6 反ラバース組織ALCO
高速道路を一台の車が走っている。
一見すると普通のワンボックスカーに見える。
その周りを少し離れて数台の二輪車が不自然に取り囲んでいた。
ライダーはすべてブラックペガサスの幹部である。
中央のワンボックスカーは囚人を移送するための護送車だった。
窓の内側は鉄格子で塞がれていてドアも中からは開かないよう改造されている。
車内には四人の男がいた。
運転席にはスーツ姿の中年男性。
サイドシートにプロレスラーのような体格の男。
真ん中の座席に座っているのはアミティエ第二班班長テンマだ。
そして金網で仕切られた後部座席には、鎖でがんじがらめに縛られた少年がいる。
少年は上海の龍童こと陸夏蓮である。
一見すると人畜無害そうな童女のごとき容姿をしている年若い男の子。
しかし、その実態は上海のラバース能力者組織を滅ぼした恐るべきSHIP能力者である。
未だ力を封じられているが、その断片は能力のコピーという形で目にしている。
これだけ厳しく警戒をしていても決してやり過ぎということはない。
車内にはただひたすら沈黙が流れていた。
気まずい雰囲気というわけでない。
緊張感が漂っているのだ。
特にサイドシートの無能力者だ。
テンマはこいつが居る意味が理解できない。
もしかしてボディーガードのつもりなのだろうか?
図体だけは立派だが、無能力者など戦力にはならない。
不測の事態が発生しても助けてやる義理はないだろう。
まあ、そんなことは万が一にもないか。
龍童の能力制限は完璧だし、そうでなくともこれだけ厳重に拘束されては身動きもとれまい。
「なあ龍童……シアリィェンだっけか? お前、日本に来て何するつもりだったんだ?」
テンマは何度目かになるコミュニケーションを試みた。
龍童はうつろな目で足元を見つめたまま反応しない。
「ちっ、相変わらずだんまりかよ」
テンマは会話を諦めた。
別に話し相手が欲しいわけではない。
無言の時間を慰める戯れに話しかけたにすぎない。
背もたれに体を預けて大きく体を伸ばす。
テンマはひたすら退屈と戦っていた。
どうせ何事も起こりやしない。
起こるわけがないのだ。
龍童は何もできない。
外部に協力者がいたとしても能力者が守る車両に近づけるわけがない。
襲撃者が能力者なら話は別だが、アミティエのメンバーはもちろん、ラバース傘下の別の能力者組織の人間も邪魔をする理由はない。
どちらにせよ、これだけの守りを固めた中で龍童を連れ出すことが可能な人物なんて、テンマの知っている限りではショウくらいしかいない。
万が一以下のための備え。
テンマの仕事はこのまま時が過ぎるのを待つだけだ。
あと三十分もすれば高速道路を降りて研究所に着くし、そこでこの囚人を引き渡しておしまいだ。
ハッキリ言って時間の無駄である。
こんなことは警察に任せておけばよかったのだ。
護送なんかよりSHIP能力者狩りをしていた方が有意義である。
募る苛立ちを堪えながら、テンマは外の景色を眺めた。
山間を貫くように作られた高速道路はやたらトンネルが連続する。
横須賀インターの少し先、市境に差し掛かった辺りで、突然に異変は怒った。
「うおっ!」
体が前方に引っ張られる。
運転手が急ブレーキを踏んだらしい。
シートベルトをしていなかったテンマはシートの背もたれに顔をぶつけた。
鼻先を抑えながら運転手を怒鳴りつける。
「テメエ、何やってやがる!」
「申し訳ありません! 前方の車両が横転しました!」
「なんだと?」
座席の間から外の様子を伺う。
前を走っていたバイクが一台転倒している。
運転していたブラックペガサスの幹部は路面に投げ出されていた。
それだけではない。
テンマは左右に目を向けてみる。
車を取り囲んでいた二輪車の姿がどこにもない。
窓が開かないので確認できないが、後方の者たちもやられたのか?
ガゴン。
天井に何かが落下する衝撃があった。
フロントガラスがひび割れて真っ白に染まる。
前部座席の二人がうろたえる中、テンマは土を詰めたペットボトルを引っ掴んだ。
何者かの襲撃であることは間違いない。
即座に能力を展開する……つもりだったが、次に起きた事態は彼の予想を上回った。
車体が揺れる。
テンマは後ろを振り返った。
そこにあるはずのものがないことに気づく。
後部座席が消失していた。
シアリィェンがいない、だけではない。
彼が座っていた座席ごとごっそりなくなっている。
座席が消失した車体後部は無駄に広々として見えた。
当然、そこに座っていたシアリィェンの姿も存在しない。
車体が破壊された形跡はない。
恐らくなんらかの瞬間移動系の能力が使われたのだ。
そう判断したテンマはペットボトルを引き裂き、土を取り出して拳に纏った。
「うおおおおおっ!」
ドアを思いっきり殴りつける。
外から開けてもらえることは期待できない。
破壊して脱出するしかないが、さすが能力者護送の車両だ。
一度や二度のパンチではぶち破れない。
十数回の打撃を加えたところで、ようやくドアが吹き飛んだ。
外に出たテンマは予想通りに仲間たちが転倒して転がっている光景を目にする。
それだけではない。
走行中の二輪車から落ちれば怪我もする。
だが、誰ひとりとして立ち上がっていないのはおかしい。
仲間たちはひとり残らずビクビクと体を痙攣させ気絶していた。
「っ!?」
強烈な衝撃があった。
右腕に何かがぶつかった。
その直後、強い震動が駆ける。
「ぐああああっ……!」
思わず苦痛の叫びをあげてその場で膝をつく。
「あら、誰かと思えばアミティエのテンマさん」
声のした方角、右方の小高い丘を見上げる。
そこには消えたはずの後部座席と縛られたシアリィェンの姿があった。
そして傍らには三人の女。
「てめえ、神田ぁ!」
「あなたらしくない油断をしましたわね。当然、私たちの襲撃は予想してしかるべきでしょう?」
その人物をテンマは知っていた。
SHIP能力者の解放を謳う電波ジャックの犯人。
反ラバースのネガティブキャンペーンを行っている地下組織。
Anti Labirth Concern Organization――通称ALCOと呼ばれている集団である。




