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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第九話 ホワイトメイル
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7 問答無用

「しょ、正気じゃねえ……」


 最後の一人はシンクから逃げるよう距離を取りながら減速し、やがて路肩で停止した。

 どうやら戦意を失ったようだが、こいつから逃げるのが目的ではない。

 シンクも少し離れた位置に停車して睨みあう。


「どうした。怖気づいたか」

「この野郎っ……」


 不良がバイクから降りる。

 走行中の戦闘を回避したことでやや安堵したか。

 ジョイストーンを取り出して大声を上げながら駆け寄ってくる。


「紅蓮のシンクぅ! テメエ、どういうつもりだァ!」

「その呼び方はやめろ。中学時代の恥ずかしい過去を思い出して死にたくなる」

「俺ら第四班に手を出してタダで済むと思ってんのかァ!」


 先に手を出したのはそっちだろ、という言葉を飲み込む。

 こいつはきっと何も知らないのだろう。

 だが問答は無用だ。

 話をつけるべき相手はこんなザコじゃない。


「第四班副総長! 表の顔はムジュラ十八代目リュウだ! テメエは俺がぶっ殺す!」

「いちいち自己紹介しなきゃケンカもできないのかよ」


 このリュウとかいう男は知っている。

 たしか中学時代は南戸塚で最悪最強と言われた七中の頭だった男である。

 上郷坂の乱闘でシンクとタイマンし、早々にダウンして周辺中学の不良ごと降った奴だ。


 三か月前の第四班との同盟云々の一件でも一撃で沈めた記憶がある。

 その後の鎌倉事件では腹心としてオムをよくサポートしていた姿を見ている。


 ケンカの強さとリーダーの資質は別モノである。

 ムジュラを継いでいるくらいだから顔はそこそこ売れているんだろう。

 自称か正式な役職なのかは知らないが、第四班の副総長という立場も嘘ではあるまい。

 どちらにせよシンクにとっては敵ではないが。


「なんだ、ケンカか?」


 いつのまにか歩道に人が増えてきた。

 住宅街の中の道路であり、近くに地下鉄駅の出入り口もある。

 交通量も決して少ない道ではなく、シンクたちを挟むように前後から車が接近している。


 人払いの能力も使っていない状況で能力バトルなんて始めたら後始末が大変だ。

 シンクは黙ってスクーターに戻り、アクセルをひねってハンドルを180度切った。


「あ?」


 リュウが間の抜けた顔で足を停める。

 シンクの姿が近づくにつれて、その表情が驚きに染まる。

 彼がアクションを起こすより早く、時速四十キロに達したスクーターで撥ね飛ばす。


「おごっ!?」

「しばらく寝てろ」


 宙に浮かんだリュウの顔面に追撃の拳を打ち込む。

 レンの身体強化能力≪龍童の力≫を纏わせて放った一撃だ。

 たとえ防御に秀でた能力者だったとしても一発でダウン可能である。

 ただし、周りからはバイクに撥ねられて気絶したとしか見られないだろう。


「ひっ、人殺しだーっ!」


 通行人の中から悲痛な叫び声が上がるが、これでいい。

 派手な能力バトルよりイカレた不良同士のケンカと見られた方が誤魔化すのは簡単だ。

 まあ、面倒な後始末のことはシンクの預かり知るところではない。

 リュウが気絶したのを確認していると、後方から別の爆音が聞こえてきた。


 いよいよ本命の登場だ。

 対向車線側から停止した乗用車を追い越し、国産アメリカンバイクに跨ったオムがやってくる。


「新九郎ぉ!」


 さすがに班長相手に奇襲が通じるとは思わない。

 シンクは車体を翻すと、反対方向にスクーターを走らせた。


 すぐに突きあたりの丁字路に差し掛かる。

 赤信号を無視して片側二車線の通りを左折する。

 坂の頂上辺りで停車中の大型トラックを発見すると、右隣の路上に乗り上げた。




   ※


 オムはシンクを追って通りに出る。

 ここはよく知っている道だ。


 後方に真っすぐ行くと戸塚中央駅に戻る。

 正面にずっと行けば久良岐市に入り湘南日野駅に至る。

 この辺りはアップダウンが激しく、ここも通称地蔵坂と呼ばれている。


 頂上付近でシンクはスクーターを停めて待ち構えていた。

 彼の隣には不自然にこちらを向いた大型トラックが停車している。

 オムは対向車線側の歩道に乗り上げて、愛車のスティードから降りた。


 そのままゆっくりと歩いて坂を上る。

 片側二車線の車道の右側だが、対向車などは来ない。

 すでにこの辺りは人払いの能力が使用されているのが感覚でわかった。


 間違いなく仲間を待ち伏せさせているだろう。

 シンクはここで決着をつけるつもりらしいが……


「小細工は無駄だ。後始末が大変になるだけだから止めておけ」


 声の届く距離まで近づいたところでオムは彼に警告した。

 道路の中央線を跨ぐように停車された大型トラックのことである。


 人払いがされてなければあり得ない停車位置にある大型車両。

 これが何の意味を持つのかオムにはわかっていた。


 オムは中学時代のことを思い出す。

 圧倒的に数で勝る七中と周辺の連合チームを相手にケンカを仕掛けた時のことだ。

 場所はちょうどこの道路の突き当り付近にある上郷坂。

 シンクとリュウ、それぞれが率いる不良中学生たちが真夜中に対峙した。


 数で勝る七中連合相手にシンクがとった作戦は、坂の上からニュートラルにした軽トラックを転がすという、狂気じみた奇襲攻撃だった。


 幸いに死者も負傷者も出ず、トラックはカーブでガードレールに激突して止まった。

 だが、勢いに呑まれた七中連合側はシンクが提案した頭同士のタイマンを拒否できなくなる。

 シンクがリュウをあっさり沈めた後は、士気を失った残りの不良たちを少ない人数で思う存分に蹂躙した。


 あの日、オムはシンクに底知れない畏怖と憧れを抱いた。

 このシンクという男は、ことケンカになれば容赦や遠慮が全く見られない。

 昔から大人数、あるいは格上の敵と戦うことが多かったせいか、どんな非情で危険が伴う手段でも平気で使う男なのだ。


 それ故に彼は『紅蓮のシンク』の異名が一人歩きするほどのカリスマ性を得るに至ったのである。

 そんな男が不良をやめ、別の市の高校に進学して大人しい生活をしているなど、戸塚市の人間なら誰が信じるだろう。


 アミティエの能力者としてのシンクも文句なく強い。

 おそらく各班の班長に次いで強力な能力の持ち主だろう。

 それを最大限に活かすだけの戦術眼や非情さも未だに健在だ。


 だが、それでもやはり班長クラスは別格なのである。

 オムは正々堂々の一対一の戦いなら今のシンクにも負けるつもりはない。


 だから彼は必勝のための作戦を練っているだろう。

 その答えが、あの大型トラックというわけだ。


「ギアはニュートラル。タイヤ周辺を凍らせておいて、敵が射程に入ったら能力で氷を溶かしてトラックを発進させる……違うか?」

「トラップがあった方がステージとしては面白いだろ?」


 シンクは肯定も否定もせずにそんなことを言う。

 オムは若干怒気を緩め、彼にこう問いかけた。


「……話を聞く気はあるか?」


 なぜオムがアミティエを裏切ったのか。

 そもそもシンクは第三班が潰された理由すら知らないはずだ。

 友人に対する罪滅ぼしではないが、説明を聞く権利は当然彼にもある。


 だが、シンクは拒絶の言葉と共に姿をかき消した。


「うるせえよ」


 背後からものすごい悪意を感じた。

 とっさに振り向きながらガードをする。


 シンクの拳がオムの腕を打った。

 瞬間移動を用いた奇襲だ。


「そうか……いや、そうだろうな」


 どんな理由があろうとも、オムの裏切りは紛れもない事実。

 第三班壊滅の手助けをした相手と悠長に会話をする気などシンクにはないのだ。


 シンクの怒りは正しい。

 また、こちらにとってもそれは同じことである。

 ここまでの道中、シンクはリュウたち第四班の仲間を、死んでもおかしくない方法で傷つけた。

 こうなったらもうとことんやり合うしかない。


「仲間の仇、討たせてもらうぞ! 新九郎!」

「こっちのセリフだボケ!」

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