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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第二十四話 アーマゲドン
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6 マッハババア

 その自動車専用道路は大渋滞を起こしていた。

 混んでいるのは上り方面だけ。

 反対車線は全くのガラガラである。


「ねえ、本当に戦争が始まるのかな?」


 その中のひとつの車内にて。

 助手席に座る女が不安そうに運転手の男に言った。


「さあな……ちっ。何なんだよ今日は」


 運転席の男はたいして興味もなさそうに聞き流してタバコに火をつけた。

 カーラジオからは彼の欲している交通情報は全く流れて来ない。


 流れるのは各地の新日本軍の駐屯地がミサイル攻撃を受けたという情報と、東京湾上空で謎の飛行物体が暴れまわっているというよくわからないニュースだけだ。


 不安を煽るニュースキャスターの言葉が彼を余計に苛立たせる。

 生まれた時にはアジア大戦が集結していた彼にとって戦争なんて授業の中の話でしかない。

 そのアジア大戦にしても日本の一般市民は全く巻き込まれることなく終ったのだ。

 軍人でもない自分が戦禍に巻き込まれるなど夢にも思っていない。


「事故だか工事だか知らねえけど、やるなら夜中にやれよな……」


 それより問題はこの渋滞である。

 せっかくのデートが台無しになってしまった。

 レストランの予約時間にはもう間に合わないだろう。


「東京湾上空を飛ぶ謎の飛行物体ってなんだろうね。UFOかな」

「そんなのいるわけねえだろ。常識で考えろよ」


 男はため息を吐いた。

 つきあい始めて一ヶ月になるが、この女はつまらないことに興味を持ちすぎる。

 さっきからいちいちニュースの内容に反応して喋りかけてくる事といい、だんだん煩わしくなってきた。


 戦争も、UFOも、もちろん幽霊や都市伝説も、すべて現実にはあり得ない話だ。

 どうせ一時だけ騒いでもすぐ話題は消えて退屈な日常が続いていくだけ。

 楽しみなんてパチンコか休日に女と遊ぶことくらいのもの。

 それが普通の人生ってもんだ。


「もう、ちょっと。タバコ吸うなら窓開けてよ!」

「うるせえなあ」


 この女ともこれまでかな……などと思いながらパワーウインドウを下げる。

 窓から右腕を出した男は思わず咥えていたタバコを落としてしまった。


「な、なん、なんなん――わっちゃあ!」

「何やってんの?」


 数秒ほど我を忘れていた男は膝に落ちたタバコの熱さで正気に戻る。


「あ、あれ見ろ……!」


 彼は対向車線側の進行方向。

 つまり彼から見て右後方を指差す。


「なによ」

「ババアが走ってる!」

「は?」


 助手席の女は身を乗り出すように振り向いた。

 しかし、残念ながらすでにその姿は見えない。


「ごめん。意味わかんないんだけど」

「マッチョのババアが対向車線を走ってたんだよ! ものすごいスピードで!」

「あ、うん……あったね。そういう都市伝説」


 どうやら信じていないらしい。


「都市伝説じゃねえよ! 現実にたった今あった出来事だよ!」

「大丈夫、わかってるよ。空気を和ませようとして冗談を言ってくれてるんだよね。わー、すごいなあ。高速道路を走るおばあさんかー」


ダメだコイツ。

 なんで信じないんだよ。

 たった今この目で見た現実だろうが。


 すごかったぜマジで。

 新幹線みたいな速度で走るマッチョババア。

 とんでもねえ。


「それにしても随分懐かしい都市伝説を覚えてるんだね。かわいいところあるじゃん」


 とりあえず、この女とは今日のデートが終わったら別れよう。




   ※


 ルシフェルはクールである。

 時々は頭に血が上ることは認めよう。

 つい衝動的に怒鳴り散らしてしまうこともある。


 しかし、いつでも落ち着きを取り戻せる。

 冷静で的確な判断が下せるようになる。

 これは自分の長所だと思っている。


 一〇ずつ編隊を組ませた『ライトニングフェザー』をレンに向かって絶え間なく放ち、ショウからは常に距離を取るように移動する。


 ショウはルシフェルを追いかけている。

 レンは完全にショウに狙いを定めている。

 そしてルシフェルはレンを集中的に攻撃だ。


 これは一見すると一方通行の戦いのように見える。

 だがルシフェルはすでに標的を変えていた。


 光のミサイルは基本レンに集中させつつ、適度にショウの進路も妨害する。

 現状で最も不利な立場にいるのはショウである。

 なぜならショウの攻撃は絶対にルシフェルに届かないからだ。


 逃げ回れば無駄に体力を消耗するだけ。

 そして彼を追っているレンの攻撃はやがてショウを捉える。

 今は機動力で勝るショウが逃げ続けているが、それも時間の問題だ。


 どちらにも『ライトニングフェザー』では両者に致命的なダメージを与えることはできない。

 しかし≪神罰の長刀(パニッシャー)≫を使えば確実に仕留められる。


 問題はルシフェルがこの武器の扱いに慣れていないことくらいか。

 高速で飛び回る敵に接近して斬りつけるのは至難の業である。


「くそー! 僕を無視するなお前らー!」


 だからルシフェルはチャンスを待つ。

 怒り狂ったフリをして、レンだけを狙うフリをして、その時を待つ。


 そして最良のタイミングが来た。

 レン、ショウ、ルシフェルが一直線上に並ぶ。

 互いの距離はほぼ同じで、ややレンとショウの間隔が近い。


「ははっ! これで終わりだ!」


 ルシフェルは一気に一〇〇以上の『ライトニングフェザー』を撃ち放った。

 螺旋軌道を描きつつ半円状の隊列を組んで一気に下から突き上がる。

 それはあたかもショウの進路を塞ぐ光の壁のようにも見えた。


「なっ!?」


 正面はもちろん、左右に避けることもできない。

 ショウの逃げ道は完全に塞がれた。


 もちろん≪神鏡翼ダイヤモンドウイング≫の防御力があれば耐えきるだろう。

 しかし動きを止めた彼にレンが追いつくはずだ。


「てやぁっ!」

「ちっ……」


 光の壁が通り過ぎ去った向こうで、溢れるほどの緑色のエネルギーを放つレンの姿が見えた。

 ショウはそれを任意展開させた防御壁で受け止める。


 だが、まさしくそこがルシフェルの狙った瞬間だった。

 自分の意志で防御壁を張れば、その瞬間だけ意識が逸れる。

 急接近したルシフェルの姿に気づいた時にはもう遅い。


「散れ、神器を持つ最強の能力者よ!」


 掛け声と共に≪神罰の長刀(パニッシャー)≫を振り抜く。

 長さ五メートルを誇る長刀は≪暗黒魔王翼ダークネスウイング≫の防御壁を内側から斬り開きながら外の敵を攻撃する。

 もちろん流動的防御壁は直後に復元するから問題はない。


 そして長刀が≪神鏡翼ダイヤモンドウイング≫に触れる。

 わずかな抵抗を感じたものの、確実に斬り裂く感触が伝わってくる。

 これまで誰も破ることの出来なかったショウの絶対防御壁が、ルシフェルの手で初めて破られた瞬間だった。


「う、おおおおっ!」


 ショウは紙一重で後ろに身を逸らす。

 ぎりぎりで首が胴から離れるのは避けたか。


 あのタイミングでこの反応はさすがである。

 やはりこの男は能力だけではない戦闘のセンスがある。


 しかし、彼の愛刀『大正義』は根元から断ち割られた。

 強化日本刀と言えども≪神罰の長刀(パニッシャー)≫の前では小枝と変わりない。


「たああああああっ!」


 背後から迫ったレンの拳が防御を失ったショウに迫る。


「うおおおっ!」


 今度は避けることも防ぐことも適わない。

 ショウの体は弾かれたゴムのように吹き飛んだ。


 彼は海面に叩きつけられ水柱が盛大に上がる。

 ミサイルにも匹敵する威力があるレンの全力パンチを受けたのだ。

 あれをまともに食らってしまえば、ショウと言えどもはや生きてはいないだろう。

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