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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第八話 ポシビリテ
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6 ポシビリテの秘策

 話をすべて聞き終えた後、オムは足元が崩れるような喪失感を味わった。

 体はソファに腰かけたままなのに、それを支える地面がなくなってしまったような、気持ち悪い浮遊感。

 それは常識が根本から覆されたせいなのだろうか。


「で、でたらめを……」

「それは自分で判断しな」


 言われるまでもない。

 オムは話が始まったときからずっと真偽を探って……いや、知っていた。

 悪意を見るSHIP能力を持つが故、チカがオムを騙そうとしているのならすぐにわかる。


 だが話している間、一度たりともこの女から「騙してやろう」という悪意は感じなかった。

 話の最中には強烈な憎悪も混じったが、少なくともオムに向けられたものではない。


 チカは嘘をついてはいない。

 少なくとも本人にそのつもりはない。

 だからと言って全てを信じられるものではない。


「お、お前は騙されているんだ。何者かに嘘を吹き込まれて……」


 情けないことに声が震えている。

 これでは班長としての威厳もあったものではない。

 チカは特に気にしたそぶりもなく、淡々と諭すように言葉を紡ぐ。


「あたしのお姉ちゃんってやっぱり同じようにSHIP能力者でさ。『そこ』に送られてんだよね。もちろん二度と帰ってこなかったけど。最後に会ったのは三年前だったかな。いやー、恐れ入るよね、うちのママ。特異点の男に二人も産ませられてんだよ。本人が何を考えていたのか今となっちゃわかんないけどね。あたしが小さい頃に死んじゃったし」


 今のチカの感情の中に悪意は確かにある。

 その対象は特異点の男であり、現状を支える組織だ。


「つーかマジで知らなかったんだね。特異点の男とラバースが繋がってたってこと」


 ラバースコンツェルンに対してチカは復讐をしようとしている。

 全てを信じたわけではない。

 そう簡単に信じられるものではない。


 自分たちのやってきた行為が、ぜんぶ巨悪の掌上の遊びなどと。

 しかし嘘だと断ずるだけの根拠はなく、代わりに別方向から反論をする。


「だ、だがラバース打倒など現実的に考えて不可能だ。俺と第四班が全面的に協力しようと、アミティエを始めとした能力者組織の層は厚い」

「別に全部の能力者組織を相手しなくていいのよ。まずはアミティエ……っていうかフレンズ社を潰して『神器』を手に入れる。神奈川を完全な支配下に置いた上で、東京の本社をピンポイントで潰せればそれでいいの。別に傘下の企業で働いてる労働者にまで恨みはないし」

「神器……?」

「詳しいことはおいおい説明してあげる。で、問題はどうやってアミティエを出し抜くかでしょ。さすがに他の班長までは懐柔できないだろうし」


 まるでオムはすでに籠絡済みだとでもいうような物言いである。

 いや、事実としてほぼオムの心の針はもう振りきれている。


「ところが、それも対策がしてあるのです!」


 チカはおもむろに立ち上がると、さっきからオムの背後で突っ立っていたダイキを顎でしゃくって、何事か指示を飛ばす


「それは実際に見てもらった方が速いでしょ。ちょっと表に出てくれる?」




   ※


 チカに先導され、言われるままに店の外に出る。

 完全に相手の思うつぼだとわかっていたがどうにもならない。


 後ろからポシビリテのメンバーたちもついてくる。

 少し移動した所に開けた空き地があった。


 そこは左右を建設中の建物に囲まれた場所だった。

 道路との境を仕切るブロックと郵便ポスト。

 恐らく以前は住宅地だったのだろう。


 チカとオム、そしてダイキの三人だけがその中に入った。

 他のポシビリテのメンバーたちは空き地の周囲に留まっている。

 路地を塞ぐことで周囲の住人を近づけないようにしているのだろう。


「何を見せてもらえるんだ?」


 歩いている間にオムもやや落ち着きを取り戻した。

 アミティエを相手にしても負けない自信を持てるほどの根拠。

 おそらくはJOYだろうが、たとえ班長クラスの力を持っていても無駄である。


 オムがポシビリテについたとしても戦力差は一・五倍。

 ましてや班長クラスのJOY使いはシンクやレンも含めれば向こうに五人も残る。

 強力な力を手に入れて浮かれているようなら、ハッキリと釘を刺してやらなければならない。


「んじゃ、見せてあげるね。ほれっ」


 チカはトートバックから取り出した石を放り投げた。

 それをダイキが頭上でキャッチする。

 光沢のない真っ白に濁ったジョイストーンだった。


「お前が使うんじゃないのか?」

「まあ見ててよ。さ、ダイキ」

「おう」


 ジョイストーンを握りしめてダイキが目を閉じた。

 瞬間、信じがたいことが起こった。


 彼の体が白く発光する。

 直後、内側から急激に膨張を始めた。

 光は元の体の三倍ほどに広がり、次第に形が整えられていく。


「な……!」


 よく言えば中世の騎士の兜。

 悪く言えば逆さまに被ったバケツをくり抜いたようなシンプルな頭部。

 大小様々なパイプを組み合わせた胴体。

 その中において指先だけがしっかりと五本に分かれ、器用にわきわきと動いている。


 色は真っ白、体の表面はのっぺりとしている。

 本家と違いこそあるが、その姿は明らかにテンマの『燃ゆる土の鎧』に酷似していた。

 しかも本家よりも一回り大きい。


「えっへへー、びっくりした? そんじゃ、ちょっと見せてあげてよ」

「あいさー!」


 白いパワードスーツを纏ったダイキは、わずかに足をかがめると、すさまじい跳躍をみせた。

 オムの頭上を軽く超えて隣の建物との境のブロックの上に乗る。


「よっ」


 建設中の建物から鉄材を引っこ抜く。

 それを目の前でいとも簡単に折り曲げてみせる。

 曲がった鉄材を投げ捨て、ブロックを降りて空き地の端から端までダッシュ。


「そらっ!」


 突きだした拳が反対側のブロックをいとも容易く粉砕する。

 ブロックの崩れる轟音を聞きながら、オムは記憶にあるテンマの姿と、目の前の白い巨体を重ね合わせていた。


 あのパワー。

 外見に似合わぬあの機動力。

 紛れもなくテンマの『燃ゆる土の鎧』と同等。

 いや、あるいはそれ以上かもしれん。


「こんなもの、どこで……」

「よく知らないけどラバース本社で作ってたらしくてね。しかも量産されてるんだよ。これがあと九体」

「なんと」

「ちなみに全部あたしの手元に揃ってるから」


 目の前の白い巨体一つを見ても、情けないが戦って勝てる気はしない。

 テンマの切り札と同等なら仕方のないことだ。

 そんなものがあと九体だと?


 量産されたとなれば、これはもはや兵器だ。

 しかもフレンズ社ではなくラバース本社で生産していたとは。

 ルシフェルやフレンズ社の重役たちは知っているのか?

 少なくともオムは初耳だった。


 チカはニヤリと笑った。

 悪意のない、イタズラに成功した子どものように。


「最高の贈り物だったわ。持つべきものは目的を同じとする同志ってね」

「贈り物……まさか!」


 その言葉だけでオムは見当をつけ、同時に激しく激昂した。


「貴様、ALCOと手を組んだのか!?」

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