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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十話 エクスキューション
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2 班長達の戦い

「……おせーよひまわり先輩。つーか誰がしもべだ」

「これでも急いで来たのよ。というか元はと言えばあなたが人の話を最後まで聞かず勝手に飛び出したのが悪いんじゃない」


 たしかに亮が戸塚からフレンズ本社に向かっているとの情報を彼女から聞くなり、慌てて通過予測ルートを目指したのはシンクの独断だ。

 ただ、その素早い決断のおかげで追いつくことができたし、こいつらが現れるまでは上手くいっていた。


「まあ、今回もあなたはよく働いたわ。あとは私たちに任せてゆっくり休んでいなさい」

「最近妙に優しいじゃねーか。なんか気持ち悪いぞ」

「部下をおだてて働かせるのも班長の仕事の一つなのよ」


 そんな軽口を返して笑うひまわり先輩。

 対照的にレンはかなり怒っているようだ。


「よくもっ、ぼくのシンくんをっ! 許さない、叩き潰すっ!」


 別にお前のじゃねえ。

 っていうかずいぶんと凶悪な主張するようになったなお前。


 シンクが身の危険を感じていると、レンを抑えられる唯一の人間であるひまわり先輩が、彼の視線を遮るように白い巨体の前に立った。


「さて、フォレストオン社の能力者さん。今すぐ降参してジョイストーンを返すなら半殺しで済ませてあげてもよくってよ」

「だめだよ! シンくんをいじめたんだから全殺しだよ!」

「あなたはちょっと黙っててね。悪くない交渉だと思うけどいかがかしら?」

「理解できないな。勝てる気でいるのか?」


 白い巨体は無表情の仮面をひまわり先輩に向けて言う。

 しかし、ひまわり先輩は笑って肩をすくめた。


「ポシビリテの行いはもうラバース本社に報告されているわ」

「なんだと!?」


 白い巨体が動揺の声を上げる。


「すぐに討伐隊が派遣され、ポシビリテは確実に壊滅する。ラバースの情報網を甘く見過ぎたわね」

「……だ、だとしても、こちらには十体の≪白き石の鎧≫が残っている。唯一の懸念である陸夏蓮さえ始末すれば他の有象無象など取るに足りん。二体一で叩ける今ならそれも可能。挑むなら我々が単独で行動をしている時を狙うべきだったな!」

「計算が出来ないのかしら? あなたの目の前に敵は何人?」

「第三班の班長ごとき、第二班の班長と同等の力を持つ我らの敵ではない。一ひねりに潰してくれるわ」


 あ、ヤバイ。

 周囲の気温が比喩じゃなくなく下がってきた。

 怒ってるぞ、ひまわり先輩。


「ふぅん。そうなの、ナメ腐ってくれちゃってるのね……レン」

「は、はい!」

「あなたにはそっちの奴をあげるわ。やりすぎて構わないから、こっちのアホは任せて頂戴」

「あ、はい。わかりました」


 レンは素直に言うことを聞いた。

 もう片方の方へとひょこひょこと歩いて行く。

 こうして見ていると年相応に素直な子供にしか見えないのだが。


「さぁて、お仕置きの時間よ……と、その前に」

「なんだ命乞いか?」


 この期に及んで自分の犯した過ちに気付いていない白仮面はそんな場違いなことを言う。


「テンマのアホと同等とか抜かしてたけど、うぬぼれも大概にしておかないと恥をかくわよ」

「何?」

「明日の太陽を拝むこともない人間に心配は無用ですけどね」


 閑静な住宅街の一角に、局地的な吹雪が巻き起こる。




   ※


「あー、めんどくせえ」


 綱島温泉駅近くの路上にて。

 テンマは苛立ちを声にのせて頭を掻いた。


「どこのバカが人払いを使ってるのかと思えば、集団で移動しながらとか馬鹿じゃねえのか? 掃除班にどれだけ後始末の手間をかけるんだよ」


 普段の行いを考えれば言えた義理ではないが、目の前の団体の非常識ぶりは群を抜いている。


 人払いの能力。

 それは周囲の人間に一種の暗示をかけ一定範囲内に立ち入らせなくする能力である。

 これを路上で使うということは、周囲に無理な方向転換を強要するということであり、ましてや移動しながら使うとなれば重大事故にも繋がりかねない。


「うちのリーダーは気が短くてね、多少の無茶は目をつぶってくれるさ。それにもうラバースの掃除班に頼る必要はないしね」


 テンマの前に立つ男が言う。

 その背後には控えるように二人が立っている。

 さらに後ろには五人ばかりが単車に跨ってニヤニヤとしている。


「ああ、なんつったっけお前ら。パシリビテ?」

「ポシビリテだ。良く覚えておけ、お前たちに代わって神奈川を支配する組織の名だからな」

「ALCOのバカ共にいいように使われてるパシリの分際でナメた口きいてんじゃねえよ」

「あ?」


 直前まで余裕の表情だった八人のポシビリテメンバーたちがその一言で色めきだす。


「だってそうだろ? 見た目のいいオモチャを与えられて、勝てもしない相手にケンカ売って、一体誰が得をするか考えてみろよ。お前らは単なる使いっぱしりの捨て駒なんだよ」


 テンマはすでにアオイからのメールで今回の件を聞いている。

 近いうちに襲撃が予想されると言われたその日に現れるとは思わなかったが。


「口を慎めよ。我々の最強の能力を前にして、後悔してからでは遅いのだぞ」

「グダグダ言ってねえで見せてみろよ。教えてやるぜ、本物の格の違いって奴をよ」

「……っ! 後悔するなよ!」


 前三人の男が真っ白なジョイストーンをそれぞれ取り出した。

 どうせやり合うつもりのくせに前置きが長いんだよ。

 分不相応な力を手に入れた優越感に浸りたいんだろうが、そういうバカの相手をするのは大嫌いだ。


 しかし、ラバース本社の造り出した自分の能力の偽物とやらには興味がある。

 テンマの目の前で三人の男たちがジョイストーンから膨れ上がった光に包まれた。


 真っ白な石の巨人。

 装備というよりは変身と言うべきか。

 光が消えると、体長ニメートル強の巨体が三体並んでいた。


 なるほど、確かに『燃ゆる土の鎧』に似ていなくもない。

 色違いなのと、表面がやたらつるつるしている以外は、ほぼそのままと言っていい。


「この≪白き石の鎧≫はお前の奥の手をベースに、さらに磨きをかけてラバース本社が作成したものだ。一体だけでもお前の能力を上回るスペックがある!」

「あっそ」


 テンマは男の自慢語りをそっけない返事で流した。

 そして自らもインプラントしたジョイストーンの力を解放する。


「あんまり通学路を荒したくねーんだけどな。道路工事になると混むからよ」


 足もとの地面が隆起する。

 アスファルトがテンマの体を這い上って行く。


「見せてやるよ。スペックなんかじゃ現わせない、本物の力ってやつをな!」


 纏ったアスファルトの鎧によってテンマの体躯は二倍以上に膨れ上がる。

 相手の≪白き石の鎧≫と似ているがこちらはもっと無骨で、夜の闇にまぎれそうな灰色の巨体だ。


『燃ゆる土の鎧』


 テンマオリジナルの人型装甲能力である。


「よし、囲め!」


 二つの白い巨体がテンマを取り囲むように回り込む。

 それぞれテンマの斜め後方に移動して三角形の陣を作った。


「油断するなよ、全員で一斉に――」

「お前ら、バカか?」


 嘲弄の言葉を吐くと同時にテンマは地面を蹴った。

 重戦車のような人型兵器がわずか数秒で敵との距離を詰める。


「げえっ!?」


 その拳は白い巨体を容易く吹き飛ばした。


「数で勝ってるのに分散してどうすんだよ。一人ずつ潰してくださいって言ってんのか」


 先手必勝。

 もちろん一撃だけでは終わらない。

 仰向けに転がった正面の巨体を踏みつけ、下腹部を潰しながら何度も頭部を殴打する。


「げっ! やっ、やめっ……」

「き、貴様っ!」


 あっけに取られていた後方の二体が慌てて飛びかかってくる。

 テンマは足音で接近を感じ取って素早く前方に跳躍した。


「ごえっ」

「ぎゃっ」


 目標を失った二体の白い巨体は激突し、お互いを弾き飛ばし合う。

 スペックが同じならあいつらも軽めの乗用車ほどの重量があるはずだ。

 ただ衝突するだけでも衝撃は相当なものになるだろう。

 装甲は耐えられても、中の人間は自動車事故を起こした程度の衝撃をもろに受けるはずだ。


「本物には敵わないって理解したか?」


 どんな強い武器を持っていようと、扱う人間の力量しだいでその戦闘力は格段に変わる。

 暴れ馬のようなこの能力を自分のモノとして使いこなしてきたのがテンマだ。

 昨日今日手に入れたばかりの素人とは技量に差が出るのは当然である。

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