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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第五話 セブンエンペラー
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2 龍童跳梁

「それはそれとして、さしあたっての問題を解決せねばならない」

「ルゥ=シアリィェンの始末ですか」


 アテナがルシフェルの言葉を引き継いで問題を口にする。

 シンクが眉根を寄せたことに気付く者はいなかった。


「奴の居場所は把握している。現在、龍童は平沼駅東口にある砂利置場を拠点にしているようだ。どうやらそこを仮の住処と決めたらしい」

「何故ルゥ=シアリィェンは神奈川に留まるのでしょう? 復讐が目的なら、ラバース本社ではなくフレンズ社、あるいはアミティエに狙いを定める理由に心当たりは?」

「わからない。だが県内が上海と同様の戦場になれば本当に取り返しがつかないことになる。アミティエが壊滅すれば末端の能力者たちは統制が効かなくなり、急激に拡散した能力者の存在は社会を混乱させるだろう。物事には順序ややり方というものがあるのだ」


 話を聞く限り、ルシフェルはいつか能力者の存在を世の中に公表するつもりらしい。

 どのような方法を考えているのかは知らないが、とちらにせよ大変なことになると思うが。


陸夏蓮(ルゥ=シアリィェン)の力は我々の予想をはるかに上回っていた。まさかアオイくんに続いてテンマくんまで破れるとは。しかも彼は決して油断をしていたわけではない」

「担当地域外の班長にも協力を依頼できるのでしょうか?」

「そうしたいところだが、ショウは一週間前に上海へ渡ったきり行方がわからなくなっている」


 シンクはその名を聞いてさらに不機嫌になった。

 第一班班長ショウはアミティエで最強の能力者と呼ばれる男だ。

 あのテンマよりもはるかに強いらしく、マナもそいつのことを強く信頼している。


「オムくんには依頼を拒否された。当然と言えば当然だが、第二班と第三班が合同で当たっても敵わなかった相手だ。第四班が単独で挑んでも勝ち目はないとの判断は妥当だ」

「拒否、ですか……」


 第四班の班長がどんな奴かは知らないが、ずいぶんと無責任な話だ。

 というか仮にも上役の命令なのに拒否とかできるのか。


「なので、君たちを呼んだのもあくまで『お願い』をするためだ」

「もちろん我々第三班は力を尽くしたいと思います。ですがマナはともかく、シンクくんを呼ばれた理由は何故ですか?」


 新入りの立場であるシンクが他のメンバーを差し置いて呼ばれる必然性はない。

 だが、シンクには何となくわかっていた。

 彼の考えを裏付けるようにルシフェルが言葉を続ける。


「僕は彼に陸夏蓮の捕縛を任せたいと思っている」

「なっ……!」

「預かっているジョイストーンを一時的に返却しよう。彼が能力を発現させた初日にテンマくんと互角に渡り合ったことはアテナくんも聞いているだろう?」

「確かに聞きましたが、彼はまだ組織に所属して間もないんですよ? いくら才能があるからって、そんな無茶なことがありますか!」

「だからマナくんも一緒に呼んだ。シンクくんの監督責任はまだ彼女にあるからね」


 水を向けられたマナがびくりと体を震わせる。

 最近のマナは班のため本当に慌ただしく働いていた。

 レンの逃走経路の調査や誘導の下調べなど休む間もないほどに。


 そんな連日の疲れがたまっている所に加えてこの状況だ。

 見ていて心配になるほどフラフラになっている。


「マナくん。シンクくんに陸夏蓮を止めてもらいたい。彼は死ぬかもしれないが良いか?」

「絶対にダメ」


 身も蓋もないルシフェルの問いかけを、マナは背筋を伸ばしてハッキリと拒否した。


「シンクくんは私が面倒を見る大事な新規ちゃんだよ。一人前のメンバーになるまでは無茶なことはさせられないよ」

「しかし彼に戦ってもらわなければアミティエが、ひいてはこの街の平穏が脅かされる」

「それでもダメなものはダメ」


 ルシフェルは溜息を吐き、そのまま椅子の背もたれに体を預ける。

 それからようやくシンクの方を向いて口を開いた。


「ということだが、君自身の意思はどうだね?」


 聞く順番が逆だろう……

 とは口に出さず、自分の考えを述べる。


「俺はやってもいいと思っている」

「シンクくん!?」


 マナが驚愕の表情でシンクを見る。


「って言っても、俺はレンを倒すつもりはない。まずは説得してみようと思う」

「ほう、説得?」

「そもそも無理やり捕まえるとか、乱暴な手段に訴えたお前らが悪い。あれじゃラバース上海支部とやらと同じと思われても仕方ないんじゃないか?」

「なるほど一理あるね」


 ルシフェルは腕を組んで頷いた。


「あいつだって戦いたくって戦っているわけじゃないはずだ。上海のラバース支社は能力者を実験動物みたいに扱っている酷いところだったって聞いた。日本の能力者組織がきちんと統制された治安維持のための組織だと知れば、潰そうとする理由もなくなるはずだ」

「ふむ、陸夏蓮と語り合った者の貴重な意見だね。だがあまりに楽観が過ぎる。彼が上海支社やアミティエ第二班を壊滅させたのは紛れもない事実なのだよ」

「だからこそ真意を問い質す。そもそも俺には行き倒れてたレンを助けた責任があるしな。どうせダメ元ならやらないよりやった方がマシだろ?」


 あの夜、シンクはレンのことを守ってやろうと決めた。

 それは何の事情も知らなかった頃の勝手な決意だ。

 それでも一度決めた責任は果たしたいと思う。


「君なりの覚悟はできているようだね」

「シンクくん……」


 ルシフェルは二度深く頷き、それから机に顎ひじをついて言った。


「しかし監督責任者のマナくんに断られた以上、君に仕事を任せるわけにはいかない」

「……じゃあ最初っから聞くなよな」

「一応、君の意思を確認しておきたかったんだ。悪く思わないで欲しい」

「現状で俺しかなんとかできそうな奴はいないんだろ」


 それは言い訳だと自分でもわかっている。

 シンクは単純に自分に出番が回ってくるのが嬉しかったのだ。

 なんのサポートも出来ず、マナがテンマやショウばかりに頼るのが悔しいから。


「そうでもないさ。君の協力が得られないなら、別の人物に頼ろうと思っている」

「しらじらしいよ。最初からそのつもりで私を呼んだんでしょ」


 隣ではマナが珍しく怒りを堪えているような表情を浮かべていた。

 普段から感情を表に出してぶつける彼女らしくない怒り方だ。


「私が()()ジョイストーンを使って龍童を抑えればいいんでしょ。シンクくんをダシにしなくても、最初からそう命令すればいいじゃない」


 思わぬ方向に話が進んでいる。

 マナは普段から自分のジョイストーンを持っていない。

 作戦中は会社からレンタルされた複数の汎用能力を使い分けていた。

 なにか、この状況を解決できるようなとっておきの能力があると言うのだろうか?


「すまないが、事態が事態だけに慎重にならざるを得ないのだよ。無理やり押し付けたなどと言われたらアオイくんに申し訳が立たないからさ」

「私は反対です!」


 そしてこれまた珍しく、アテナが大声でルシフェルに異を挟む。


「マナにあれを使わせるのはあまりに危険です! もし万が一のことがあったら……」

「アテナくん。君はマナくんの決定に口を挟む権利は持っていない。君は彼女の先輩だが、彼女はシンクくんと違って立派なアミティエの正規構成員なんだよ」

「で、でもっ!」

「心配しないでも大丈夫だよアテナちゃん。私は失敗したりしないから」


 不安そうなアテナ。

 作り笑いを浮かべるマナ。

 見慣れない状況を眺めながらシンクは思う。


 自分はいったいどうすればいいのか。

 アミティエに所属する以上、レンを捕らえる作戦には協力すべきだとはわかっている。


 なのに、今もあの日に誓った約束が頭の中をちらついていた。

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