8 ケジメ
シンクはバイクを走らせていた。
猛スピードで車の列を追い抜きながら、国道を東の工業地帯へと向かう。
レンがパソコンで調べていたのは川崎市の中心駅への行き方だった。
それを見たシンクはレンがブラックペガサスの本拠を尋ねていると推測。
駅前についたら適当に悪ぶった少年を掴まえて、奴らのたまり場を聞きだした。
場所が判明するまで四人ほど路上に沈めたが。ようやく発見した高級クラブを思わせる店には、数人の従業員が残っているだけであった。
支配人らしいスーツの男はアミティエの裏方を務めているフレンズ社の社員らしい。
彼に尋ねた所、レンがこの店に来たのは間違いないらしい。
テンマの命令に従い、ブラックペガサスのメンバーは総出で店から出ていった。
その時にレンも一緒についていったようだ。
どこに行ったのかと聞くと、男は「確証はないが」と前置きをして、臨海部の工業地帯の可能性が高いと言った。
駅の東口からまっすぐ東へ。
やがて周囲の車両は大型トラック以外は目につかなくなる。
緩やかなカーブを曲がって首都高の下を潜ると、広大な工業地帯に入った。
運河を渡る橋を越え、海底トンネルを潜り、最奥部の埋め立てで作られた人工島へ。
夜中でも工場に明かりが灯る、貨物トラックが引っ切り無しに通行する区域だ。
その一角に無造作に残された空白地帯が存在する。
外周を海と背の低い柵で囲まれた、緑とオレンジの光が奇妙なコントラストを作る海浜公園。
昼は労働者の憩いの場。
夜中は地元少年たちの集会場。
はたして、そこには無数のバイクが集まっていた。
シンクは遠慮なくバイクで乗り込んでゆく。
こちらに気づいた奴が振り向く。
構わずアクセルを捻る。
「ぐぼーっ!?」
進路上にいた男を撥ね飛ばし、集団の中に突っ込んでいく。
「なんだぁ!」
「おい、こいつ戸塚の……」
誰かが声を上げたがシンクは止まらなかった。
シンクはそのまま盛大に停車していた別のバイクに突っ込む。
体が宙に放り出されるが、直後に短距離瞬間移動を使って姿勢を立て直す。
「どけぇ!」
「ぎゃあーっ!」
手近にいた男の腕を掴んで振り回す。
強引に道を開けさせた先に、人の輪による小さな空間が出来ていた。
その中に膝をついてうなだれている少年を発見する。
「レン!」
シンクが駆け寄ると、レンは驚いたような顔でこちらを見た。
「シンくん!? どうして……」
「どうしてじゃねえよ、バカ野郎が!」
レンは青山紗雪にそうしたように、かつての事件で半壊させたブラックペガサスの面々に対しても、同じく謝罪をしようとしたのだろう。
だが相手は青山やひまわり先輩とは違う。
県内でも名の売れた凶悪な少年グループである。
素直に謝ったところで穏便に済ませられるわけがない。
しかもこいつらにはレンに復讐するだけの正当な理由もある。
このようによってたかってリンチを加えられることは十分に想像できた。
レンもそれがわかっていたから今朝シンクの傍を離れたがらなかったのだろう。
筋を通すために自分の命を危機に晒すことを知っていたから。
「お前は確かに悪いことをしたかもしれない。でも、こんなことで命を捨てる必要はねえだろ!」
「えっと、あの」
「テメエらもだ! これだけ痛めつければ十分だろうが! もしこれ以上レンを傷つけるってんなら、俺が代わりに相手になってやるぞ!?」
シンクは周囲のブラックペガサスメンバーたちを怒鳴りつけた。
第二班の班員だけでなく、表の顔である構成員も含めればその数は一〇〇を超える。
能力を使っても勝算があるとは思えないが、相手がやる気なら確実に半数はぶっ飛ばしてやる。
無抵抗な少年を集団で傷つけるような奴らに対してシンクはすでに冷静に考える余裕を失っていた。
ブラックペガサスのメンバーたちは動かない。
冷たい眼でこちらを見ながら何やらひそひそと話しあっている。
そういえば班長であるテンマの姿が見えないな……とシンクが思った時だった。
「……おい、いきなり乱入してきてなにトンチンカンなこと叫んでやがる」
どこからかテンマの声が聞こえてきた。
声の出所を探して周囲を見る。
人の輪の内側、レンから数メートル離れた場所。
そこに仲間二人に支えられてかろうじて立っている男の姿があった。
服は汚れ、レン以上にボロボロの状態である。
テンマはすでに自分で立つことができないほどのダメージを負っていた。
「あ……?」
「ケンカは終わりだ。連れて帰りたきゃ好きにしろ。テメエらも、それでいいな!」
最後の気力を振り絞るようにテンマは叫ぶ。
するとブラックペガサスのメンバーたちは体育会系の部活動のように声をそろえて
「オス!」
と応えた。
「あ、あのね、シンくん……」
レンがシンクの服の裾を掴み、恐る恐る口を開く。
「ぼくね、責任を取ろうって言ったんだけど、そしたらテンマさんが言ったの。改めて決着をつけるから一対一で勝負しろって。そしたらみんな納得するからって。だから、周りの人たちはぼくになにもしてないよ」
「なん……だと……」
早とちりで数名ほどぶっ飛ばしたシンクは思わず顔を青ざめさせる。
「余計なことしやがって。せっかく収まりかけたってのに火に油を注ぐんじゃねーよ」
テンマが地面にへたり込みながら文句を言う。
その顔は笑っていた。
「まあ、テメエには後始末を任せた借りがあるから不問にしてやる。こいつは第三班への貸しだ。次に作戦でうちの奴に怪我人が出たら優先的に治療させると約束しろ。あと殴った奴には謝れ」
「ありがとう」
礼を言ったのはレンである。
少年はシンクの肩を借りて立ち上がった。
そしてひとりでテンマの元へと近付き手を差し伸べる。
「また、いい勝負ができたね」
「ちっ」
テンマは舌打ちをした。
握手を返すことはしない。
レンもすぐ手を引っ込めた。
「次は負けねーぞ、龍童……いや、シアリィェン」
レンは以前にシンクと闘ったとき以上にボロボロになっている。
それだけ本気になったテンマが手ごわい相手だったという事だろう。
シンクはレンを倒れた自分のバイクに運ぶ。
途中、間違ってぶっ飛ばした二人に詫びてそれぞれ頬を殴らせた。
レンは慌てたが、テンマの潔さを見た後でバックレるのは恥ずかしいと思った。
その他は一切シンクたちに手を出す者はいない。
問題なく海浜公園から抜け出すことができた。
リアシートに乗せたレンはいつの間にかシンクの腰に手をまわしたまま寝入っている。
振り落とすと危ないので、一旦停止してベルトで二人の体を固定。
ゆっくり安全速度で自宅のマンションを目指す。
「むにゃ……シンくん……」
「ったく。本当にバカな奴だよ、お前は」
なぜか嬉しそうなレンの寝顔をちらりと見ながら、シンクもまた優しい表情で呟いた。




