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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
最終話 カタストロフ
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13 高木VS『K』

 ある日、毎日十二時に発表される序列から二人の名前が消えた。

 Kとハルミが何者かに倒されたなどという話は噂話にも上っていない。

 ずっと後になって知ったことだが二人はL.N.T.から中途退場していたようだ。


 スッキリしないまま一位の座に就いた高木は、その後ますます激化するバトルロイヤルを制し、L.N.T.第二期のたった一人の生存者としてラバースの戦闘員となった。

 そこでKが一足先に途中勧誘されていたと知った時は怒りに気が狂いそうになった。

 あまつさえ奴は一期生以外では初のAEGISの最有力候補とまで言われていたのだ。


 ところが、Kはそんな恵まれた立場を捨ててラバースを裏切った。

 そして繰り上がりで高木がAEGIS候補に選ばれることになったのである。


 第二期終盤の地獄を生き抜いた高木としては、同じく途中でL.N.T.を抜けて陸軍入りしたハルミも憎らしく思うが、仮にも仲間であるため大っぴらに事を構えることはできない。


 だがKは違う。

 この男は自らの意志でラバースの敵となった。

 しかもALCOと呼ばれる反ラバース組織に手を貸しているのだ。


 これも後で知ったことだが、どうやらL.N.T.にいた頃からKは何らかの手段でALCOの人間と連絡を取り合ってたらしい。

 裏切るだけの下地は十分にあったということだ。


「本音を言えばテメエが裏切ってくれたのは嬉しかったぜ。敵ならブチ殺しても誰からも文句は言われねえからなぁ!」


 高木は血走った目でKを睨みつける。

 骨も砕けんばかりに拳を握り締める。


 かつてはKのトリッキーな動きに翻弄されて破れた。

 それは己の力が足りなかったのが最大の原因だ。

 相性の悪さなど吹き飛ばすような圧倒的な力を高木は戦いの日々の中で手に入れた。

 途中で街を抜け出したKやハルミはあの地獄を最後まで見ていない。


 俺が、俺だけが生き延びた。

 俺には強烈な自負と経験に裏付けられた力がある。

 もう今はあの時の序列のままの力関係ではないことを証明してやる。


「後悔しやがれ、俺の前に堂々と姿を現した自分のマヌケさ加減をなぁ!」


 高木は全速力で距離を詰め、全力で拳を振るった。

 大口径のマグナム弾にも匹敵する、Dリングの守りでさえ打ち破る破壊の拳。

 うろちょろ逃げ回る前に一撃で終わらせてやる!

 はずだった。


「……は?」


 鈍い音が響いた。

 高木は理解ができなかった。


 強烈な衝撃で体が後ろによろめいても。

 右手を凄まじい激痛が襲っても。

 肘から先の骨が粉々に砕け、だらりと垂れ下がっている自分の腕を目にしても。


 真正面から殴り返され打ち負けたなど、とてもではないが信じられるわけがなかった。

 高木は全力で殴り掛かった。

 にも関わらず、完膚なきまでに破壊されたのは自分の腕の方だった。


「序列などに興味はないが」


 Kが呟くように言葉を吐く。

 奴の拳は傷ひとつ、痣ひとつない。

 変わらない存在感を放ちそこに立っている。


「お前ごときに俺が力で劣るなどと、どうして思った?」

「ひっ」


 高木はKに背を向けて走った。

 すでに超再生力によって右腕は修復を開始している。

 このまま一分も経てば骨もくっつき万全の状態を取り戻せるだろう。


 だが、戦う気力は二度と湧いてこない。

 今のわずかなやり取りで根こそぎ刈り取られてしまった。


 高木は強くなった。

 以前にKと戦った時より間違いなく強くなった。


 だからこそ気づいてしまった。

 あの時は全く気づいてもいなかったことを。

 努力ではどうしようもないほど圧倒的な実力差があることを。


「ひいーっ!」

「逃さん」


 振り向く。

 Kが追ってくる。


「や、やめろぉ! 来るなぁ!」


 高木は目元に涙すら浮かべながら一心不乱に逃げた。

 それはあの街で味わってきた地獄すら忘れてしまうほどの恐怖だった。


 必死の努力でのし上がって来た者が超えられない壁の存在を認識したときに陥る絶望。

 いつか乗り越える機会があるのなら成長の糧となり得るもしれない。

 だが、おそらくそのチャンスはもう得られそうにない。


 あっという間に追いつかれた。

 Kの手が肩に触れる。


「やめろぉ! 放せェ!」


 高木は叫ぶ。

 だだっ子のように暴れる。

 その直後、衝撃と共に高木の意識は闇に堕ちた。




   ※


「さて」


 ターゲットの一人である高木は仕留めた。

 こんな奴はしょせん前座にすぎない。

 本当に手ごわい敵はAEGISの三人だ。


「ここからが本番だな」


 特にあのラバース最強の戦士、星野空人。

 かつて何度か顔を合わせた男の顔を思い浮かべながらKは呟いた。

 事と次第によっては今日中に残りの標的とも相まみえる可能性はあるだろう。

 荏原新九郎や反ラバース組織の面々が横須賀市内で暴れている間が勝負だ。


 彼の目的はあくまで大望成就のための露払いと陽動である。

 高木の存在はすでに忘れ、気持ちを切り替えて臨海公園を後にした。

 周囲から完全に気配を断ちつつ、超人的な脚力でもって地面を蹴り宙を飛ぶ。


 目指すは対岸、新日本陸軍統合軍基地。

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