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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第二十話 ライオット
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7 テロリストVS少年能力者たち

 抵抗らしい抵抗があったのは最初の数分だけだった。

 考えれば当たり前だが、表向きは単なる自動車工場なのである。

 銃器で武装したプロの警備兵が堂々と防衛についているわけでもない。

 もっぱら能力者が要所を固めていたが、彼らのやる気のなさはシンクたちの盛り上がりに水を差すほどであった。


 能力者と言っても汎用能力の使い手ばかり。

 一応、広場での待ち伏せや死角からの攻撃など多少は頭を使っている様子はある。

 だが肝心の攻撃手段がボール大の火球を飛ばしたり、ゴム弾を撃ったり、転ばせたり、目眩を起こさせたり、一瞬だけ動きを止めたり……


 つまりは子供だましのレベルなのだ。

 攻撃を受けてもちょっと痛い程度。

 もしくはムカつくだけだ。


 調子に乗って向かってくるバカには反撃のアサルトライフルが吠える。

 サポート役もやり方が稚拙で、怯える事務員たちを威嚇しながらで十分に対処できた。

 七人ほど殺したところで能力者の一人が涙目で投降を願い出てきた。


「助けてくれ! もう逆らわないし、他の仲間たちも降伏するよう説得するから!」


 JOY使いにとって命の次に大切なはずのジョイストーンを差し出して必死に命乞いをする愚かな少年。

 まったく、見るも哀れな姿だった。

 シンクは彼に頭に銃口を突きつけたまま仲間に連絡を取らさせる。

 周囲に注意しつつ三分ほど待つと、スピーカーから慌てた様子のアナウンスが流れてきた。


『こ、この工場はテロリストに占拠されました。警備員は直ちに武装解除して第一工場棟の前に集合してください。テロリストは銃で武装しています。決して逆らわず、刺激しないように、慎重に行動をしてください』

「占拠って。まだ建物の一つに乗り込んだだけだろ……」

「若者たちに本物の殺し合いは刺激が強すぎたかなっ。おかげで工場探索が楽になるねっ」

「これなら最初の奴らも脅しで済んだのかもな」


 むしろ気分は駄々落ちである。

 とりあえず武装解除した少年を引き連れて建物から出る。

 見張りをつけるべきかどうか迷ったが、必要ないだろうと判断してやめた。


「さすがに襲撃の情報は外に漏れてるだろうし、拷問でもしてEEBCの生産区画を吐かせるか」

「ひっ」


 哀れな投降者の左手の小指をそっと掴みながらシンクは尋問を始める。


「この工場のどこかでEEBCを作っていることはわかってる。それはどこだ?」

「だ、第十工場棟の地下ですっ。外からトラックが直接入って荷物を下ろして、そこで最後の仕上げ加工をしてますっ!」

「マジかよお前」


 何とも簡単に極秘情報をバラすものだ。

 怯えたフリは演技でこちらを騙していると考えるべきだろうか?

 確かめるため小指を折ってみたが、大げさに泣きわめくだけで怪しいそぶりは見せなかった。


「ぎゃああ! ぎゃああああ!」

「静かにしないと撃ち殺す」


 脅すと目に涙をいっぱいに溜めて大人しくなった。

 まあ、この程度の奴が本当の情報を知らされているとは限らないか。


「少なくとも本人は嘘をついてるつもりはないみたいだな」

「行ってみればわかるさっ」


 地図を見れば第十工場棟は敷地の外れにあった。

 シンクたちは護送車に乗り込んでその建物に向かう。


 車内で点呼を取るも、欠けている仲間はなし。

 移動途中、両手を挙げて行進している作業服姿の工員たちを見かけた。

 列から離れた場所には私服の少年がいて、偉そうに腕組みをしながら工員達を監視している。


「あんなのに見張れてちゃむしろ仕事効率が落ちるよねっ。どうする? やっつけてジョイストーンを没収しておくっ?」

「時間の無駄だ。まっすぐ目的地に向かう」

「わかったよっ」

「それにしてもここの警備いい加減すぎるだろ」


 いくらカモフラージュのために普通の工場の内部にあるとは言え、上辺の取り繕いすらまともにできていない。


 シンクたち即席のテロリストでさえこうなのだ。

 これがもし他国から来た本物の特殊部隊なら皆殺し間違いなし。

 敵ながら心配にさえなってくる。


「なにせトップが中学生だからねっ。ルシフェルくんは能力者を過信しすぎてるんだよっ」

「ルシフェルがトップ? どういうことだ?」

「神奈川のラバース関連の施設は全部フレンズ社とフォレストオン社が管理してるんだよっ。議会と警察を牛耳られてる治外法権の県だからねっ」

「ちょっと待て。十七年間この神奈川に住んでてそんな話は初めて聞いたぞ」

「あははっ、そりゃ一般人は知らないはずだよっ。マスメディアはもちろんネット世論だってラバースが自在に操れるんだからっ。この神奈川県はね、ラバースコンツェルン総帥の新生浩満が御曹司に与えた広すぎる遊び場なのさっ」


 さすがにシンクも衝撃を受けた。

 軽い口調で衝撃の秘密を語った後、ハルミは急に真面目な顔になる。


「君たちが思っているよりもずっとラバースによる日本支配は進んでいる」


 その変化にシンクはハッとしたが、ハルミは一呼吸置くと、いつも通りの飄々とした態度に戻っていた。


「だからこそ、ここはEEBCの秘密を探るには絶好の場所なのさっ。新移民法のおかげで外国人は重要施設には近づけないし、ラバースに反抗する素振りを見せた人間は問答無用で暴人窟に放り込めるからねっ。県内に危険人物なんていないっていう前提なんだよっ」


 EEBCの隠し工場は全国にあるらしい。

 なにせかなりの部分は海外に輸出しているのである。

 ひとつの工場だけですべてを作っているなんてことはないだろう。


 中でも最も侵入しやすいと思われているのが、能力者を頼るルシフェルの管理下である県内の工場だったというのは実に皮肉な話である。


「こうしてみると、能力者なんてそこらのガキと何も変わらないんだな」


 素手よりは強いが銃器には敵わない。

 JOYさえあれば何でもできる気になっていた。

 シンクはそんなアミティエ時代の自分を思い出して自嘲する。


「ラバース本社はとっくにJOY使いを育てることをやめてるよっ。歩兵の戦力拡充なら新しい携行兵器でも開発した方が効果的だからねっ。もし最新の軍用兵器で武装した警備員が常駐されてるところに飛び込んでたら、こんな前時代の火器しか持ってないオイラたちはあっという間に全滅さっ」


 気がつけばもう目的の第十工場棟は目の前に迫っていた。

 シンクは銃を担いて突入の準備をする。


 するとハルミが思い出したように付け加えた。


「あ、もちろん例外はあるよっ。能力者の中にはごくまれにとんでもない使い手もいるからね。たとえば新九郎もよく知ってる――」


 その直後、ものすごい衝撃が護送車を襲う。


 天井が大きくへこむ。

 どうやら何かが落ちてきたらしい。

 衝撃で窓ガラスが割れ、破片が室内に散らばる。


「な、なんだ!?」


 さらに続けて小さな衝撃が連続で訪れる。

 とてつもない力が何度も天井を殴りつけられているようだ。


「外に出ろっ!」

「うわわっわっ!」


 危険を感じたシンクは叫んだ。

 一番近いところにいた人間が慌ててサイドドアを開ける。

 武器を構えたまま飛び出した彼は、頭上から降ってきた人の頭くらいの灰色の塊に当たり……


「ぐげっ」


 無残にも頭部を破壊されて死んだ。


「な……!」


 続けて外に出たシンクは上を見た。

 護送車の上に巨人が立っている。


 ゴツゴツした饅頭をくり抜いたような頭部。

 一般的な成人男性の体格よりも二回りほど大きい。

 トゲトゲしいシルエットを持つのは巨大な灰色の胴体だ。

 良く言うならまるでSF映画に出てくるパワードスーツのよう。


「今どきテロリストなんて言うから何者かと思えば、まさかテメエだったとはな」


 巨人はその表情を微塵も動かさずに言う。

 声はシンクもよく知っている人物のものだった。


 班長クラスのJOYである≪大地の鬼神(ダグザズレイジ)≫によって作り出されたアスファルトの鎧。

 岩をも砕く破壊力と巨体に似合わぬ俊敏さを兼ね備えた『燃ゆる土の鎧』


 それを駆るのはアミティエ第二班班長。


「よお。久しぶりだなテンマ」


 シンクが額に汗を浮かべつつ敵の名を呼ぶと、テンマは苛立ちを込めた声を返した。


「挨拶はいらねえし、事情を聞くつもりもねえ。だが俺の部下を殺ってくれた礼はきっちりさせてもらうぜ。覚悟しろよクソテロリスト野郎」

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