2 アミティエ以外の能力者組織
平沼駅西口を出てすぐの大型家電量販店にて。
シンクはマナと二人で買い物をしていた。
といっても、ほとんどシンクがマナの買い物に付き合っているだけだ。
商品を手にとっては百面相のようにコロコロと表情を変えるマナを見て楽しんでいる。
もちろんデートではない。
三か月たった今もマナとシンクの仲は一切進展していない。
待遇こそ『新規ちゃん』ではなくなったが、マナにとってシンクは同じ班の仲間以上ではないのだろう。
まあ、なんだかんだで一緒にいる時間は班内で一番長いから別に不満はないのだが。
「マナ先輩」
「ん?」
一昔前のゲームのイケメン主人公のフィギュアに視線を向けたままマナは返事する。
「そろそろ目的の物を見に行きませんか?」
マナと一緒にいるのは楽しい。
世間話のような会話しかなくても彼女を見ていると癒される。
いつまででも大丈夫……と思っていたのだが、流石に三時間もオモチャ売り場に居座られるのは辛いものがある。
「え、そう……って、もうこんな時間!?」
マナは改めて自分の腕時計を見て驚愕の表情を浮かべた。
文字通り、時の経つのも忘れて夢中になっていたのだろう。
今日は土曜。
アミティエの活動は夕方からだ。
シンクは本来なら家でゴロゴロしている時間である。
買い物に付き合うように頼まれなければ今ごろ夜に備えて寝ていただろう。
マナの家の最寄り駅からでもここまでは電車で一本で来れるのだが、以前に後ろに乗せてあげてからバイクが気に入ってしまったらしく、今日は半ば強制的に引っ張り出されたのだっだ。
まあ、早い話がアシ替わりである。
今日の購入予定の物は第三班の本部に置くための冷蔵庫。
以前に使っていた物は一週間前にツヨシが霜取り中に壊してしまった。
マイナスドライバーは使うなと言われていたのに、あんなに力任せに引っ掻くからだ。
というわけで、半日休みを利用して新しい冷蔵庫を見に来たわけだが……
なぜかマナは家電品売り場をスルーして一直線に六階のおもちゃ売り場へ向った。
そのまま三時間もこのフロアでずーっとあっちを見たりこっちを見たりを繰り返している。
「えへへ、ごめんね。じゃあそろそろ冷蔵庫を見に行こっか」
可愛らしく頭を掻きながらペロリと舌を出しみせるマナ先輩。
そこらの女子高生が同じことをやったら殴りたくなるが、彼女ならなぜか許せる。
惚れた弱みを差し引いてもマナの容姿は愛らしいと思う。
どうみても年上に見えないどころか、下手したら中学生にも見える。
そこまで分析しても、シンクは絶対に自分がロリコンだとは認めないのだが。
エスカレーターを下って今度こそ家電売り場へ。
さっきまでのふらつきが嘘のように一直線に冷蔵庫コーナーへ向う。
マナは一番大きな冷蔵庫の前に立った。
「これにしよう!」
「いやいや、でかすぎるでしょう」
その冷蔵庫は高さ二メートル以上はあった。
メインの扉の他にも六つくらい小さな引き出しがある。
どうみてもレストランとかの厨房で使うような業務用である。
第三班は全員で三十人程度。
本拠に全員が集まることもあまりない。
夏も過ぎたし、私物を大量に持ち込むような人間はマナくらいなので、この半分以下の大きさでも十分なくらいだ。
「大きい方がいいと思うんだけどなぁ」
「部屋のスペースを考えてください。流しと戸棚の間に入るものじゃないとダメですよ」
現実的な問題を指摘され、マナは諦めて別の冷蔵庫を探す。
結局、以前に使っていたものとほぼ同じタイプのもので落ち着いた。
バイクでは持って帰れないので直接本部に配送してもらう。
二人とも自分用のVIPカードを持っているが今回は経費で落とす。
あらかじめひまわり先輩から渡されていた第三班共通のカードを使用することにした。
「別に誰のカードを使っても一緒じゃないんですかね」
「いやいや、個人に支給されたVIPカードは何に使ったのかデータが事細かに残るからね。あんまり個人で大きな買い物してたら月末にアオイちゃんから怒られちゃうよ」
「マジか」
恐ろしいことだが、シンクはそれを今になって初めて知った。
どうせバレないと思って女性にはあまり知られたくないものも買ってしまっている。
月末にひまわり先輩から氷漬けにされたらどうしよう……
「それじゃ、帰ろっか」
「は、はい」
買い物を終えると他に用はなにもない。
シンクはマナの提案に素直に従うことにした。
特にシンクからどこかへ誘うことはない。
一方通行のデートはこれで終わりだ。
※
路上に止めてあるバイクの所に戻って来た。
エンジンをかけてマナをリアシートに跨らせる。
「出発しますよ」
「はーい」
アクセルを捻って車体を進ませる。
ひまわり先輩を乗せている時のように気を使う必要はない。
黙っていてもマナから話しかけてきて、無言の時間など一秒も存在しないからだ。
ただ、体重移動はヘタなので右左折時は多少運転に気を使う。
話題は今日の買い物で見たオモチャの話から唐突に前回の活動の話に飛んだ。
そこからマナ先輩の私生活の近況、なぜか急にアニメの話を経て、少し前の千葉遠征の話へ。
「そういえば……」
シンクはそのタイミングで今まで聞けずにいたことを尋ねてみた。
「能力者組織って全部でいくつくらいあるんでしたっけ」
「え? えっと……たしかちょうど一〇グループだったと思うよ!」
基本は一方的に喋ってばかりだが、たまにシンクから話しかけると喜んで答えてくれる。
「神奈川東部を担当するのは私たちのアミティエじゃん? この前行った千葉にひとつ。埼玉にひとつ。神奈川西部にひとつ。東京にふたつ。山梨にひとつ。大阪にひとつ。広島と……たしか福岡にひとつずつで、合計一〇グループ」
「ずいぶんと拠点が偏ってますよね」
これら一〇の組織はそれぞれラバース傘下の別個の企業に属している。
それぞれの社屋がある県に存在するのだが、これで日本全土をカバーするにはかなり無理がある。
「そう思うのはアミティエが特別忙しいからだよ。規模も他の組織と比べて大きいし、ひとつの班で他のグループひとつくらいの人数がいるから、実質四つの組織があるみたいなものだしね」
「千葉のところは全体で三十人くらいでしたっけ。アミティエ第三班と同じくらいですね」
「他も大体同じくらいだよ。それで私たちよりずっと広い地域を見てるからね。大阪の組織なんて三十人くらいで関西のほぼ全域を担当してるし、埼玉は北関東西部や必要あれば東北まで。広島と福岡もそれぞれ地方全部でそれくらい。東京のラバース本社に所属してるところはもう少し大きいけど、アミティエが断トツで一番大きいのは間違いないね」
「なんでそんな風に片寄ってるんですか?」
「SHIP能力者が現れる密度がぜんぜん違うからだよ。神奈川東部が一番多くて、遠くなるほど少なくなるの。地方の組織なんてうちらみたく集まったりすること自体が滅多にないんじゃないかな」
「そもそも組織のあり方からして違うってことですか……」
このあたりは激戦区と言うやつなのだろうか。
基本的には関東南部にSHIP能力社が集中しているようだ。
「なんで神奈川東部は特にSHIP能力者が多いんですか?」
「え、知らない」
とたんに返ってくる言葉の文字数が少なくなった。
「知らないんですか……」
「そういえばおかしいよね。なんで神奈川ばっかりSHIP能力者が多いんだろう?」
むしろ今までなぜ気にならなかったのかが不思議でならない。
いや、基礎的なことを今さら聞いているシンクが言える立場ではないが。
「後でアオイちゃんにでも聞いてみればいいよ。班長なんだからきっと知ってると思うし」
と言っても最近、ひまわり先輩はめっきり活動に参加しない。
学校で二人っきりになる機会はまずないし、廊下でアミティエの話をするわけにもいかない。
まあ、もし機会があれば聞いてみよう程度の気持ちでいようと思い、シンクは疑問を一旦胸に閉じ込めた。




