4 龍童と氷神の制裁
「おい、無事か?」
シンクは倒れているオムの隣にしゃがみ込んで体を揺すってみる。
「う……」
流石にあの巨体のパワーにぶっ飛ばされて無事で済むわけがない。
とりあえず息があることに安心し、シンクは戦闘が行われている方に目を向けた。
「てやっ!」
「ぐっ、このガキ……っ」
レンが白い巨体相手に戦っていた。
相手を翻弄するよう三次元的に飛び回り、強烈な蹴りや突きを次々と加えていく。
シンクはもはや勝敗に関しては何の心配もしていなかった。
上海の龍童と呼ばれたレンの戦闘力はとにかく半端ではない。
身体能力を向上させ曲芸のような動きが可能になる『武』の紋章。
攻撃的エネルギーを自在に操り攻防力を飛躍的に上昇させる『闘』の紋章。
ここまではシンクもコピーしているが、レンはさらに一段階上の『龍』の紋章を操る。
その時のレンの力は単純な戦闘力だけを見ても白い巨体を大きく上回る。
くわえて実戦経験に裏付けされた技量の差は覆しようもない。
「やぁっ、たあっ!」
可愛らしい声で発する気合。
そこから繰り出される攻撃はプロ格闘家の比ではない。
トドメの一撃に放たれた強烈なパンチが敵の真っ白な仮面を撃ち破った。
「うわっ! うわーっ!」
巨体が地面に倒れ伏すより先に、装甲が無数にひび割れ、霧散する。
中から現れたのはいかにも貧弱そうなメガネの青年だった。
「なんだ、全然弱かった。これならテンマの方がずっと強いよ」
そうは言ってもスペックだけなら隊長クラスに匹敵する強敵なのである。
それを雑魚同然にあっさりと片付けた少年は、つまらなそうに貧弱坊やに背を向けた。
その姿を見てシンクは改めて思う。
いろんな要素が重なったとはいえ、よくこんな奴に勝てたな。
レンに限ってあり得ないとは思うが、彼の少し道を誤った愛情が暴走して力づくで来られたらと思うと、何らかの対策を考えておいた方がいいかもしれない。
「さて……」
予想通りにレンは楽勝だったが、ひまわり先輩はどうなっただろう。
少なくともあの白い巨体は単純な戦闘能力だけなら第二班班長のテンマに匹敵する。
奴の戦闘力は第一班班長のショウに次ぐと言っていたから、ひまわり先輩の方がやや劣るということになる。
まさかあの人が負けるとは思わないが……
「っておいおい、マジかよ」
反対側で戦闘中のひまわり先輩に目を向けてシンクは愕然とした。
ひまわり先輩はなんと戦闘中にもかかわらず携帯端末で誰かと会話をしていた。
「――……」
遠くて会話の内容まではわからないが、次々と繰り出される致命傷必死の剛腕を巧みにかわしながら、中距離をキープしつつ氷の弾丸を正確に頭部に打ち込み続けている。
ひらひらした真っ黒なドレス姿で舞うように闘うひまわり先輩。
その姿はまるでおとぎ話の中から現れた妖精のようだ。
対する相手の動きはやや鈍い。
理由は明白で、二人の周囲には吹雪が舞っていた。
いくら肌寒い季節になってきたとはいえ、あの光景は異常である。
ひまわり先輩こと第三班班長アオイの≪氷雪の女神≫は氷と雪、そして冷気を司る。
あの寒々とした石の塊に十分な防寒機能が備わっているとは思えない。
中の人間は凍りつくような思いをしながら戦っているだろう。
相手が格上なら弱体化させてしまえばいい。
ひまわり先輩らしい闘い方だが、なんだか相手が気の毒だ。
そうこうしている間に装甲の耐久度が限界を迎えたらしい。
レンに倒された奴と同じように表面が割れて砕け散った。
倒した相手には目も向けず、ひまわり先輩は携帯端末を胸元にしまう。
攻撃を食らえば即死の戦いを片手間に終わらせるとは、つくづく恐ろしい人である。
「シンくん、仇は取ったよ!」
「おう。お疲れ」
戦いを終えたレンがシンクの下に駆け寄ってくる。
座っているところに抱きついてくるので避けられなかった。
仕方なく受け止めてから無理やり引きはがす。
「ああん」
妙な声を出すな。
さっきまで悪鬼のように戦っていた奴と同一人物とは思えん。
「マナ、いるんでしょ。終わったから出て来なさい」
「はーい、いるよ!」
ひまわり先輩が声をかけると、寺に続く坂道からマナ先輩がてくてくと歩いて来る。
結局使わなかったが、トラックをここまで運んでもらったり、オムとの戦闘をこっそりサポートしてもらったりと、なにげに裏方で頑張ってくれていたのである。
とにかく盗まれたジョイストーンも取り戻した。
あとは病院に運ばれた班の仲間たちの無事さえ確認できれば一件落着だ。
などと思っていたら、
「これからどうするの? 敵の本拠地にのりこんで残りの≪白き石の鎧≫を回収するの?」
マナ先輩が無邪気にそんなことを言う。
そうだ、こいつらを倒してそれで終わりじゃない。
シンクはまだ今回の事件に関して詳しいことを全然知らないのだ。
なぜ別の能力者組織がアミティエにケンカを売ってきたのか。
なぜオムはこんなやつらに協力したのか。
説明を聞こうにもオムはまだ気絶したままだ。
ひまわり先輩はその辺の事情を知っているのだろうか?
シンクがひまわり先輩の方を見ると、彼女は肩をすくめてマナ先輩の質問に答えていた。
「その必要はないわ。たぶん、もうすぐ解決するから」




