4 臨時班長会議
シンクは高速道路を移動していた。
新しい愛機kawasakiZZR400に乗って日野インターから狩場方面へ。
料金所を過ぎてすぐの首都高でK3からK1に入る。
PF横浜インターから一般道に降りると目の前はフレンズ本社のあるラバース横浜ビルだ。
地下駐車場に降り適当にバイクを停めて一般用エレベーターでまず五階を目指す。
ショッピングプラザの中を足早に通り抜ける。
別の場所からもう一度エレベーターに乗って、今度は七十階へ。
ここから上は総合エンターテインメント企業であるフレンズ社の本社だ。
いつものように左右から現れた黒服に身分証を見せて三回目になるエレベーターに乗り込む。
最上階の一三〇階で降りる。
目の前にあるのは社長室だ。
シンクはおざなりなノックをして中に入った。
三方向がガラス張りになっていて窓からは県下が一望できる。
いつも思うのだが、一般開放して展望室にでもした方がいんじゃないか?
なにもこんな来づらい所に無理やり居を構えなくてもいいだろう。
「遅い、何やってたんだ!」
そんなことを考えていたらいきなり怒声が飛んできた。
シンクは眉をしかめて不快感を現す。
こっちは集合が掛かってからすぐに来てやったんだぞ。
まあ、途中で牛丼屋に寄って、コンビニでマンガ雑誌を立ち読みしてたけど。
「道が混んでたんだよ」
適当に嘘をついて用意されていた椅子に座る。
正面には先ほど怒鳴り声をあげたフレンズのお飾り社長。
どう見ても中学生くらいで、しかも髪の毛は派手な銀色に染めている。
こいつはルシフェル(笑)とか名乗ってる厨二病野郎だ。
しかしこんな奴でもシンクにとっては上役である。
社長室にはルシフェルの他にも二人いた。
退屈そうに机に顎ひじをついているサラサラの金髪に気崩した黒のスーツの男。
そしてセミロングヘアに室内なのに黒いシルク帽をかぶっている女。
アミティエ第二班班長テンマと、第三班班長アオイである。
フレンズ社はラバースコンツェルンの傘下企業である。
その責任者であるルシフェルは『アミティエ』という能力者組織を統括していた。
この部屋に入れるのは社長以外では新人かそのナビゲーター、そして四人の班長のみ。
シンクがこの部屋に来たのはアミティエに加入した日以来である。
そして今度は四班の班長として戻ってきた。
「で、わざわざ呼びつけておいて何の用だ?」
「今から説明する! 黙って聞け!」
普段は芝居めいた偉そうなもの言いをするルシフェルだが、今日は余裕が見られない。
からかうのも面白そうだが、これ以上怒鳴られたらキレそうなので黙っていることにした。
「待てよ、まだショウの奴が来てないぜ」
話を始めようとしたルシフェルをテンマが遮った。
確かに、第一班の班長がまだ来ていない。
シンクはこれが班長になって参加する初めての会議だが、ショウという男がいつも会議に遅刻するという話はアオイが愚痴っぽく言っていたから知っている。
てっきり今日も遅刻なのだろうと思ったのだが、ルシフェルは苦々しく吐き捨てるように言った。
「ショウは来ない」
「なんだよ。また海外遠征中か?」
「今日はその件に関しての話なんだよ!」
いいから本題に入らせろとばかりに苛立ちを露にするルシフェル。
テンマが黙るのを確認すると彼は神妙な面持ちで喋りはじめた。
「ショウが行方不明になった。直ちに全ての班が総力を挙げて捜索しろ」
簡潔な話に三人は反応することも忘れて黙り込む。
最初に口を開いたのはやはりテンマだった。
「どういうことだよ。きちんと説明しろ」
「言葉通りだ。第一班のメンバーも彼の行方を知らない」
「状況を詳しく聞かせてくれないと捜索なんてできないわ。何の前触れもなく突然いなくなったわけではないんでしょう?」
今度はアオイが問いかける。
ルシフェルは手を額に当ててしばし押し黙る。
やがて何かを覚悟するように視線を隠したまま喋りはじめた。
「前の作戦行動から帰ってきていないんだよ」
「どうせまた早々と仕事を終わらせてしてその辺をうろついてるんだろ。そのうちひょっこり帰ってくるんじゃねえの?」
「いなくなったのはショウだけではない。彼と共に作戦に当たった『最初期からの能力者』が誰ひとり帰って来ていないんだ!」
堪え切れなくなったのかルシフェルはまた怒鳴り声を上げる。
テンマとアオイはそれを聞いて難しい表情をしたが、シンクにはよく意味がわからない。
「詳しく聞かせろ」
テンマの声は小さく、しかし静かな憤りを堪えているようだった。
「お前たちには秘密にしていたが、先日の本社会議でとある作戦が決定された。かつてない重要な指令なので組織の枠を超えた最強の五人が集められたんだ」
「わからないわね。彼らを投入するほどの作戦って何なのかしら?」
「ALCOの殲滅だ」
この日本において現状、圧倒的な影響力を持っている大企業連合体ラバースコンツェルン。
それに反感を持ち電波ジャックなどの活動を行っているテロ組織。
通称ALCOと呼ばれる集団だ。
その組織は能力者で構成された自前の戦力を持っているらしい。
アミティエはもちろん、他の能力者組織も何度も煮え湯を飲まされたと聞く。
「きっかけは先日のポシビリテが壊滅した一件だ。首謀者の折原を裏で手引きしていたのがALCOであったことが判明し、もはや一刻の猶予もないと判断して殲滅が決定されたんだ」
ポシビリテという名前を聞いてシンクは顔をしかめた。
あの時の事件は忘れたくても忘れられない。
友人の裏切りと死。
あの事件はシンクの心境に大きな変化を与えた。
あれがなければ、自分は今この椅子に座っていることもなかっただろう。
先ほどから一度もシンクと視線を合わせようとしない第三班班長アオイと仲違いすることも。
「わかんねーな……何でそこまでする必要があるんだ? テロ組織ったって電波を乗っ取ってネガキャンするか、俺たちの邪魔をする程度じゃねーか。ほとんどの一般市民は何とも思ってねーぞ」
「僕が恐れているのはポシビリテの時と同じようにショウが洗脳されることだ」
「は?」
シンクの喉から思わず声が出た。
ルシフェルの言っている言葉の意味がわからなかったからだ。
正面の小憎らしい顔を睨みつけると、ルシフェルは「何を当たり前のことを聞いている?」とでも言いたげに言葉を返してくる。
「口車か、薬物か装置か、もしくは何らかの思考制御能力か。折原やオムがラバースに反旗を翻した時のようなことがショウの身に起きないとは限らないだろう」
違う。
首謀者の折原とかいう奴のことは知らない。
だが元第四班班長オムこと椎名亮は洗脳なんかされちゃいなかった。
あいつが何を考えていたのかは最期までわからなかったけれど、洗脳なんかされてるわけじゃないことくらい、実際に向きあったシンクにはわかる。
ここでそれを論じることは無意味だ。
ルシフェルをぶん殴ったところで死んだ友が返ってくるわけでもない。
「というわけで、すべての班は現時点をもって通常任務を停止しろ。SHIP能力者を発見した場合は所在のみ確認して事件を起こさない限りは放っておけ。一班は第二班預かりとして指揮はテンマに任せるから好きに使っていい……話は以上だ。直ちにそれぞれの班に戻って班員に指示を出せ」
その言葉を最後にルシフェルはさっさと退出し、短い臨時班長会議は終了した。




