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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
最終話 カタストロフ
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16 開戦の予兆

「日本の二○式戦車は高い防御性能と機動力、そして情報処理力を持った名機だ。だけど高度に電子化されているのは逆に大きな弱点でもある。そこに割り込めるのは世界でもボクくらいだけどね」


 マークは運転席のシンクを見ながらニッと笑う。


 何やら大きな音がして後ろを見る。

 戦車が向きを変えて自ら堤防に向かって突っ込んでいた。

 そのまま海岸に落ちて盛大な砂煙を上げる。


「何でお前がここにいるんだよ」


 シンクはこの男にあまり良い印象を持っていない。

 危機を救われたとは言え、仲良く馴れ合うつもりもなかった。


「反ラバース組織のサポートだよ。君もそのつもりで動いているんじゃないのかい?」

「そんなつもりはねえよ。お前らが何をやってようが知ったことか」

「へえ……」


 マークは笑顔を崩さない。

 しかし表情にわずかな陰りが見えた。

 笑っているのに笑っていない。


「じゃあこれは知っているかい? 現在、反転ガスを積んだ長距離ミサイルが日本国内の複数の基地に配備されている。総理大臣とラバース総帥の裁可があれば即座に世界中に向かって発射される予定になっているんだ」

「……何?」


 反転ガスというヤバい存在は小石川香織から聞いている。

 EEBCの効果を逆転させ電気エネルギーを使用不可能にしてしまうガス。

 世界を滅茶苦茶にするとんでもない化学兵器で、ラバースはそれを使用するもりらしい。


「新生浩満の描いたシナリオはこうだ。君たちが起こしたテロをクリスタ合酋国のせいだと決めつけ報復として一方的に宣戦を布告。先制攻撃でミサイルを使用する」


 撃たれてしまえばそれで終わり。

 ガスそのものは単なる反転のきっかけでしかない。

 ひとたび牙を剥けば怖ろしい効果をもたらす危険物質(EEBC)はすでに世界中にあるのだから。


 実行に移されたら世界は滅茶苦茶になる。

 だが、シンクは本当にそんなことが起こるのだろうかと疑っている。

 世界を滅茶苦茶にすることでラバースにとってなんの利益があるのかわからないからだ。


「和代さんと香織さんはそれを阻止するため新生浩満と鷹川総理が搭乗している艦に乗り込もうとしている。他の仲間たちは小型艇を奪うため軍の基地を強襲して、ボクはその援護として哨戒中の戦車やヘリを見つけては片っ端から使用不能にしているんだ」

「俺にどうしろってんだよ」

「なんならみんなの意見も聞いてみる? ほら――」


 マークはノートサイズの携帯端末を取り出して画面を上に向けた。

 画面から立体映像が飛び出して空間に投影される。


『あ、マーク君から連絡だ。やっほ……ぉと、新九郎君も一緒なのね』

「あんたか」


 映像に現れたのはショウと同じ最初期の能力者、ヒイラギ。

 以前は千葉県の能力者組織に所属しており、今はALCOの構成員である。


 どうやらあの携帯端末は3Dテレビ電話のようなものらしい。

 日本では見慣れない装置だが、流石はクリスタの大企業の御曹司ってところか。


『ゴメンね、結局は巻き込んじゃって』

「今さら言ってもしかたねーよ。それよりラバースが世界を滅茶苦茶にしようとしてるって話は本当なのか? さすがに信じられねーんだけど」

『間違いないよ。特殊な弾頭を積んだミサイルを配備し終わったってニュースでも言ってた』


 特殊なミサイルとはぼかした言い方だが、それだけに怖ろしい響きを持っている。

 まさか毒ガスや核ミサイルだということもないだろう。

 他国にも筒抜けのニュース番組でそんな情報を流すいうことは、いよいよ本気で戦争を始めるつもりなのだ。


『横須賀沖合に浮かんでいる艦が司令塔になってるみたいだね。そこで開戦の合図が入ればすぐにでも各地の軍が行動を開始するはずだよ』

「戦争って、本当に……?」

 

 これまで黙っていた紗雪が悲痛な表情で尋ねた。

 その声を聞いたヒイラギが質問に答える。


『あ、紗雪ちゃんもいるの?』

「はい」

『なーる。マーク君が即座に飛び出していったと思ったら、やっぱり……むふふ』

「こらヒイラギ! 何を言ってるんだ!」


 なぜか頬を赤く染めて抗議の声を上げるマーク。

 なんだこいつ、もしかして紗雪に惚れているのか? 


 まあ、相手が大企業の御曹司が相手なら小学生に熱を上げるよりはよほど健全だろう。

 どうぞ差し上げるから、この変態をぜひ正しい道に戻してあげてくれ。

 ……とシンクは口に出さずに心で思った。


『そうそう、タケハから伝言だよ。≪古大砕剣ムラクモ≫は預けておくから、これからも自由に使ってくれって』

「えっ、あ、はい! ありがとうございます」

『そんじゃこっちも忙しいから切るよ』

「おい待てよ、まだ聞きたいことが――」

『詳しいことはマーク君から聞いてね。じゃ、お互いに生きてたらまたドライブしようね』


 お前の運転なら絶対に嫌だ……と言う暇もなく一方的に通話を切られた。

 3D映像は煙のようにノイズとなって消失する。


「さて」


 マークは携帯端末の電源を切ると、なぜかそれをシンクに手渡した。


「なんだよ。くれんのか?」

「貸すだけだから後で返してね。右上の地図アプリを起動すればリアルタイムで陸軍の車両の動きがわかるようになってる」


 言われた通りに電源を入れて、見慣れぬ地図っぽいアイコンをタップする。

 近隣のかなり正確な道路地図が表示され、いくつかの赤い光点が動いていた。


「さすがに単独行動している歩兵の位置まではわからないから、あまり過信しないでね」

「これはすげえな」

「ヒイラギはああ言ったけど、残念ながらボクもゆっくりしている暇はないんだ。個人で戦車を無力化させられるだけの力を持ってるのはボクだけだからね。一緒に行ってあげられないのが残念だ」


 気色悪いことを、と思ったが最後のセリフの所でマークは紗雪の方を向いていた。

 地図通りなら観音崎経由で行けば浦賀まで陸軍車両と出会うことはない。

 これだけでも十分すぎるサポートをしてもらったと言える。


「言っておくけど、俺は戦争が起きようが世界が滅茶苦茶になろうがどうでもいいからな。こっちはこっちで好きにやらせてもらうぜ」

「それが結果的にボクたちの役に立つならご自由に。そうだ、ついでにこれも持って行くと良い」


 次に手渡されたのは拳銃だった。

 形は普通の自動式拳銃だが、やや大型である。

 銃身が太くて長い。


「SH2026の改良型SH2029、通称sentimental hero plus。世界で初めて実用化された片手サイズの荷電粒子砲だよ」

「荷電粒子砲って何だ?」

「使ってみればわかるよ。SH2026と違って弾数は六発しかないから気をつけて、とんでもない威力があるから間違っても冗談で一般人に向けて撃たないでね」

「……ありがたくもらっておくぜ」


 なんだかんだ言ってALCOからは多くのサポートを受けてしまっている。

 結果的に彼らの思惑通りになっていることは癪に障るが。


 互いに利用し合っていると開き直ることもできず、シンクはすべてが終わったら今度こそレンと二人で誰からも干渉されないところへ行こうと思った。

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