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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
最終話 カタストロフ
248/279

24 怨敵を倒すためならば

「お前、ALCOと内通していたのか!?」

「策を弄するわりには不測の事態に弱いのだな。策謀は貴様の専売特許だと思っていたか?」


 愚弄されたと感じた浩満は鷹川を強く睨みつけた。

 それから和代に向かって怒鳴り声を上げる。


「貴様も貴様だ! なぜテロリストがラバースと懇意にしている政治家に協力するんだ!?」

「勘違いしないで欲しいのですが、鷹川さんに協力しているのは私個人であって、反ラバース組織は関係ないですわ」

「何ぃ……?」

「彼はあなたが確実に自分を裏切ることを予見してらっしゃいました。事前に内通者を通じて連絡をいただき、あなたがAEGISから離れて単独行動する場を用意してもらったんですのよ。お互いにとって最も邪魔な人物を確実に排除する機会をね」

「馬鹿な!? こいつは戦争を起こそうとしているんだぞ!?」

「知ったことではありませんわ。貴方とヘルサードさえ殺せるのなら」


 躊躇いなく答える和代の瞳に迷いはなかった。


「香織さんは可能な限り犠牲を少なくしたいと思っているようですが、私は目的さえ果たせればそれでいいんですの。戦争上等。貴方を殺せるなら安いものですわ」


 恨まれて当然のことをしてきた自覚はある。

 年頃の少女たちを無理やり争わせ、殺し合いをさせた。

 その結果として彼女たちは何人もの友や仲間を失ったのだから。


「……そうか」


 加害者意識を取り戻すことで浩満は次第に安定を取り戻し始めた。

 そうとも、自分はラバースコンツェルンの総帥である。

 命を弄ぶことが許されている人間なのだ。

 予定外の状況に取り乱したが、この程度の状況は危機でもなんでもない。


「なるほど、こいつは一本取られたようだ」


 浩満は余裕の笑みを浮かべて銃を向ける和代を見る。

 注意すべきは彼女が引き金にかけた指先だけだ。


「しかし、僕はまだ殺されるわけにはいかない。大望成就のためにもね」


 恐らく彼女は何らかのJOYを使って侵入したのだろう。

 神田和代は見事に浩満の護衛が外れた時を狙って王手をかけた。


 だが甘すぎる。

 新生浩満の切り札はAEGISの三人だけではない。

 彼の手にはどんな状況からでも確実に逆転勝利ができる最強のJOYがあるのだ。


 あらゆる概念を停止させる神器≪絶零玉コキュートス

 その最も強力な能力は時間を停止させることである。


 時を止めれば動けるのは自分だけ。

 囲まれた状況でも悠々と逃げることができる。

 行きがけの駄賃に襲撃者の心臓を止めることだって可能だ。


 実行するのは簡単だが、ここは狼狽えた姿を見られた意趣返しをしたい。

 言葉でもってお前たちが必死になって考えた策略の無意味さを教えてやる。


「というか鷹川総理、君の作戦には致命的な欠陥があるよ。僕を殺害すれば戦争は起こらない。なぜなら軍を動かす最終的な権限は僕が持っているのだからね」


 現在の法律上、軍の指揮系統は高度に集約化されている。

 即座に軍事行動を起こすためには浩満が持つ端末から指示を出すしかない。

 それ以外だと議会による多くの手続きが必要となり、その場合も最終決定権はラバースにある。


「そして君が僕を脅すというのなら、僕は国内の各都市に向かって反転ガスを積んだミサイルを撃たせよう。さすがの君も愛する自国民を盾に取られては逆らえないだろう?」

「生憎だがすでに貴様の持つ端末に軍を動かす機能はない」

「と言うわけで誰も得をしない無意味なチキンレースはやめて、ここは仕切り直しを……えっ?」


 何を言っているのだこの老人は。


「すでにシステムは乗っ取った。貴様がいくら命令を出そうが、兵たちは銃弾一発撃つことはないだろう」


 意味不明なことを言う。

 軍のシステムなんて簡単に乗っ取れるようなものじゃない。

 ラバースの技術部門を動員したとしても絶対に突破不可能なほどセキュリティは万全のはずだ。

 ましてや外部から総帥の持つ端末に干渉するなど、よほどの天才ハッカーでもない限り……


「ま、さ、か……」




   ※


 その部屋はディスプレイの光でほの明るく照らされていた。

 四方八方を無数のコンピューターに囲まれ、ファンの音がやかましいくらいに響いている。


 部屋の中心には女がいた。

 見るからに邪魔そうな長い前髪を払いもしない。

 視線を正面の小さな画面に向け、両手で左右四つずつのキーボードをせわしなく操作している。


 無表情。

 彼女を知る者ならばいつも通りの姿だと思うだろう。

 しかし今だけは少し違っている。

 時々、キータッチの合間にほんの少しだけ、うっすらと口元が緩む。


「ふふ」


 笑う。

 嬉しそうに笑う。

 誘拐されるより前、幼い頃の彼女を知る者でない限り、おそらく誰も見たことのない純真な顔で。




   ※


「アリス君は非常に協力的だったよ」


 新生浩満は急いで携帯端末を取り出して状況の確認作業に入った。

 各所に連絡を取ろうとしている間も耳からは鷹川総理の不快な声が入ってくる。


「彼女の探し人が儂のよく知る人物だったのは全くの偶然だ。奴はお世辞にも褒められるような人間ではなかったが、今回ばかりは奇縁に感謝せねばな」


 アリスは幼い頃にとある男に誘拐された経験がある。

 その時の体験が元で彼女は心を壊してしまった。

 誘拐犯はすでに死んでいるが、アリスは彼に対して強い依存を保ったままだ。

 死んだ後もその男を「パパ」と呼んで心の支えにしているのは周知の事実である。


 また、アリスはL.N.T.第一期の参加者でもある。

 戦局の末期、彼女は当時のラバースの支援者であった各界の大物たちを暗殺し、後のALCOメンバーたちとは別の方法でL.N.T.から脱出した。


 以後ずっと行方知れずになっていたのだが、近年になってようやく居場所を掴んだ。

 電線さえ繋がっていれば雷化して逃亡できるアリスを捕らえるのは用意ではなかったが、幸運にもALCOやフレンズ社よりも先に彼女を確保することができた。


 独学でJOYインプラントを完成させるほどの悪魔的頭脳を持つアリス。

 彼女は敵対組織に協力すれば厄介なことになりうる人物である。

 だからとりあえず手元に置いておいたのだが、まさか獅子身中の虫に飼い慣らされるとは……


「それとシステム開発部門長は話のわかる人間でね。彼は実によい仕事をしてくれた。今ごろはプレゼントした天国旅行を楽しんでくれていることだろう」

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