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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第二十三話 バイオレントリー
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9 バックアップ魔王

 そんなわけで、なし崩し的にシンクも道を踏み外してしまった。

 まあいいさ。

 言ったからには責任は持つ。


「んじゃ、行くか」

「どこへ?」

「どこでも良いさ。何なら一緒に清国に行くか?」


 どうせもうこの街に未練は無い。

 犯した罪も恨みも捨てて、さっさとおさらばして構わない。

 ラバースやアオイは憎んでも憎みきれないが、これ以上はもう関わり合いになりたくないというのが今のシンクの本音だった。


 こいつとならどこへ行ってもやっていける。

 そんな気がした。


「えっ、えっ? それって……やだ、もー、シンくんってば!」


 ばしっ。

 なぜか顔を赤らめたレンに思いっきり殴られた。


「痛えよ! 変な想像で人を殴るな! せめて≪龍童の力≫を解いてからにしろ!」

「ごめんなさい! でも、嬉しい!」


 あー、はいはい。

 しかし今更だがコイツの可愛さは異常だな。

 実は男だとか以前にまずはロリコンを疑われかねないレベルだ。


「ねえねえ。シンくんをばあちゃんに紹介してもいい? レンね、大好きなひとを助けるためにせいげんを解きたいって言ったの。だから無事に成功したって報告をしたいです」


 なんか勝手に盛り上がってるし。

 お前は初めて男を家に呼ぶ彼女か。


「一応聞くけど、ばあちゃんには好きな人ってのが男だって言ってあるのか?」

「え? 言う必要はありますか?」

「そうか。まずは少し話し合おうな」


 孫が大切な人を連れてくると聞いてるばあちゃん。

 同年代の少女かと思ったら年上の男でした。

 下手したら卒倒するかもしれないぞ。


 いや、考えるのは後にして、とりあえずここから離れよう。

 なにせここは軍の大部隊が駐屯してる危険地帯なのだ。

 親父がクーデターを起こせばさらに混乱は拡がるだろう。

 そのチャンスを利用してできるだけ遠くに逃げてしまいたい。


 浮かれる少年の手を引いてシンクはとりあえず建物から出ようと考えた。

 階段を上った所でシンクが目にしたのはまるで戦場跡のような凄惨な光景だった。

 かつては大勢の人々が買い物を楽しんだショッピングプラザが今は瓦礫と埃にまみれている。

 あちこちに白い巨人兵器の残骸も横たわっていた。


「……お前、やりすぎだろ」

「えへへ」


 えへへじゃなくて。

 褒めてないから。


「おっと、外に出た瞬間にスナイパーとかに狙われねえか?」

「大丈夫だよ。レンが守るしシンくんを抱いて飛んで行くから」

「飛んで行くって言ってもな」


 まあ、ここでじっとしていても袋のネズミになるだけだ。

 周りに動く敵の気配がないかを注意深く探りながら、シンクたちはビルの出口に向かう。

 完全に砕け散ったガラスドアの跡を跨ぐと、突き刺すような灼熱の日差しが暗所に閉じ込められていたシンクの目を眩ました。


 ……灼熱の日差し?


 待て、今はたしか真冬だぞ。

 いくら薄暗い場所に長く閉じ込められていたからって、こんな真夏みたいに太陽が照りつけてくるわけが――


 思考をかき消すような爆音が響いた。

 空を見上げるとビルの最上階近くが煙をあげている。

 黒煙は見る間に膨れあがり、もうもうと激しく立ち上り始める。


「な、ん」

「シンくん!」


 レンに腕を掴まれたと思った瞬間、体がふわりと浮かび上がった。

 緑色のオーラを纏ったレンがシンクをしっかりと抱きしめて飛翔したのだ。

 二人の体はみるみるうちに上空へ向かって昇っていく。

 直後、ラバース横浜ビルが倒壊を始めた。


 ビルは巨大な黒煙の柱と化し、轟音を立てながら崩れ去っていく。


「なんだよ、なにが起こってるんだ!?」


 まさかレンを始末するため軍が爆弾でも起爆させたのか?


 いや、いくらなんでもそんな無茶なことするわけがない。

 ここはフレンズ本社を初めとする民間企業が入っている建物だ。

 たとえ厳戒態勢だとしても、中が完全に無人であることはあり得ない。

 ましてやあれだけ巨大な建物が崩れたら周囲に甚大な被害を巻き起こしてしまう。


「シンくん、あれ……」


 レンが珍しく焦ったような声を出した。

 彼の指の先を見ると、そこにはある種の幻想的な光景があった。


 東京湾上のある一点を中心に、いくつもの光が放物線を描いて伸びている。

 それはまるで巨大な天使の翼のようであり、もっと俗な言い方をすれば……


 いつかテレビで見た戦争映像にあった、無差別に発射されるミサイルの光跡のようだった。




   ※


 堕天使、降臨。


「ふははっ、ふはははははははっ!」


 数多の光の軌跡の中心で哄笑が響く。

 東京湾の遙か上空で拡がるのは真っ黒な六枚羽。

 その中心に特徴的な長い銀色の髪を風に靡かせた男がいた。

 仮想空間内で死んだはずのルシフェルである。


「見たか、哀れな人間どもよ! 生まれ変わったこの僕の真の力を!」


 正確にはそのバックアップ。

 彼の個体情報はすべて完全コピーして保存がしてあった。

 そこに別の情報を上書きすることによって作られた、いわば新たな人工生命。


 ルシフェルが現実世界に生きていた頃の記憶を持ち、彼自身がデザインしたビジュアルとプログラムした能力を持つ、LASUプロジェクトの最終完成形。


 たった一度の攻撃で日本中のあらゆる場所に大破壊をまき散らす。

 神をも思わせるインチキじみた戦闘力を持つ最強の戦士。


「我が名は魔王ルシフェル! この地上を破壊する使命を帯び降臨した、暗黒魔界ビシャスワルトの支配者ぞ!」


 それは子どもの妄想の具現化。

 天才的狂人の夢の実現。


「さあ親父! 貴様の作り上げたラバースとこの僕の最高傑作と、どっちが強いか勝負だ!」


 科学とJOYと少年の反発心が生み出した、空想世界から飛び出した魔王だった。

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