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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十話 エクスキューション
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8 後始末

 破砕された鎧は分解されて元の形に戻る。

 二つの≪白き石の鎧≫のジョイストーンを回収したアオイは、さっきから場所もわきまえずにいちゃいちゃしているシンクとレンの傍に近づいた。


「いちゃいちゃしてねえよ!」

「別に何も言ってないじゃない」


 よくわからない文句を言う後輩だ。

 だが、今回も彼はずいぶんと活躍してくれた。


 オムをおびき寄せる程度の役目を務めてもらえればよかったのだが、まさか彼に勝ってしまうとは。

 いくらDリングを貸したとはいえ予想外の大金星である。


「っていうか貴方、大丈夫なの? ずいぶんとボロボロだけど」

「なんてことねえよ、これくら……いっ」

「シンくんあぶない!」


 立ち上がろうとして足元がふらつき、シンクはレンに体を支えられた。


「ほら、全然ダメじゃない」


 アオイは呆れたように肩をすくめた。

 まあ、班長クラスとガチンコ勝負して意識があるだけでも上等だ。

 Dリングの守りは『とあるエネルギー』が満ちている場所でなければ真価を発揮できない。

 おそらくオムの全力の一撃を受けた時点で、溜めてあった守りの力は完全に吹き飛んでしまったことだろう。


「マナ、車は呼んであるの?」

「もちろん! あ、ほら来たよ!」


 タイミングよく黒塗りのリムジンが湘南日野方面からやってきた。

 人払いの能力の効果は残っているので、間違いなくフレンズ社の関係者が乗った車である。

 車は一度アオイたちを通り過ぎてUターンして再度目の前で停車する。


「乗りなさい。今日はもう帰っていいわよ」


 わざわざ自分の手で後部ドアを開けながらアオイはシンクにそう勧めたが、


「待ってくれよ。俺は亮とまだ話があるんだ」


 彼は歩道に倒れたままのオムに視線を向ける。

 亮というのはオムの本名だったか。

 シンクとは個人的な知り合いだという話は聞いている。

 アオイはわずかに心にささくれを感じたが、表情には出さずに彼を諭す。


「気絶してる人間を無理やり起こすものじゃないわ、話をするのはまた今度にしなさい。大丈夫、彼のために社用の救急車を呼んであるから。ね、マナ?」

「え? あっ、うん!」

「でもよ……」

「一応、彼は今回の事件の重要参考人なの。そこで転がってる二人もだけど、とりあえず本社に出頭させることになるわ。もちろん治療が済んでからね。事件の全容は後で教えてあげるから、本人の口から話を聞くのはもう少しだけ待って頂戴」

「それよりいまはシンくんの身体が心配だよ。家に帰ってゆっくり休も?」

「心配しないでもオムさんは強いから大丈夫だって! あとはアオイちゃんに任せとこ!」

「わかった、わかったよ」


 なおもシンクは不満そうな顔をしたが、マナとレンの二人に促されて結局は渋々と車に乗った。


「じゃマナ、そっちは頼んだわよ」

「おっけー。アオイちゃんもお疲れ様!」


 助手席から手を振るマナ。

 アオイは軽く手を振り返して三人を乗せて走り出す車を見送る。

 仲間たちがいなくなった後、彼女は仰向けに倒れているオムへと近づいた。


「……新九郎は行ったか」

「ええ」


 サングラス越しの彼の目を見下ろしながら短く答える。

 オムがとっくに意識を取り戻していることはわかっていた。


「一つ、聞いていいかしら」

「アミティエを裏切った理由ならすでに知っているのだろう」

「そっちじゃないわよ。あなた、フレンズ本社に乗り込んで何をするつもりだったの?」


 ポシビリテの反乱は薄氷の上の行動だったと言っていい。

 彼女たちが情報を掴み、奪おうと狙っていた神器は確かにフレンズ社が所有している。


 だが、それが本社になんかないこともオムは知っているはずだ。

 なぜなら『神器』と呼ばれるJOYはすでにショウがインプラントしているから。


 一度インプラントした能力を奪うには能力者の死が必要。

 ショウを倒すなど、同じ神器使いでもなければ絶対に不可能だ。


 オムは綿密な作戦を練っておきながら、神器の所在に関してはポシビリテに偽りを伝えた。

 そのくせ自らフレンズ本社に乗り込むという役目を買って出たのだ。

 ハッキリ言ってやってることの意味が分からない。


 しばしの沈黙の後、オムは冗談めかしてこう答えた。


「そうだな……ルシフェルのムカつく面を一発殴ってやりたかった、ってところでどうだ?」

「……ぷっ」


 アオイは思わず吹き出してしまった。

 なるほど、それは納得のいく理由だ。


 裏切ったこと自体は疑問に思っていない。

 オムは勝利の見込みのない反乱に手を貸した。

 おそらくは裏切られることも予見していたはずだ。


 それでも、どうにもならない感情が彼の中にあった。

 SHIP能力者とはつくづく因果な存在である。

 彼の立場には同情してあまりある……が。


「さて、そろそろいいかしら」

「いちいち聞くな。いつも通りに淡々とこなせばいいだろう」

「何か言い残したいことはある?」

「ない。仲介がお前じゃまともに伝わるとも思えないからな」

「ずいぶんね。これでも貴方の境遇には同情してるのよ」

「ならお前の良心を信じて最後の頼みだ。オレに協力してくれた第四班の仲間たちは何も知らずに付き従っただけだから罪は問わないで欲しい。そしたらハイエナ行為は大目に見てやる」

「この場にいない人間のことなんて知らないわ。事故の後始末は警察に任せましょう」

「フッ……」


 アオイの返答に満足したのか、オムは大きく息を吐いた。

 それっきり彼は何の言葉も続けなかった。


 覚悟を決めた男の姿を見下ろしながら、アオイは右手に氷の刃を宿す。


「それじゃ、おやすみなさい」

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