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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第二十話 ライオット
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6 荏原派、秘密工場襲撃

 シンクの指揮する一号車は十号車と分かれて厚木インターで一般道に降りた。

 国道が工事中だったので渋滞を避けるため市街地を抜けて北上する。


 厚木に来るのは初めてである。

 シンクは駅前の意外な都会ぶりに目を奪われた。

 神奈川西部なんて田舎ばかりかと思っていたが、平沼駅周辺と比べても遜色ない。


 しかし都会なのは駅前だけのようだ。

 ビルとビルの間からは雄大な山並みも見える。

 国道を越えて十分ほど走るとすぐ田舎の景色になった。


 さらに進むと人家もなくなり、あっという間に山道に……

 と思った直後、急に小綺麗な住宅街が姿を現した。


「まもなく到着だよっ。準備はいいかなっ」


 ハルミがいつも通りの間延びした声で言う。

 だがシンクはとても信じられなかった。


「本当にこんな所にEEBCの工場があるのかよ」

「心配しなくても大丈夫、忍者の情報網を信じてよっ」


 シンクはフレンズ本社襲撃の大役を信行に任せてここにやってきた。

 万が一にも肩透かしなんてことにはなって欲しくない。


 確かにフレンズ社は所詮ラバース傘下の一企業で潰したところでそれほど意味はない。

 今のラバースの根幹を支えているのはEEBCであり、その秘密を暴くことが最優先なのはわかるが……


SHINAI(シンアイ)自動車って書いてあるぜ」


 でかでかと飾られた看板を指差してシンクは言う。


「それはフェイクだよっ。いや、ちょっと違うかな。正確には本物の自動車工場の中にEEBCの製造工場があるのさっ」


 SHINAI自動車はラバース傘下企業の一つである。

 単独の自動車メーカーとしても世界一、二を争う企業だ。

 ここは同企業が所有している関東で最も大きな工場であった。


「EEBCはラバースコンツェルン最大の企業秘密だからねっ。でかでかと看板を上げて工場を作ることなんてできないのさっ。こうやって傘下企業を隠れ蓑に使うのが一番バレにくいんだよっ」

「一理ある……のか?」

「本物だってことはすぐにわかるよ。能力者の警備員が山ほどいるからねっ」


 護送車は工場の正門から敷地内に入っていく。

 すぐにバーが降りていて進めなくなった。

 守衛室で許可を得る必要があるようだ。


「強行突破する?」

「いや、ちょっと待て」


 シンクは運転手に言ってバーの前で停車させた。

 AKS74U()を肩から下げたままサイドドアから降りて守衛室に向かう。

 そして運搬物を届けに来た業者のように、さりげなく自己紹介をしてやった。


「こんにちは、テロリストです」

「ひっ……」


 銃口を向けられた守衛はすばやく両手を挙げた。

 シンクはわざと攻撃的な笑みを張り付かせて淡々と命令をする。


「声は出すな。黙って監視カメラの録画を止めろ。電話線はこっちで切断するから場所を教えるんだ。敷地内の見取り図があったら寄越せ」


 暴人窟を出てきた時そのままのみすぼらしい作業服に加え、とある有名なテロリストの愛銃と同型のカービン銃が、シンクの言葉に説得力を持たせた。


「こ、殺さないで……」

「何言ってんだ、口封じのために殺すに決まってるだろ」

「ひぃっ!」


 怯えた表情で懇願する守衛に対し、シンクは当然のように告げる。


「ただし、きちんと百点満点で言うことを聞けたら足を壊すだけで許してやる。いいか? 俺の言葉を一字一句聞き逃すんじゃないぞ」


 脅しではなく、本当にそうするつもりであった。

 実際に一度引き金を引いた経験がシンクに迷いをなくさせた。


「ちゃんとできたか? よし、そしたらバーを上げろ」


 恐怖に震えているためか、たどたどしい手つきではあったが、守衛は命令通りに行動した。


 シンクは電話線を自分の手でナイフを使って切断する。

 銃口は常に男に向けていたが最後まで抵抗する素振りは見せなかった。

 隙を見て非常ボタンでも押すかと思っていたが聞いてもいないのに場所まで教えてくれた。


「こ、これを押すと即座に警備の者が飛んでくる。非常装置はこれ一つだけだ。絶対に嘘は言ってない。壊しても構わないから、どうかワシを撃つのだけはやめてくれ」


 シンクは呆れた。

 自分が助かるため仲間に危険を知らせることを放棄すると言うのだ。

 まあ、雇われ警備員だか下っ端だか知らないが、工場の門番なんてこんなものかもしれない。


「ちなみにあんた、ここの工場でEEBCを作ってるって知ってるか?」

「は? え、い、いや。違うぞ? ここはただの自動車工場だ」

「そっか、サンキュ。お疲れさん」


 そしてシンクは約束通りに男の足を撃ち抜いた。

 軽快な発射音が狭い室内に響く。

 肉がちぎれ、骨が砕ける。

 男は絶叫を上げて転げ回った。


 非常ボタンを破壊して守衛室を後にし、ゆっくりと進み始めた護送車に飛び乗る。


「地図を手に入れたぞ。これを見て何かわかるか?」


 シンクは奪った見取り図をハルミに差し出す。


「えっ?」

「ちなみに守衛のじいさんはEEBCなんて知らないって言ってた」

「ああ、なるほど……うんっ。ダメだねこれはっ。表向きの地図に極秘製造工場の場所なんて載ってるわけないよっ」

「そりゃそうか。で、お前の情報が間違いじゃないって保障はいつ得られるんだ?」

「あれでどうかなっ」


 護送車はすぐに事務棟の入口まで辿り着いた。

 警備員らしき服装の人間が二人、階段に腰掛けて携帯端末を片手に喋っている。


 真面目に職務を遂行しているようには到底見えない。

 よく見ると顔立ちも随分と幼かった。


「あれ能力者じゃないかなっ。だとしたらここに何かがある可能性が高いよねっ」


 バイトの高校生と考えれば自然な姿ではある。

 もし本業の工員ならあそこまでだらけた姿は見せないだろう。

 なにせ明らかに怪しい護送車が目の前に止まっているのに、軽く一瞥しただけでまるっきり興味を示さないのだ。


「よし、全員出動だ!」


 シンクは指示を出した。

 武装した荏原派の仲間たち十二名が一斉に飛び出す。


「動くな!」


 合計四つの銃を向けられ、ようやく警備(?)の少年たちはしかめっ面で周囲の状況を確認しはじめる。


「あん? なんなのあんたら」

「お前たち、JOY使いか?」


 少年たちは顔を見合わせた。

 ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、警戒もせずにポケットからジョイストーンを取り出す。


「そうだよ。なんだい、あんたらも能力者か?」

「俺はヌーベル・アミティエ第十二班のナオト。で、こっちが――」

「やれ」


 少年が自己紹介を終える前にシンクは命令を下した。

 四つのアサルトライフルが一斉に火を噴き、少年の体に銃弾が撃ち込まれていく。


 完全に即死だった。

 少年たちの手からジョイストーンが零れ落ちた。


「あらら、可哀想にっ。能力を見せる暇もないなんてっ」

「先制攻撃で撃つ時は単発でいい。弾薬は無限じゃないんだから無駄撃ちするな」


 ハルミの皮肉は無視して仲間たちに指示を出す。

 プロと言えるほどの統制はないが、荏原派の人間はシンクの言うことなら大抵は素直に従う。


 彼らも銃で人を殺すのは初めてのはずだ。

 かなり動揺して見える者もいる。


「これから建物の中に突入するが、できるだけ無駄な殺しはするな。ほとんどの人間は何も知らないただの労働者だからな。その代わり銃を持った奴と能力者には遠慮なく鉛玉をぶち込んでやれ」

「おーっ!」

「いちいち盛り上がらなくていい」


 士気は十分。

 恐れもなければ怖じ気づいた者も見られない。


 さあ、行くぞガキ共。

 ヌーベル・アミティエだかなんだか知らないが、甘い言葉に唆された自分の愚かさを呪え。

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