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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
最終話 カタストロフ
245/279

21 シンクVSハルミ

 シンクは壁を背にしてハルミがいると思われる方向に身体を向けた。


「あ、その銃は撃たない方が良いと思うよっ。暴発するかもしれないからさっ」


 敵の忠告を無視してアサルトライフルを腰だめに構える。

 たぶんハルミにはこの中でもこちらの姿が見えているのだろう。

 暗闇でも見える訓練を積んでいるのか、暗視道具を使っているのかはわからない。


「まあいっか。でね、オイラは十年ほど前に宗家の命令でとある任務に就いたんだっ。まだ未成年だったオイラにしかできない特殊任務、それが第二期L.N.T.への潜入捜査だったんだよっ」


 目を閉じて耳をすませる。

 少しでも正確に相手の位置を探らなければならない。


「L.N.T.第二期は毎日が死と隣り合わせの戦場だったよ。けど、オイラに言わせれば実家の訓練の方がよっぽど地獄だったねっ。そこである程度の結果を出して、当時ラバースと急速に関係を深めていた陸軍諜報部への配属を認められたんだっ。残念なことにL.N.T.から出てきた時にはすでに宗家の方がラバースの特殊部隊に壊滅させられてたんだけどっ」


 あははっ、とハルミは笑う。


「無茶な命令を出してた宗家は潰れた。なら就職が決まった身としては、しっかりと軍のために働かなきゃねってことでね。暴人窟に忍び込んだのはその任務の一環だったのさっ」


 密閉された広い空間では音の出所はわかりづらい。

 だがなんとなくハルミが高い位置にいることはわかる。


「オイラが暴人窟に潜入した理由は知ってると思うけど、住人たちを暴走させてテロを起こすよう仕向ける事さ。都会の掃き溜めの浄化と、民営化して腐敗が進んでた警察を解体する口実作りのためにねっ。誰が考えたか知らないけどえげつない作戦だよねっ。あの時点ですでに新法が発布されることは決まってたし、多少無茶でも強引にいっちゃえって思ったんじゃないかなっ」


 なんとなく掴めてきた。

 もう少しだ、もう少しお喋りを続けてろ。


「……で、仕事で暴人窟にいただけのお前が、なんでそこまで俺にこだわるんだよ」

「よくぞ聞いてくれました! いやあ、テロを誘発させるにしても、あの街は思った以上にしっかりとパワーバランスが保たれててね。なかなか大きな動きが起こせなくて苦労してたんだっ。正直言って謀略はあまり得意じゃないし、中途半端なことをやらせても意味がないしねっ。正直どうしようかと悩んでたんだけど、そこに現れた救世主が新九郎だったんだよっ!」


 外への未練が強く、中のルールに染まってない。

 戦闘力はそこそこ高くて感情的かつ直情的で操りやすい。

 シンクはハルミにとって盤上をひっくり返すための絶好の駒だった。


「そうかよ……」


 今さら怒りで平静を失うようなことはない。

 すでにハルミへの憎しみは限界を超えている。


「でもね、感謝してるってだけじゃないんだよっ。実はオイラ、個人的に新九郎のことを気に入っちゃったんだっ。面倒だとしか思ってなかった任務だったけど、新九郎が暴人窟に来てからの毎日は本当に楽しかったんだよっ。里にもL.N.T.にも友だちって呼べるような仲間はいなかったからさっ」


 気色悪い、という言葉をシンクは飲み込んだ。

 お前はその友だちを平気で裏切り、大勢の仲間を騙して死に追いやったんだろうが。


「そうかよ」


 もはや言葉で語ることはなにもない。

 シンクはアサルトライフルを床に落とすと、控えめに両手を上げた。


「……それは何のマネだいっ?」

「見りゃわかんだろ、降参だよ。テメエはムカつくがこの状況じゃどうやったって勝ち目はねえ。望みどおりに仲間になってやるからさっさと連れて行けよ」

「へぇ」


 流石にこんな見え透いた降伏を信じるわけがない。

 ハルミはシンクの次の行動を推測しようとしているはずだ。


 銃口を斬り落とされたアサルトライフルを使うのはリスクが高い。

 かといって武器がなければ離れた位置にいるハルミに攻撃を加えることは不可能。


 この状況でどうやって反撃をするつもりと思う?

 それを考える思考の間隙こそが最大の狙いだ。


「これでもまだ不服か?」


 シンクはアサルトライフルを蹴り飛ばした。

 わずかな風切り音と、金属同士がぶつかる音が響く。

 地面を滑っていく銃にハルミが投げたクナイが当たったようだ。

 ハルミの注意が銃に逸れた隙に、シンクは素早く右手をポケットに突っ込んだ。


「おっと!」


 再び軽い金属音が響いて、手に若干の痺れが走る。

 ポケットから取り出したモノがハルミの投げたクナイに吹き飛ばされた。


 シンクが取り出そうとしたのはジョイストーン。

 今や無用の長物と化した≪空間跳躍(ザ・ワープ)≫である。


「あははっ。使えなくなったジョイストーンを投擲するつもりだったのかなっ? 意味もない反撃だと思うけど、最後まであきらめないその姿勢は……」

「かかったな、ハルミ!」


 シンクは左手で本命の武器を取り出した。

 やや大きめの自動拳銃はマークからもらったSH2029。

 引き金に指をかけつつ、ハルミがいると推測される方向に銃口を向けた。


 引き金を引く。

 光が溢れる。


「えっ?」


 荷電粒子砲から放たれたビームは亜光速で闇を切り裂いていく。

 建物の屋根に当たって音もなく円形の穴を穿ち、空の彼方へと消えるまでわずか一秒未満。

 眩いばかりの光が一瞬だけ建物内を真昼のように照らした。


「うわあああああっ!」


 瞬きするほどのわずかな時間。

 シンクは確かに目標を捕らえた。

 サイボーグを連想させる機械の目。

 顔を抑えて苦しむハルミの姿を。


「死ね」


 暗視装置を通して見る荷電粒子の光はさぞや眩しかったことだろう。

 シンクはSH2029を右手に持ち替えた。


 そして引き金を絞る。

 再び建物の中が光で満たされた。

 撃ったシンク自身すら目を開けていられないほどの光量。

 闇を切り裂いて進む光線は、ハルミへと向かって真っすぐに伸びていった。

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