら、室内やトイレで使用するそうです。
全てアイテムボックスに入れて、2階の廊下に・・・
『転移』
* * *
各部屋に運び終わり、令奈さんの部屋に行きました。
部屋のテーブルは小さいのでアイテムボックスに片付けます。
代わりにアイテムボックスから、私物のテーブルと椅子を出しました。
1階がざわざわしています。食堂のお客さんが入って来たようです。
まだ忙しさは続くと思いますが、わたしはツアー客が優先です。
わたしは、アイテムボックスから食事を出しました。
夕食は、ウクライナ料理です。
メニューは、チキンキエフ、ボルシチ、パンプーシュカ、ヴァレニキです。
美波 「ちょっと待って。写真撮りたい。」
カシャ。
アンナ「食事にしましょう・・・いただきます。」
4人 「いただきます。」
ぱくぱく・・・
4人 「美味しい。」
わたしは、料理の説明をしました。
皆さんは食べながらわたしの説明を聞いています。
* * *
チキンキエフ(キエフ風カツレツ)
ハーブバターを鳥ムネ肉で包み、衣をつけて、揚げ焼きにしたものです。
キエフという首都の名前がついていますが、発祥については諸説あるそうです。
ボルシチ
ビーツ、野菜、肉を煮込んだスープです。
ロシア料理として有名ですが、実はウクライナ発祥の料理です。
パンプーシュカ
丸い小さなパンです。
オーブンで焼き上がった後に、にんにく・香草・塩・食用油で作ったソースをパンの上に塗ります。
今回はオーブンで焼きましたが、油で揚げるものや甘いパンプーシュカもあるそうです。
ヴァレニキ(ワレニキ)
ウクライナの水餃子です。
店や家庭ごとに、入れる具材や味付けが違うそうです。
ヴァレニキの作り方
今回の具材はジャガイモです。
まず小麦粉を捏ねて皮を作り、ジャガイモは蒸して潰しておきます。
次に、フライパンに油をひき、みじん切りの玉ねぎを炒めます。飴色になったら、香草や調味料を加えてオニオンソースを作ります。
このソースをは半分だけ、ジャガイモと混ぜて、皮で包んで茹でます。
茹で上がったら、残しておいたオニオンソースをからめて完成です。
* * *
アンナ「ここにスメタナというサワークリームがあります。
水餃子に付けたり、ボルシチに入れると美味しいですよ。」
今回、カトラリーはわたしが用意しました。
わたしは、この世界でスプーン以外のカトラリーを見たことがありません。
中世のヨーロッパ同様、スープ以外は手で食べるようです。
美波 「この焼きたてのパン、すごく美味しい。」
秋恵 「パンとボルシチの相性がいいよね。」
菜々子「このボルシチ、私が以前食べたのと色が全然違う。」
アンナ「多分それは、トマトで作ったボルシチもどきだと思います。」
かつて日本では、ビーツの入手が困難だったので、トマトで代用したという話を聞いたことがあります。
令奈 「この水餃子、味がしっかり付いているから、タレがなくても美味しいね。」
皆さん、ウクライナ料理が気に入ったようです。
日本人が知らない料理を作るのは大変ですが、魔法とインターネットがあればなんとかなります。
* * *
食事が終わりました。
5人 「ごちそうさまでした。」
わたしは食器をアイテムボックスに片付けて、人数分の紅茶を出しました。
コンコンコン。
エマ 「エマです。アンナさんはいらっしゃいますか?」
アンナ「はい。どうぞ。」
エマさんが部屋に入ってきました。
エマ 「アンナさん、先ほどはありがとうございました。
これはサービスです。皆さんで召し上がってください。」
アンナ「はい。いただきます。」
テーブルの上にヴァレニキ(水餃子)が置かれました。
わたしは人数分のフォークを出しました。
アンナ「皆さん食べてください。これはデザートです。甘いですよ。」
4人 「甘い?」
皆さん、おしゃべりしながら食べ始めました。
アンナ「エマさん、宿が忙しくなったみたいですけど、原因はわたしが教えた料理ですか?」
エマ 「はい・・・そうです。」
エマ 「最近では料理目当てに宿泊されるお客さんもいて、毎日満室になってます。」
アンナ「ご迷惑でしたか?」
エマ 「いえ、とんでもないです。むしろ売り上げが増えて、家族全員喜んでいます。」
アンナ「そうですか。よかったです。」
エマ 「少し前に一人雇ったんですけど、もうひとり雇うことを考えています。」
アンナ「そのほうがいいと思います。」
エマ 「はい・・・それでは、失礼します。」
わたしはエプロンをエマさんに返しました。
エマさんは受け取り、1階に戻っていきました。
* * *
皆さん、デザートのヴァレニキ(水餃子)を食べています。
今回の甘いヴァレニキの中には、チェリージャムとカッテージチーズが一緒に入っています。
ウクライナでは、甘いヴァレニキも人気があるそうです。
令奈 「これ美味しい。」
菜々子「甘くて、美味しい。」
美波 「デザート水餃子も美味しいよね。」
秋恵 「うん・・・もうお腹いっぱい。」
デザートが食べ終わりました。