3 福田派、県警本社襲撃
全国に先駆け、日本で一番早くに民営化された『株式会社神奈川県警』
企業としての愛称はPoKcoという。
「きゃーっ!」
その本社ロビーに絹を裂くような悲鳴が響いた。
パニックになって逃げ惑う事務員や外来客を横目に銃を撃つ。
胸から血を流して倒れている警察官の顔を踏みにじりながら福田は笑った。
「あっはっはぁ! 怯えろ、逃げろ、泣き叫べぇ!」
彼の周囲では二人の仲間がアサルトライフルを乱射し続けている。
他の者たちもそれぞれの銃器を手に見境なく周囲の物を破壊していく。
事務員だろうか、抵抗する女を数人がかりで押さえ付けるメンバーもいた。
なんという愉悦。
快感と満足。
自分たちを虐げていた警官共や、蔑んでいた一般人共が、こんなにも無力に壊されていく。
暴人窟で鬱屈した生活を送っていた彼らにとって、これほど楽しいことはなかった。
「抵抗する物は殺ーす。大人しく従うなら……やっぱ殺ーす!」
あの街で生き抜いてきた人間にとって、見知らぬ他人の死になど何も感じない。
ましてや相手が憎い警官共ならば喜び以外の感情が入る余地はなかった。
こんな事をしたらどうなってしまうかなんて、先を案ずる考えは快楽の中に埋もれて消えた。
現在、県警本社には一〇〇人近い暴人窟の人間が侵入している。
荏原の奴は何やら目的を持って街を脱したようだが福田派にとって関係がない。
一派を率いて協力すると告げたら、余剰武装を与えられ、適当に派手なことをやらかして警察の目を引き付けるように言われた。
奴の命令に従うのは癪だが、望み通り世間の目を覆いに引いてやろう。
ずっと前からいつかあの街を出たらここに殴り込もうと決めていたのだから。
恐らくは荏原の奴もこちらの思惑を見知った上で利用しているだろう。
ともあれ、こっちはこっちで好きにやらせてもらうぜ。
「けっ。あのガキも大した悪人だぜ!」
腰だめのアサルトライフルを乱射しながら福田は呟いた。
そこに不思議な一行が近づいてくる。
我先にと逃げる大人たちをかき分ける数名の若者。
彼らは人混みを逆流しながら福田たちの方に向かって来た。
「随分と派手にやってるねえ」
「うわ、ひっど。マジで人が死んでるよオイ」
「やっぱ俺たちが手を貸さないとダメなんだな。情けないぜ、大人なんて」
嘲弄混じりに周囲を睥睨するのは五人組の少年だった。
ポケットに手を突っ込んだままたいした警戒もせずに歩いてくる。
「痛っ」
流れ弾が彼らの一人に当たったが、多少よろめいただけで傷一つついていない。
「あーあ。大丈夫、マサ君」
「いや無理。マジ痛ーわ。これ骨折れたかも知んねー」
「ぎゃははは。んじゃ慰謝料はテロリスト共に払ってもらうかぁ?」
少年たちは一斉にポケットから手を出した。
その手に光るのは、それぞれの色に輝く透き通った宝石。
それを確認すると同時に福田は叫ぶ。
「能力者だ! RPG!」
即座に対戦車グレネードランチャーを構えた仲間が駆けつける。
事前の作戦通り全員が物陰に退避し、射撃者は素早く膝を立てて構えを取った。
そして通路の途中で悠然としている少年たちに向かって躊躇なく発射する。
「えっ、おい……」
呆気にとられたマヌケ顔を晒したのも一瞬。
不幸にも榴弾の直撃を受けた少年たちの体は見事に爆散した。
爆風が通路の壁を焼き、逃げようとしていた人間たちも巻き込まれて大惨事となった。
「うおっ、やり過ぎたか?」
福田は銃を構えて油断なく近づいてく。
すると、バラバラになった肉片の中に原形を留めた人間が二人いた。
うち一人は先ほどの流れ弾が当たった男である。
「う、あ……」
「なんだよ。何とかリングってのは全員が持ってるわけじゃねーのか」
銃弾でも防ぐバリヤーを張るとか、超能力を使えるようになる不思議な石があるとか、そういう情報は事前に荏原から聞いて知っていた。
だから姿を現すなり全力で高威力の武器を叩きこんでやったのだが、この程度なら対物ライフルでも問題なかっただろう。
福田は倒れたまま蹲る少年の頭に銃を突きつけた。
彼がとっさに左手を庇ったので、腕を掴んでそこにあるものを確認する。
中指に指輪がはめられていた。
「なあガキ。調子に乗ってると痛い目を見るって学べたか?」
「た、助けて……」
「うるせえよ」
少年の手から指輪を引き抜き、頭に銃口を当てたままフルオートで発射する。
福田はザクロになった死体を蹴り飛ばす。
横ではもう一人の少年も指輪を奪われた後に射殺されていた。
「こいつがDリングってやつか。ガキのオモチャには過ぎたもんだな」
「超能力が使えるっていう石ころはどうします?」
爆風で吹き飛ばされたらしく、離れたところに一つだけ転がっているのが見えた。
他の四つも探せば見つかるだろうが……
「捨てとけ、そんなオモチャ」
超能力なんてなくても、銃火器さえあれば暴力を振るうのには十分だ。
ラバースに乗せられて勘違いしたバカなガキめ。
小綺麗なナイフをひけらかして戦場で生き残れるとでも思ったのか。
「さ、行くぜ。公僕として指命を忘れて金儲けしか考えなくなった民間警察にオシオキだぁ!」
ああ、まったく……
楽しくて仕方がないぜ、自由ってのはよぉ。




