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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
最終話 カタストロフ
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45 精神制御を解く方法

 夢から覚めるように意識が現実に戻ってくる。

 気づけばシンクはレンの前に立っていた。


 少年は不安そうな顔でシンクの事を見ている。

 その表情にさっきまでの闘志は残っていなかった。

 シンクは彼に尋ねた。


「レン」

「……ん」

「まだやるか?」


 レンは黙って首を左右に振る。


「俺の勝ちだ。いいな」

「……うん」


 どうやら龍神の呪いとやらはレンの中から消えたようだ。

 最強を目指すために無理に戦う必要はもうない。

 少年は完全に戦意を失っている。


 ただ、やはりどこか喪失感があるのだろうか。

 敗北を認めたレンは今にも泣きそうな表情をしていた。

 シンクはそんなレンの頭を撫でる。


「そんな顔すんなって」

「え……」

「これからはお前に代わって俺が『最強』を目指してやる。誰にも負けねえし、どんな敵が来たってぶっ飛ばしてやる。だからお前はずっと俺の傍にいろ」

「シンくん……」


 代わりにシンクは己の心の内側から湧き出てくる衝動に気づいた。

 強い敵と戦って自分の方が上だと知らしめたい。

 そんなエゴのような欲求を自覚する。

 こいつはずっとこんなモノに支配されてたんだな。


 ただ、思っていた様に人格が極端に変化したという感じではなかった。

 腹の奥に嫌なしこりが残っているような不思議で不快な感じだ。


「まあ、でも……」


 シンクには最強の能力がある。

 いつの間にか≪七色の皇帝(セブンエンペラー)≫に宿ってた七つ目の力。

 龍神の力を最大まで引き出したレンに一方的に勝てるほどのインチキな力だ。


 自分はもう試すまでもなくこの世で最強なのだ。

 それを思えばこの内側の衝動とだって戦っていける。

 どうだ古の龍神さんよ、こんな卑怯な宿主で満足かよ?


「シンくん、どうしたの?」

「なんでもねえ。それよりレンはまだ≪龍童の力≫を使えるのか?」

「えっと」


 レンは自分の掌をしばし見つめる。

 それから上目遣いで遠慮がちに答えた。


「なんか『せいげん』がかかってた時の感じ。さっきみたいな力は出せないと思う」

「そうなのか。でも俺の方にあの緑とか紅色のすげえエネルギーが宿った感じはねえんだけど」


 龍神の力はどこに行ってしまったのだろうか?

 まあ今はレンが正気になってくれたらそれでいいか。


「さてと……」


 シンクは空を見上げた。

 地球とは明らかに違うマーブル模様の空。

 その一角に、先ほどと比べて明らかに小さくなった亀裂が残っていた。


 早く戻らないと帰れなくなってしまうかもしれない。

 こんなよくわからない世界に取り残されるとか冗談じゃない。


 ……

 とりあえず時間を止めるか。


 時間停止。

 はらりと落ちて来た葉が目の前で停止する。

 あらゆる動くものが止まり、風や葉擦れの音すら聞こえない静寂が訪れる。


 これがシンクの≪七色の皇帝(セブンエンペラー)≫の第七の能力≪絶零玉コキュートス≫だ。

 元は誰の能力なのか、どこの誰が勝手に人のジョイストーンを使って得たのかは知らないが、とんでもない能力なのは間違いない。

 いろいろと検証してみる余地はありそうだが、恐らくは時間以外にも様々なものを『停止』させられる能力のようだ。


 レンは目の前で石像のように固まったまま動かない。

 彼の身体に触れ、心の中で停止解除を命じてみた。


「……あれっ?」

「なるほど」


 周囲の時間は止まったまま。

 レンだけがシンクと同じよう動けるようになる。


「悪いな。これがさっきお前を一方的にボコった能力の正体だ」

「? よくわからないよ」

「あの裂け目を通って地球に帰る。ただ、その前にいろいろ確かめておこうぜ」




   ※


「どうしたそんなものか最強の男よ!」

「うるせえ! さっさとくたばりやがれ!」


 荒野となった地で二人の男が争っている。

 彼らがぶつかり合うたび衝撃波が四方に飛び散る。

 森林は吹き飛び、岩山は砕け、周囲一面が更地になっていく。


 小石川香織はときたま飛んでくる衝撃波を≪天河虹霓ブロウクンレインボー≫で逸らしつつ、そんな二人の様子を遠くから眺めながらため息を吐いた。


「はやく終わんないかな……」


 神器以外の奥の手を隠していたショウ。

 AEGISにも迫るほどの戦闘力を持つK。

 神話のような馬鹿二人がケンカをやめるのを待つ。 


 それにしてもショウの元気さは異常である。

 さすがはあの赤坂一族の一員と言うべきだろうか。

 さっきまでルシフェルやレンといった最強クラスの敵と戦っていたはずなのに、あの底なしの体力はいったいどこから出てくるのだろうか?


 そんなショウに対して互角の勝負を挑んでいるKも凄まじい。

 だがそのKでもAEGIS、特に星野空人には決して敵わないと自己申告している。

 やはり空人たちを救うためには彼の言っていたように精神制御を解かなくてはならず、そのための準備もしなければいけないのだが……


 とりあえず今はあの二人が満足するまで待つしかない。

 その間に香織は先ほどKから聞いたラバースの精神制御を解く方法を頭の中で再確認する。


 精神制御を解くために必要なもの。

 それは『時間』である。


 何のことはない単純な話である。

 ラバースの精神制御には効き目の制限時間があるのだ。

 ただし、普通の人間なら寿命が尽きるくらいのとてつもない長い時間が要る。


 Kはラバースの精神制御を受けていた頃に上からの命令でこの異世界へと潜入し、その際にルシフェルの罠にはまって数百年に及ぶ時をここで過ごしたらしい。


 それは普通なら発狂するか肉体が朽ちてしまうほどの長い時間だった。

 だがKは極めて特殊なJOYを持っていた。

 己の意識を完全に封じることで戦闘マシーンとなる能力。

 完全に戦うための人形となることで彼は精神の摩耗を抑えたのである。


 また、どういうわけか肉体の老化は元の世界の時間の流れに合わされるらしい。

 異世界人の特権というべきものだろうか、この世界にいる限り体感寿命は非常に長くなる。

 様々な偶発的幸運が重なってKは精神制御を外すことに成功したわけだ。


 ルシフェルはこの世界の時間の流れを自在にコントロールしていたという。

 そのやり方を知りたかったのだが、タイミング悪く彼はショウに殺されてしまっていた。

 なので、これからこのよくわからない世界で時間のコントロールの方法を探さなければいけない。


「あら?」


 ショウとKが何度目かの激突をした直後、二人の動きが同時に止めた。

 なにやら不自然な体勢のまま睨みあって動かない。

 香織は最初、ようやく二人が争いをやめてくれたのだと思ったが、


「っ!?」


 違う。

 あれは二人が自分の意思で止まったわけじゃない。

 足元に目を向けると、衝撃波で巻きあがった砂煙が浮いたまま固定されていた。


 時間が止まっている。

 この世界特有の時間の変化ではないだろう

天河虹霓ブロウクンレインボー≫を使っていた香織だけが動けるということは……


 新生浩満の≪絶零玉コキュートス≫が使用されたのだ。

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