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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第二十一話 ソルジャ-
187/279

1 梱包工場

 ちくしょう。

 よくも僕を、殺したな。

 よくも、よくもよくもよくも、この僕を殺したな!


 許さないぞ、裏切り者どもめ。

 どいつもこいつも僕を裏切りやがって。


 なにが政治家だ。

 なにが権力者だ。

 なにが大企業だ。


 僕は神なんだぞ。

 この世界の、そしていずれはお前らの世界の!


 もう許さないぞ。

 僕を馬鹿にしたことを、必ず後悔させてやる。




   ※


 轟音が鳴り響く。

 アスファルトの破片が飛び散る。

 爆煙が晴れるより早く『燃ゆる土の鎧』で武装したテンマは駆けた。


 進路を塞ぐように護送車が飛び出す。

 成人男性よりも二回りほど大きい灰色の巨人と、十トンを超える大型車両が激突。

 抉れたのは護送車の前部の方だった。


 運転席に座っていた人間は即死だっただろう。

 しかしテンマの巨体も衝撃ではね飛ばされ、体を仰向けに横たえる。


「ぐあっ……」

「今だ、撃てっ!」


 動きの止まった巨人に向けて、シンクの号令と共に対戦車用榴弾が撃ち込まれる。

 図体に似合わず機敏な動きが特徴の『燃ゆる土の鎧』だが、流石に倒れた状態から攻撃を避けることはできなかった。


 テンマに次々とグレネードが着弾。

 先ほどの衝撃に数倍する大爆発を起こす。


 追撃はそれだけに止まらず、扇状に広がった荏原派のメンバーたちは、立ち上る煙に向けてフルオート射撃で弾丸を撃ち込んでいく。


 シンクもAKS74Uの残り弾丸を全弾撃ち尽くしてやる勢いで連射した。


 弾が無くなった者は絶え間なく走り回る補給班からマガジンを受け取ってリロード。

 彼らは通常火器の破壊力を思う存分に見せつける。

 そして……


「っ! 止めろ、もう撃つなっ!」


 煙の中で眩い光が広がるのが見えた。

 シンクは即座に号令をかけ、銃口を敵に向けたまましばし待つ。


「う、あ……」


 煙が晴れ、うめき声と共にテンマが姿を現す。

 すでに彼はアスファルトの鎧を纏っていなかった。


 JOYの耐久度を超えた攻撃に装甲が持たなかったのである。

 意識はあるようだが、立ち上がることはできない。

 重傷を負ってるのは一目瞭然だった。


「悪いな、テンマ」


 シンクはライフルを単発発射に切り替え、テンマの両足の腿を撃ち抜いた。


「ぐあっ!」

「殺さないのはせめてもの情けだ。絶対に立ち上がって来るなよ」


 本当ならここで始末しておくべきだろうが、シンクはそうしなかった。

 一応はかつては共に肩を並べて戦った事もある。

 できれば殺したくはない男だ。


「新九郎は甘いねっ。そんなんじゃいつか大きな失敗をするよっ?」


 参謀のハルミが呆れたように言う。

 彼の言うとおり、知り合いを殺すには少しばかり覚悟が足りなかった。

 登場時の奇襲と合わせて、テンマとの戦いで四人の仲間の命が失われていることを考えれば、やはり甘い対応としか言えないだろうが。


「それより工場内を調査するぞ。そろそろ警察が乗り込んできてもおかしくないんだ」


 時間がないことを言い訳にして彼の意見を跳ねのけた。

 とはいえ、それもまた事実である。


 すでに自動車工場に侵入してから二十分が経過している。

 もういつ外からの応援がやってくるかわからない。


 護送車は今の戦いで完全に破壊されてしまった。

 残った弾薬を運んで行動すると足も遅くなる。

 一分一秒の無駄すら許されない状況だった。


 テンマの排除に成功したシンクたちは、EEBCの秘密工場が隠されていると思われる第十工場棟に侵入を開始した。




   ※


 ところが、工場内でシンクたちが見たものは予想外の光景だった。


「なあハルミ。これはお前の情報が間違ってたって事でいいのか?」

「いやあ、なにせラバースにとっても極秘の情報だからね……」


 流石のハルミもばつが悪そうだ。

 普段の間延びした喋り方も控えている。


 SHINAI自動車厚木工場第十工場棟。

 その地下には確かにEEBCの秘密工場があった。

 ただし、すでに完成した商品を改めて荷造りするだけの梱包工場である。


「EEBCの工場であることに違いはないよ。ついでだからいくつか盗んで行こうか?」

「言いたいことはそれだけか?」

「ごめん」


 ここには裏の山道から直通でトラックが入れるようになっている。

 運んでくるのは発泡スチロールいっぱいに詰められた四角柱の透明の宝石。

 どこかで作られたelectric() energy() boost() core()の山だ。


 それを分割して梱包し傘下企業に送る。

 ここは単なる中継地点点でしかないのだ。

 窃盗が目的なら最良と言えるが、シンクたちの目的はあくまでEEBCの秘密を暴くことである。

 ただ盗むだけではラバースコンツェルンにダメージは与えられない。


「なあオッサン。本当にこいつがどこから送られてくるのか知らないのか?」

「し、しし、知らない。本当だ、助けてくれ」


 シンクの足下には作業服姿の男が転がっていた。

 銃弾を撃ち込んだ足からは止めどなく血が流れている。


 この男は全員待避の館内放送に従わず、必死に梱包途中のEEBCをトラックに積んで運び出そうとしていた勇敢な男である。

 武装したテロリストに怯えてさっさと投降した役立たずの能力者たちに比べれば遥かに責任感のある人物と言えるが、逆に言えば危機感が足りない。


「別に製作工場があるとして、そう遠くはないと思うんだよね。少なくとも県内……いくつかそれっぽい場所の目星はつくけど、どうする?」

「考えるのは後だ。さっさと脱出しないとヤバいぞ」


 もう突入からかなりの時間が経過している。

 これ以上留まっては警察に囲まれる恐れがある。


 先の戦闘で四人が死亡したので残った人員はシンクとハルミを含めて二十六人。

 目星のつく場所があるにしても、集団でぞろぞろと歩いて移動するわけにはいかない。

 可能なら怪我人の手当てもしたい。


「そこのトラックを奪って裏口から出よう」


 停車中のトラックは全部で三台。

 さすがに一台に二十人以上が乗り込むのは不可能だ。

 結局、隊を三つに分けて分散して裏口から脱出することになった。


 残った弾薬と武器を出来る限り荷台の中に積み込む。

 何かに使えるかもしれないEEBCもいくつか持っていくことにした。

 シンクが運転席に入り、助手席にはハルミが座り、六人が荷台に身を隠す。

 他のトラックにも九人ずつ分かれて乗り込んだ。


 裏口のシャッターを開けてシンクたちは先頭を切って工場から脱出する。

 オレンジ色のライトが照らす長い地下トンネルを抜けると、そこは人気の無い山道だった。


 少し進むと道路の真ん中にポールがあって進路を邪魔していた。

 ヒヤリとしながら車を降りて確かめると、簡単に引っこ抜くことができる。

 適当に道端に投げ捨てて再び車を発進させた頃には後続の二台も追いついてきた。


「どこだかわかるか?」

「たぶん清川村の手前辺りだねっ。次の丁字路を左に行けば宮ヶ瀬湖、右に行けばぐるっと回って厚木市の中心部に戻るよっ」


 シンクの質問にハルミは即座に答える。

 携帯端末もナビも使わずによくわかるものだ。

 彼の言った通り、一分ほどで清川村の標識が見えた。


「見当はついているって言ってたな。次はどこを狙う?」


 EEBCの工場は県内にあるとハルミは言った。

 ならば今からでもすぐに向かうべきである。


 このまま逃げ続けてもジリ貧になるし、生き延びるためには混乱が続いているうちにラバースの秘密を押さえるしかない。


「藤沢か津久井か中井町だね。それっぽいラバース系列の大きな工場があるところだよっ」


 方角はすべてバラバラだった。

 一番近いのは中井町だが、進行方向から見れば反対。

 つまり、たった今襲撃してきたばかりの工場付近を横切らなくてはならない。


 藤沢は大きく距離が離れている。

 津久井に行くならこのまま山道を直進すればいい。

 ただし、ほぼ一本道であり、挟撃を食らえば逃げるのは難しい。


「さっきの梱包工場が最終工程だと考えると、一番近い中井町の可能性が高いかな」


 ハルミが言葉を付け加えた。

 目星がついてるなら考えるまでもない。

 どこに行くのも危険なら一番可能性が高い場所に向かうまでだ。


「Uターンするぞ! 荷台の奴らはしっかりつかまってろ!」


 シンクは宣言し、道路左側の駐車場に乗り入れて強引に車体を転換させた。

 荷物が崩れる音と仲間の叫び声が聞こえたが無視して後続の二台にパッシングで合図を送った。

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