53 最終決戦！ レンＶＳマナ
目を開けたとき、レンは地面に倒れたままだった。
先ほどリーメイにぶっとばされた後に立っていた場所ではない。
天使にやられた時と同じところにいる。
リーメイの姿はない。
また、体に痛みが戻って来た。
……あれは夢だったのだろうか？
そうかもしれない。
けど、
「ありがとう、ばばあ……！」
気合は入れてもらった。
レンはゆっくりと立ち上がる。
ふと、さっきリーメイが立って場所を眺めると、地面に槍が刺さっていた。
ここに来る前にどこかで落としてしまった『武神槍』だ。
レンはそれを手にマナのいる方へ歩き出す。
「おい」
声をかける。
マナは今まさにシンクに触れようとしていたところで手を止めた。
「レン……！」
「あれ、まだ生きてたの？」
「シンくんから離れろ」
槍を構えて敵を睨む。
マナは上っ面の笑顔を崩さない。
「やめろレン！ お前だけでも逃げろ！」
「だいじょうぶ」
自分を気遣うシンクにレンは微笑み、首を横に振ってみせた。
マナは視線だけをこちらに向けて興味なさそうに言葉を吐く。
「うーん、君にはあまり興味ないんだよね。だからもうしばらく寝ててね！」
マナの攻撃がくる。
一切の逃げ場のない津波のような一撃。
全方向から透明な破壊のエネルギーが押し寄せてくる。
さっきは何が起こったのかもわからないままにやられてしまった。
だから今度は冷静に相手の攻撃を見極める。
力でなく技で破る。
……ここだ！
レンは迫る攻撃を槍の穂先で斬り開いた。
「あれ？」
「シンくんから離れろ」
大きく一歩を踏み込む。
わずかにできたエネルギーの隙間を潜る。
間髪を入れずにまた透明な暴力の津波が迫ってくる。
「ちょっと」
再度、槍で斬り開く。
隙間を縫って接近する。
三度目の津波がくる。
慌てない。
冷静に。
斬る。
「なんなのこの子！？」
マナの顔に初めて焦りが生じた。
この攻撃は基本、避けることも防ぐこともできない。
見ることも気配を感じることもできず、触れたら甚大なダメージを負う。
攻撃が来たと思った次の瞬間にはやられている。
だが、意識を極限まで集中すれば衝撃の瞬間を捉えることはできた。
例えば風の流れ、例えば舞い散る埃の向きなどを、見る。
第五段階の龍童の力を一点に集中。
紅色に光る槍先がマナの攻撃を逸らす。
「たああああああっ！」
そして地面を蹴って一気に接近。
全身全霊を込めた武神槍の刺突。
「ぎゃっ！」
龍神の力を込めた一撃がマナの肩口に届いた。
同時にレンは全身から紅色のオーラを放つ。
「せいやあっ！」
力を振り絞った斬撃。
武神槍を斜めに振り抜く。
マナの身体を槍先が斬り裂く。
十分な手ごたえは……なかった。
「この、くそがき！」
攻撃は届いたが、倒すには至らなかった。
槍を振り抜いたレンは完全な死に体である。
怒り狂ったマナが首に手をかけて掴み上げる。
勝てなかった。
技ではどうにもならない力の差がある。
気持ちを切り替えた程度の付け焼刃の反撃じゃ、結果は簡単に覆らなかった。
悔しい。
けど、今はしょうがない。
「シンくん！」
「！？」
レンは叫んだ。
後は彼に託すため。
「おうよ。ナイスだぜ、レン！」
マナはレンへの怒りに気を取られて反応が遅れた。
背後に立ったシンクはすでに拳を振り上げている。
「生き返ってくれて感謝するぜマナ先輩。これまでの恨みの、せめて１％だけでも……」
「ちょ、ちょっとまってシンクく――」
「受け取りやがれ！」
そしてシンクはマナの頬を思いっきり殴り飛ばした。
※
最っ高に気持ちよかった。
ハルミを殺した時は陰鬱な気分しか残らなかったのに。
このクソ女をぶっ飛ばすことで得られた爽快感は、もう極上の一言だった。
とはいえ、これで終わったわけではない。
「痛っっったいなあ！ なんでそんなふうに女の子の顔を殴れるの！？」
レンの全力攻撃でも致命傷を与えられなかった奴だ。
天使だか何だか知らないが、どうやっても倒せる相手ではないのだろう。
ならばスッキリしたところで後は逃げるのみ！
「レン、行くぞ！」
「うん！」
レンが紅色のオーラを発して飛翔する。
シンクもまた七つの光球に乗ってそれを追いかけた。
二人が向かう先はもちろん今にも閉じかけている次元の裂け目だ。
「まてーっ！ シンクくん、くそがきも、ぜったいころす！」
背中に翼を生やしたマナが怒りの形相で追いかけてくる。
この速度ならなんとか逃げ切れるだろうか？
あの裂け目にさえ入ってしまえば……
「うっ」
と、突然レンの動きが遅くなった。
身体から放つエネルギーが紅から緑へ変わる。
「どうした！？」
「ごめん、力が……」
レンの放つエネルギーが明らかに弱まっている。
さすがの彼も限界が近いようだ。
レンはシンクと再開する前もルシフェルやショウを相手にずっと戦い続けていた。
仕方がないとは言え、力が尽きるにはタイミングが悪すぎる。
マナは今にも追いつこうとしているのに。
「仕方ねえ、俺に掴まって――」
シンクが速度を落としながら手を飛ばし、彼を救い上げようとした、その時。
「キュイィッ！」
空の裂け目から何かが飛び出してきた。
人間よりやや小ぶりだが、明らかにおかしなサイズの爬虫類。
翼の生えたその姿はまるで小さな竜である。
「なんだあれ、ドラゴン！？」
「あ、ドン！」
「キュイ！」
子ドラゴンは大きく弧を描くように回り込んでくる。
レンを背中に乗せ、即座に旋回して再び裂け目の方へ向かった。
「おいおい、なんなんだこいつは！」
「ドンリィェンはレンの友だちだよ。上海で一緒だったんだ」
「そ、そうなのか……？」
てっきりルシフェルの作ったモンスターの一種かと思った。
とっさに攻撃しないで良かった、マジで。
ドラゴンの飛行速度はすさまじく速かった。
あっという間に先行していたシンクの横に並ぶ。
空の裂け目が近づいてくる。
まもなく無事に現実世界へと繋がる裂け目に突入する。
あとはこのまま狭間の空間を抜ければ元の世界に帰れるはずだ。
しかし。
「まてーっ！」
異世界側の裂け目が閉じる直前、滑りこむようにマナも次元の狭間に入って来た。
