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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十九話 サバイバー
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5 ショウVSマナ

 ずいぶん遠くで珍しい人物に出会うものだ。


 ショウはALCOのメンバーと一緒に拠点をモスクワに移してからの半年間、ロシア西部から中東にかけてを飛び回ってひたすら情報を集めていた。

 今日はたまたま足を伸ばして東ヨーロッパに近いこのイスタンブールにまでやって来ていたのだが、そこで見知った気配を察知して近づいてみれば、まさかの意外な人物がいたのである。


 かつての仲間、アミティエ第三班班長アオイ。

 同組織の中でもルシフェルの信任が厚く、最もイカれた女である。

 まさか単なる観光でこんな日本から遠く離れた国に来ているわけではないだろう。

 これはひょっとして当たりかと思いショウは内心でガッツポーズを決めた。


「お前も『博士』とかいう奴を探してるんだろ?」


 化かし合いは苦手だ。

 単刀直入に質問する。


「なんのことかしら」

「とぼけるな、L.N.T.の生き残りのアリスって奴を探してるんだろ。それともすでに連れて行ったのか?」

「ちっ……」


 アオイは鋭い目で睨んでくる。

 意外とわかりやすい奴だ。


 まさにターゲットを追いかけている最中なのだろう。

 この周囲を探せばアリス博士はいるはずだ。

 なら別にこいつから聞く必要はなく、能力者の反応を探せば良い。


 ショウはにやりと笑ってさっさと飛び去ろうとする。

 が、アオイの側に人が倒れていることに気づいて動きを止めた。


「……おい、お前」

「アオイちゃん。先に行きなよ」


 ショウの言葉をアオイの隣に立つ人物が遮る。

 アオイの仲間だろうか、中学生くらいの日本人の女である。


「ショウくんと追いかけっこしても絶対に勝てないよ。私がやっておくから、お手柄は半々ね」

「……わかった。頼むわよ」


 アオイは女とそれだけの言葉を交わすと、アクセルを捻ってバイクを急発進させた。

 彼女はそのままショウの横を通り過ぎて走り去って行く。


「おい、待てよ!」


 即座に身を翻し、透明な翼を広げて追いかけようとする。

 その瞬間、ダイヤモンドシールドのオートガードが発動した。


「な……」

「あー、やっぱり通じないのかあ。もしかしたらいけるかもって思ったんだけどなあ」

 

 振り向くと、さっきの中学生くらいの女が残念そうな顔で肩をすくめていた。


 ショウの≪神鏡翼ダイヤモンドウイング≫の能力の一つであるダイヤモンドシールド。

 これは透明な見えない壁を張る能力で、しかも遠距離からの攻撃は自動的に防いでくれる。


 具体的には素手および手持ち武器による打撃以外は一切通じない。

 投擲、射撃、爆破などの攻撃は眠っていても勝手にJOYが感知して防御が発動する。

 つまり今、何かしらの攻撃を受けたわけなのだが、ショウにはまったく感じることができなかった。


 狙撃の可能性をまずは考える。

 しかし弾丸が当たったような形跡はない。

 とするとこの女が何かやったとみて間違いないだろう。

 おそらくはJOYによる攻撃か。


「お前、何者だ?」

「あらら。やっぱり覚えてくれてないんだね、がっくり」


 女は大げさに両手を振ってため息を吐く。


「こうして話をするのは始めてだっけ? 私はショウくんのことよく知ってるよ。うちの一番の有名人だもんね」

「アミティエの関係者か?」

「うん。第三班のマナでーす。以後よろしくっ」


 マナは笑顔で敬礼のポーズをする。

 その直後、近くにいた通行人が悲鳴を上げた。


 そちらを見ると、中年の女性の足下にフルフェイスのヘルメットが転がっていた。

 真っ赤な血の軌跡を引いてゴロゴロ回転するそれはまるで生首のよう。

 マナの隣に転がる人間に首から上がないことに気づく。


「お前が殺したのか」

「え、うん。博士を追いかけるためのバイクが欲しかったから」


 無邪気な笑みを張り付かせたままマナは言う。


 その表情には狂気も悦楽の色もない。

 世間話をするように、当然のように言っている。

 このマナという女はアオイよりもさらに危険な人物だ。

 アオイを追うよりもこいつに対処する方が先だと判断する。


 そうと決めたら一瞬でケリをつける。


「ふざけんな!」


 風を纏ってロケットのように飛び出す。

 懐に飛び込んだら即座に圧縮した風をぶつけてやる。


 ……つもりだったが、ショウは自分自身の作り出した見えない壁に阻まれ、急停止させられてしまう。


「なっ……」


 実はほぼ無敵のダイヤモンドシールドにもひとつだけ欠点があった。

 オートモードで作られた盾は、あえて意識を向けなければその場に固定されたままになる。

 つまり移動中に攻撃を受けると簡単に足止めをされてしまうのだ。


「あはは、ショウくんの弱点はっけーん。最強を名乗るのも今日で終わりかなー?」

「くっ!」


 実はこの弱点は自分でも最近気づいたばかりだった。

 三ヶ月前、イラン上空を偵察していた時ふいに軍の戦闘機とニアミスしてしまったことがあった。

 もちろん話が通じるわけがないので逃げたのだが、機銃掃射を食らってしまい思うように離脱できなかったという経験をしたばかりである。


 どのような攻撃が行われているのかはわからない。

 だが、たぶんこいつの能力はサイコキネシスのようなものだろう。

 少なくとも全力で移動しようとするショウの動きを止めるほどの力はあるらしい。


 オートモードを意識的に解除すれば動きを封じられることはない。

 しかし攻撃が見えない状況でそれをやるのは大きな危険が伴う。


 ならば、こちらも遠距離からの攻撃で対処だ。

 ショウは腰の愛刀『大正義』を抜いた。


「そりゃっ!」


 全力で刀を振り下ろす。

 虚空を切り、目の前に空気の断層が生じる。

 それを突風で押し出せば超高速で飛翔する真空の刃となる。


 単純だが殺傷能力の高い遠距離攻撃である。

 だが、マナはそれをあり得ない動作で避けた。


「うわっち!」


 たいした力を込めた様子もないのに、体がぐるりと大きく回転して上空に舞い上がる。

 ショウは続けざまに真空刃を放ったが、今度は急激な方向転換でかわされた。


 飛翔能力か?

 自分と同じ風を操る能力か……

 いや、テレキネシスで自分自身を持ち上げているのか。


 三回目の真空刃を放とうと右足を引いて脇構えを取る。

 刀を振り下ろそうとした直前、オートガードが作動して動きを阻む。


「あらあ。やっぱりダメかあ」


 あの体勢から反撃してきたのか。

 マナは残念そうな表情で地面に着地する。


「こいつはやべえ女だな……」


 冗談じゃない。

 あの見えない攻撃はいつ襲ってくるか全くわからない。

 今もさっきもオートガードが働いていなかったら確実にやられていただろう。


 アミティエで言えば班長クラス。

 いや、それよりもさらに強力な能力者である。

 こんなやつがろくな活躍もせずにアオイの下にいたとは。


「ったく、面倒なことになったぜ」


 どうしたものかとショウは迷う。


 尻尾を巻いて逃げ出すのは癪である。

 だが最優先すべきはアリス博士の身柄の拘束だ。

 こうしている間にもアオイに先を越されてしまうかもしれない。


 この女の相手は後日改めてすべきだろう。

 マナの能力は高機動戦闘に向いたものではない。

 全力で逃げれば簡単に振り切ってアオイに追いつける。


 結論は出た。

 ショウは透明な翼を広げて身を翻す。

 その瞬間、マナは正気とは思えない発言をした。


「あ、もし逃げたらこの辺りにいる人を片っ端からころすからね」


 ショウは地上三メートルのあたりで停止し、ゆっくり振り返る。


「今なんて言った?」

「ほら、ちょうど人も集まってきたし」


 周囲には遠巻きに二人の姿を見ている見物人がたくさんいる。

 何を喋っているかわからないが、現地の言葉で叫んでいる者もいる。


 携帯端末を操作している中年の男性の隣、十歳ぐらいの褐色の少女の体が見えない糸につり上げられたように浮かび上がった。

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