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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十九話 サバイバー
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3 アオイVSアリス

 ナイフが閃いた。

 銀色の光が迫り来る。


 アオイの体は肩口から反対の腰までのラインで真っ二つになった。

 ゆっくりと滑り落ちる上半身は、やがて透明な塊になって地面に落ちる前に消えた。


「ずいぶん手荒な歓迎ね」


 少し離れた廊下に立つのは本物のアオイ。

 アリス博士が斬ったのは氷像による幻影だった。


「話くらい聞いてくれても良いんじゃないかしら。私はラバース傘下企業、フレンズ社の――」


 聞く耳持たぬ、と言いたげにアリス博士はもう一度ナイフを振った。

 重ねた氷の盾で防ごうとするが、刃は一瞬の抵抗を感じただけで、あっさり防御を突破してくる。


「っ! 機関銃の乱射にも三十秒は耐える盾なんだけど!」


 表面だけを凍らせた廊下を滑って大きく距離を取る。

 なんとか危機一髪で逃れたが、アオイは額に冷や汗が流れるのを感じた。


「JOY使い?」


 今度は追撃はない。

 代わりにアリス博士はたいして驚いた様子もなく問いかけてきた。


「ええ、そうよ。あなたよりも新しい世代のね」


 噂通りの強敵だ。

 だがこの女は必ずこの場で捕らえる。

 ラバース本社がまだ居場所を掴んでいない今がチャンスなのだ。


 アオイは全力で戦うため着ていたコートを脱ぎ捨てた。

 下にはいつもの黒いバトルドレスを纏っている。


「いくわよ」


 どこからか取り出した帽子を被り、右手を前に突き出す。

 アオイの前方に八つの円盤状の白い光が発生した。


 直後、光の中から無数の氷弾が飛び出した。

 半径三十センチほどの円形の光から水平方向に拡散する氷礫。

 威力こそ短機関銃に劣るものの、八人が一斉に弾幕を張っているに等しい攻撃だ。


 当然アリスは接近することもできない。

 彼女は素早く部屋の中に戻って氷の弾幕から逃れた。


「作戦通りね」


 もし窓から逃げようものならマナの餌食になる。

 あの女に手柄を取られるのは口惜しいが、任務達成を優先させるべきである。


「さて、あなたは逃走を選ぶかしら? それとも私に挑んでくる?」


 かかっていらっしゃい。

 L.N.T.第一期で五指に入る能力者だったと言われる女。

 どれだけの力を持っているか知らないけれど、新世代の班長クラスが格の違いを見せてあげる。


 アリスの能力名は≪雷皇の楽園(サンダーランド)≫というらしい。

 電気を操り、強力な電撃を放つ能力だと聞いている。


 その性質上、部屋の中から狙いを定めて撃つことはできないはず。

 攻撃のためには体の一部を表に出さなければいけない。

 さあ出てきなさい、その時がお前の最期よ。


 アオイはわざと弾幕を弱めた。

 エネルギー切れを演出するためである。

 実際にはまだまだ撃ち続けられるし、予想される反撃の誘いでしかない。


 しかし次の瞬間、予想もしなかったことが起こった。

 右側の廊下の壁がいきなり三角形に切り取られた。

 それが床に落ちると同時にアリスが中から飛び出してくる。


「ちっ!」


 アオイはとっさに右手を振って敵との間に氷の壁を作る。

 アリスはそれに正面から激突し、廊下を転がりながら距離を取った。


 反撃を防ぐために用意しておいた防御陣が役に立った。

 とっさに展開できなければ確実に懐に入られていただろう。


 まさか壁を斬って向かってくるなんて。

 そんな能力があるとは聞いていないが……ナイフで壁を切ったというのか?


「っ、ナメてくれるっ!」


 予想外の奇襲よりも、未だに彼女がJOYを発動すらさせていないことがアオイのプライドを刺激した。

 手加減して勝てるような相手だと思っているなら大間違いよ!


 熱くなっては自分を見失う。

 アオイは頭に昇りかけた血を無理やり冷やした。

 氷のように冷たく目を細め、同時に周囲の気温を一気に下げる。


 第三班の仲間たちは勝手に『氷華円舞』などと呼称していたが、厳密にはこれは技ではない。

氷雪の女神(ヘルズシヴァー)≫の力を制限なく解放して周囲を極寒の氷雪地獄に変えているだけだ。


 室内で使えば大惨事は間違いなし。

 アオイはあくまで冷静に、しかし後先を考えずに冷たい怒りをぶちまける。


「Hey! sessiz ol――」


 荒れ狂う暴風雪が壁を削り、床板を剥がし、天井を引き裂いていく。

 間が悪く廊下に出てきた隣の部屋の住人がドアを開けた形のまま氷像と化した。


 さすがにアリスも迂闊には出て来れまい。

 JOYを使って攻撃してくるしかないはずだ。

 あるいはすでに氷漬けになっているかもしれない。

 恐れて逃げたのならば少なくともアオイのプライドは保たれる。


 そして、再び予想もしないことが起きた。


「ッ!?」


 猛吹雪の中をアリスは構わず突っ込んでくる。

 体力を奪う極寒の風雪などものともせず、一直線に。


 当たり前だが動きは鈍い。

 しかしJOYによる攻撃を予想していたアオイはとっさの判断を誤った。


「しまった……!」


 反射的に氷の盾で身を守ろうとしてしまった。

 それが十分なガードにもならないとさっき思い知ったはずなのに。

 判断ミスに気づいて焦るアオイの腕を、アリスのナイフが氷の盾ごと斬り裂いた。


「ぐっ!」


 右腕の肘から手首にかけて強烈な痛みが走る。

 アオイは続けて迫り来る攻撃をわざと後ろに倒れながらギリギリで避ける。

 氷の塊を無数に作り出して障害としつつ、手近にあったドアを開けて別の室内に待避した。


「Sen de kimsin!?」


 部屋の中では色黒の男性がソファに寝っ転がって本を読んでいた。

 現地語で何か叫んでいるが、アオイは気にせず一直線に奥の窓へと向かう。


 勢いをつけて体当たり。

 窓を割って外に飛び出す。


 落下を始めた瞬間、体に何かがまとわりついてきた。

 アオイは即座に≪氷雪の女神(ヘルズシヴァー)≫を全開で発動させる。

 すると体に触れたモノが力を失い、べとべとした嫌な感覚だけが残った。

 アオイはその見えないモノを掴んで落下の勢いを殺し、壁の排水管を伝ってなんとか地面に着地した。

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