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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
最終話 カタストロフ
246/279

22 荷電粒子砲

 光が消えた後、天井と壁にぽっかり開いた二つの穴が残った。


 差し込んでくる月光は驚くほど強い。

 もはや視界は闇ではない。

 わずかに見える輪郭を頼りにシンクは入ってきた扉へと駆ける。


 さすがに手に入れた武器の効果もわからないまま実戦で使うようなマネはしてしない。

 シンクはここに来るまでの間、すでにSH2029を三発ほど試し打ちしていた。


 マークから借りたこの銃の威力と精度は予想を遙かに超えていた。

 すでに暗くなっていた夜の街を昼間のように照らしたばかりか、コンクリートの電柱をまるで型を取るように綺麗に繰り抜いてしまったのだ。


 さらに自動照準補正もついており、数百メートル先の看板にも見事に命中させることができた。

 弾数はわずか六発だが、半分を費やして性能を確かめた成果はあった。


 見事に奇襲は成功した。

 二発目がハルミに当たったかはわからない。

 だが反撃を試みた以上、失敗すれば逆撃を食らうはずだ。

 未だにそれがないと言うことは直撃を受けて死んだか、あるいは……


「っ!」


 目を覆わうほどの光が溢れた。

 シンクは思わず手を上げて顔を覆ってしまう。

 危険な状況と気づき、近くの大きな木箱の傍に待避する。


「あはっ、あははははっ!」


 哄笑が響く。

 声は紛れもなくハルミのものだ。


 シンクは顔を上げる。

 光の正体は急に点灯した照明。

 今や建物中が真っ白な明かりに照らされている。

 中二階の渡り廊下にはハルミの姿がハッキリと見えた。


「さすが新九郎だなあっ! まさかそんな隠し球を持っていたなんてっ!」


 反撃は失敗した。

 ハルミはまだ生きている。


 厳しい状況を理解したシンクは苦々しい思いでハルミを睨みつけ――

 奇妙な光景に顔を歪めた。


 暗視ゴーグルを外したハルミは、テンションとは裏腹に落ち着いた顔をしていた。

 その大仰に腕を拡げた右手の肘から先がなくなっている。


 荷電粒子砲。

 陳腐な言い方をすればビーム銃である。

 超高熱で焼き切られた腕からはほとんど流血もない。


 シンクの攻撃は確かにハルミに命中していた。

 奴は利き腕を失い、もはや得意のクナイ投げもできないはず。

 なのにあの余裕は何だ? 

 シンクは底知れぬ不気味さを感じた。


「この負傷は舞台準備にかまけて情報収集を怠ったオイラのミスとして受け入れるよっ。でもね新九郎っ、シナリオはもう確定しているんだよっ! 君がここにやって来たときからねっ!」


 残った左手でハルミは指を鳴らす。

 するとシンクのいる右側から火の手が上がった。

 炎はまるで地を這う蛇のようにくねりながらこちらへ向かってくる。


「ちっ!」


 横に飛んで炎を避ける。

 まるで動きを読んでいるかのように炎の道はシンクの行く手を先回りをしてきた。


「何だってんだ!」


 JOYか?

 いや……


「火遁の術っ! なーんて、もちろん事前に脂と着火剤を仕込んでいただけだよっ。手元……もとい、足下操作で攻撃できるようにねっ」


 シンクの位置からではハルミの足下は見えない。

 彼が奇妙にステップを踏むと、さらに別方向から火の手が上がった。


 二方向から生き物のように迫る炎。

 それを必死に避けるうちに、気づけば周囲を炎に取り囲まれていた。


 油のしみ込んだ炎は簡単には消えない。

 イチかバチかで突っ込んでいくのは危険だ。

 それにハルミが他にも罠を張っていないとは限らない。


 逆に考える。

 炎を直接当てなかったということは、この位置は安全だということだ。

 むしろ視界が遮られているせいでこちらの動きは見え辛いはず。


 SH2029の弾数は残り一発。

 多少の距離はあるが、隙を突いて今度こそ急所に当ててやれば――


「……な」


 急に足元が崩れたような感覚に襲われる。

 床に片膝をつき、手に持っていた銃が零れ落ちる。


 なんだこれは。

 力が全く入らない。

 頭に霧がかかったようだ。

 目の前では轟々と炎が燃えている。


「あははっ。ようやく効いてきたねっ」


 顔を上げるのも億劫だ。

 ハルミの声が近い。

 どこにいる。


「おっと、大丈夫かいっ? ちょっと調合をミスったかな……でも心配しないでっ。意識の混乱は数秒で治まるからさっ」


 思考がクリアになる。

 ぼやけた視界が鮮明になっていく。

 シンクはいつの間にか自分が倒れていたことに気づいた。


 身体が動かない。

 爪先から指先までどこにも力が入らない。


「……毒ガス、か?」

「そんな大層なものじゃないけどねっ。単なる気化筋弛緩薬だよっ。実は最初から建物の中に充満してたんだけど、気づかなかっただろっ? 無味無臭の濃度を保ちつつ脳を壊さないよう力だけを奪うにはかなりの時間がかかるのさっ」

「なんで、そんな、回りくどいこと、しやがる」


 現状、ハルミがその気になればシンクは容易く殺される。

 こいつの余裕の表情を崩して反撃の機会を作ることはもう不可能だろう。

 なのに片腕を奪われても狼狽するどころか、怒りの感情すら表に出さないのはなぜだ。

 ハルミはこの状況でもなおこちらの理解を超える行動を起こす。


「きまってるだろっ」


 彼はシンクの前まで歩いて来て腰を下ろす。

 その場であぐらをかいてニヤついた表情で見下ろしてくる。

 表情に一切の敵意も邪気も怒気すらもないのが逆にとても怖ろしい。


 ハルミは場違いに明るい声で言い放った。


「君を説得するためさっ。新九郎、もう一度言うよっ。オイラたちの仲間になってよっ」

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