1 三班壊滅
信号はすべて無視し、何度も事故りそうになる危険運転でも、幸い警察に捕まることはなかった。
鎌倉街道と環二の交点近くにあるアミティエ第三班の集会所にたどり着いたシンクが見たのは、ボロボロに破壊された建屋だった。
スタンドを立てる間ももどかしい。
CBを乱暴に転がして建屋の中に入る。
惨憺たる状況だ。
窓や襖は軒並み破られている。
折られた柱や風穴の空いた壁が所々に見られる。
そして至るところに第三班の仲間たちが死屍累々と横たわっていた。
「おい、大丈夫か!」
手当たり次第に声をかけるが、うめき声を上げるだけで誰もまとも返事できない。
血を流している者や明らかに骨折をしている者もいる。
無理に起こすのは危険と判断。
比較的傷の浅そうな人間を探して回る。
「う……シンク、か?」
壁にもたれかかって項垂れていた男に名前を呼ばれた。
シンクは彼の前で片膝をついて問いかける。
「どうしたんだ。なにがあったんだ」
「別の能力者組織が攻めてきやがった……」
「別の? アミティエの他の班って意味か?」
「ポシビリテと、そう名乗っていた」
「そいつらはどこに行った」
倒れているのは見知った人間ばかりである。
全員の名前を覚えているわけではないが、少なくとも第三班以外のメンバーは見当たらない。
「暴れるだけ暴れて引き上げていきやがった。俺たちも必死に闘ったが、ちくしょう、あいつらムチャクチャ過ぎるぜ」
「そんなに強い相手だったのか。ひまわり先輩はどうしたんだ」
「ひまわり……?」
「あ、いや。間違えた。アオイはどこにいる?」
「班長なら今日も本社に出向だとかで休みだったよ」
見当たらないから心配したが、どうやら彼女がやられたわけではないようだ。
しかしシンクもひまわり先輩もいなかったとはいえ、第三班がこうも一方的にやられるとは思えない。
「最初はただの乱戦だった。あっちの方が数は少なかったし、たいした能力者もいなかったからな。アテナさんの指揮でアタッカーをローテーションさせて戦ったけど……」
その時の様子を思い出したのか、彼は傍目でもわかるほど身震いする。
「そのうち、そいつらの一人がとんでもない能力を使いやがったんだ。真っ白なバカでかい装甲だった。ロボットみたいな鎧を纏ってムチャクチャに暴れたんだ。とんでもなく強くって、速くて、もう戦術も何もないってくらいグチャグチャにやられちまった」
「ロボットのような鎧……?」
それを聞いてシンクは第二班の班長テンマの能力を思い出した。
土を操るJOYを使うテンマだが、アスファルトを鎧のように纏って戦う技を持つ。
巨体のくせに動きも俊敏な重戦車のような技だ。
たしかにアレが暴れたと考えればこの惨状も頷ける。
だが、それを別の能力者組織が使ったと……?
「何でもいいから、そいつらの情報は――」
「シノ! シノーっ!」
尋ねようとしたシンクの声をかき消すように、隣の部屋から悲痛な叫び声が聞こえてきた。
急いでそちらに向かうと、同じように倒れているメンバーたちの中、頭から血を流した少女が別の少女に抱きかかえられていた。
「どうした!」
「シノが、シノが息してなくてっ!」
彼女は気が動転しているのかガクガクと腕の中の少女を揺らす。
シンクはすぐにそれを止めさせると、血を流している少女の脈を測った。
かすかに脈はある。
しかし、非常に弱々しい。
いつ心臓が止まってもおかしくない。
「救急車を、はやく!」
「え、あっ」
「早く呼べっ!」
シンクが怒鳴りつけると、彼女は慌てて携帯端末を取り出した。
「えっと、えっと、救急車って何番だっけ!?」
「119だろ!」
「あっ、救急車よりもフレンズ社のかかりつけの医者を呼んだ方が……」
「じゃあそれでいいから早く呼べよ!」
少女がどこかに電話をかけて通話を始めると、シンクは素早く血を流した少女を横たえた。
以前に体育の授業でやった通りの手順で人工呼吸を行う。
「……けはっ」
何度か繰り返すと少女は短い咳と共に息を吹き返した。
一安心した頃、その少女がいつも作戦行動後にタオルを手渡してくれる娘と気づく。
「すぐ来てくれるって!」
「そうか。あんたは大丈夫なのか?」
「は、はい。私はすぐ気絶しちゃったから」
「他にも怪我がヤバイ奴がいないか確認してくれ」
これだけの破壊行為である。
相手にそのつもりがなくても、打ち所が悪ければ重症……最悪は死に至る可能性もある。
「そうだ、アテナさんはどこだ? あの人の能力は怪我人を治療できるんだろう」
「私はここよ」
折れた柱に寄りかかり、廊下からこちらを見ている、アミティエ第三班副班長アテナさん。
彼女のJOYは傷を癒すことができるという極上のレア能力である。
アテナさんは支えがなければ今にも倒れそうなほどフラフラだった。
垂れた右腕を抑えて苦しそうな表情をしている。
骨折しているのかもしれない。
「残念だけど治療はできないわ。ジョイストーンを奪われてしまったの」
「なんだって?」
「たぶん……他のみんなも同じだと思う」
ポシビリテとかいう奴らはジョイストーンを奪うために第三班を襲撃したのか?
自分たちの組織の強化のために?
いや、それよりも解せないことがある。
亮だ。
あいつはこの襲撃を知っていたようだった。
班は違っても、アミティエの仲間であるはずのあいつが何故……?
「あ、シンクさん! 何なんすかこれっ!」
慌てた様子でやってきたのはツヨシだった。
そう言えば遅刻すると連絡をしてきた。
彼は運よく襲撃を免れたようだ。
「ちょうどいい。お前も手分けして重傷の奴がいないか確認してくれ」
「えっ、は、はいっ」
シンクは説明を省いた。
事態は呑み込めなくても指示に従って迷わず行動に移す。
その辺りの機転が利くのは流石に元アタッカーである。
「さてと……」
看護役は二人いれば十分だろう。
あとは救急車が来るのを待つだけだ。
「アテナさん、そのポシビリテとかいうチームがどこを拠点にしてるかわかりますか」
「それを聞いてどうするつもりなの?」
「いえ、参考までに」
「乗り込むつもりならやめておきなさい。アレはあなた一人じゃどうにもならないわ」
「テンマのアスファルトの鎧みたいな能力者がいるそうですね。劣化コピーくらいどうにだって……」
「劣化なんてとんでもないわ。私もテンマさんの力は見たことあるけれど、あの白い鎧はそれに勝るとも劣らない。それに彼らの口ぶりでは、同じ能力をいくつも持っているみたい」
「いくつも?」
想像するに恐ろしい光景である。
それが本当なら、冗談抜きで軍隊でも持って来なければ対処のしようがない。
「……っ、そうよ、それより夏蓮を保護して! あいつらは彼を狙っているらしいの!」
「なんだって?」
狙いはジョイストーンじゃないのか?
レンを襲って何の意味があるんだ?
「レンなら心配ないだろ。あいつはテンマにも勝ってるし」
「私の話を聞いてなかったの? 彼らは同じ力をいくつも持っているのよ。夏蓮のことを調べた上で襲うなら、とうぜん勝てるだけの準備をしているはず……!」
「っ!」
まさか、あのレンが負ける所など想像もつかない。
だが規格外の能力が複数同時に襲ってくればわからない。
シンクは即座に部屋を飛び出そうとして、ふとアテナを振り向いた。
「そういえば……マナ先輩は?」
「彼女も休みよ。よかったわね」
ふと微笑んで見せるアテナ。
シンクはこんな時だというのに安心してしまった。
そんな自分を恥じ、すいませんと謝ってから今度こそ建屋を出ていった。




