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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十八話 ヒストリー
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6 近代史の授業

 はい、それじゃ授業を始めますね。


 今日も近代史ですね。

 この辺りはあまりテストに出ないからサラッと流しちゃいましょう。


 では前回やった範囲からの質問です。

 はい山羽さん、二十一世紀に入ってから起こった大きな二つの歴史的出来事はなんですか?


 ……はい、その通りです。

 ありがとう、座って良いわよ。


 山羽さんの答えてくれた通り、アジア大戦とクリスタカルテル政権譲渡ですね。

 二つの超大国が相次いで崩壊したこれらの事件、皆さんの年代では実感が湧かないかも知れませんが、二十世紀の人間から見ればとても信じられないような大事件だったのです。


 ちなみに先生もこの頃は汚れを知らない無垢でかわいらしい女の子でした。


 ……こほん。

 で、では、復習も兼ねてもう一度説明しますね。


 まずはアジア大戦。

 またの名を甲申革命と言います。


 今の清国の正式名称は清華民国ですが、その前の国名は……はい、松田さん、どうですか?

 んん……惜しい、中華民国ではなく、中華人民共和国、です。


 いんしゅーしゅん(秋)、せん(国)、しんかんさん(国)、しん五胡ごこ(十六国)、南北朝なんぼくちょーずいとーそーげんみんしんちゅー(華民国)、ちゅー(華人民共和国)、せい《華民国》。


 複数王朝鼎立時代など省いてますが、基本的にはリズムで流れを覚えちゃってくださいね。

 明の後は『しん』で、今の国名は『せい』ですから注意すること。


 中華人民共和国は中国と略します。

 日本の中国地方と混同しないようにね。


 当時はGDPでも世界二位、人口に至っては全世界の五分の一を占めるほどの超大国だった国が滅亡するきっかけがなんだったかというと、実のところ現在もよくわかっていません。


 同時多発的に国内の至る所で何者かに扇動されるように暴動が発生。

 呼応するように外周部地域が次々と独立を宣言をして国内は荒れに荒れました。

 暴動や軍の戦闘行為によって流通が滞った結果、都市部でも飢えに苦しむ人が出たそうです。


 その過程で二〇〇四年に東アジア全土を巻き込んだ大戦争が起こりました。

 戦争はわずか三ヶ月で終結しましたが、その爪痕はとても深いものとなります。


 戦後すぐに神戸条約によって清華民国政府が樹立しましたが、未だに清国国土には戦後復興が成し遂げられていない場所や、紛争が定期的に勃発している地域が多くあります。


 ……今だから話しますけど、上海から来たみなさんの友だちが明るく振る舞っている姿を見るたび、先生は喜ばしいと同時に切ない気持ちになりました。


 彼は故郷に帰ってしまったそうですね。

 元気で暮らせることを願わずにはいられません。


 さて、もう一つの大事件を見てみましょう。

 北米大陸にあった当時世界一の大国、アメリカ合衆国の禅譲です。


 当時のアメリカは軍備、経済規模ともに他の追随を許さない圧倒的な超大国でした。

 世界の警察を自称するほどの覇権国家でしたが、二十一世紀初頭に空前絶後の大不況に悩まされてしまいます。


 もっともこれはアメリカだけの話ではなく、当時は世界中が大不況の真っ最中でした。

 ラバースコンツェルン以前の私たちの日本も例外ではありません。


 そんな時代に起こったのが先のアジア大戦です。

 戦争終結後、GEM連合と呼ばれる企業連合体が創設されました。

 これは戦争特需で大躍進した三つの企業の頭文字を合わせた名称なんですね。


 創設の翌年の選挙でGEM連合は政治的にも大きな力を得ることに成功。

 連邦政府はおろか、各州の政治家も大半が連合関係者で占められることになります。


 いくつもの州で短期間に多くの法律が変えられました。

 連合にとってますます都合の良い政治が行われるようになります。


 そして二〇〇八年。

 GEM連合はクリスタカルテルと名前を変え、大統領府に提案書を持ち込みます。


 わずか紙切れ一枚、一発の銃弾も撃たれることなく行われた政権移譲。

 大統領制は存続しつつも権限は大幅に縮小され、カルテルの談合と調整によって国家を運営する新体制へと移行しました。


 こうしてアメリカ合衆国は二三二年の歴史に幕を閉じました。

 クリスタ合酋国の始まりです。


 合酋国という文字はかつての合衆国と音を合わせた和訳です。

 正式名称はエンタープライズ・ユニオン・クリスタ、通称はEUCですね。

 ちなみにクリスタという名前はクリストファー・コロンブスから取られています。


 ……おさらいのつもりが随分と長く喋ってしまいましたね。

 この辺りはあまりテストには出ませんが、近代史は現代の皆さんの生活と密接に関わることです。

 一般常識として覚えておいてくださいね。


 前回までの復習はここまでです。

 次は日本の歴史を見ていきましょう。


 教科書……を開く前に、質問です。

 クリスタ合酋国設立の翌年、二〇〇九年に日本では何がありましたか?


 はい、日野君どうぞ。

 ……え、わからない?


 ではヒントです。

 待って、まだ教科書は開かない!

 現在も四年ごとに行われていることですよ。

 この時は特に大きな変化がありました。


 オリンピック? 違います。

 オリンピックはこの年にはありませんでした。


 正解は選良院総選挙です。

 選良院は四年に一度、華族院は六年に一度ですね。

 特に選良院選挙は実質的に総理大臣を選ぶことになる重要な選挙です。


 この年の選挙で当時の与党だった日本自由党は大きく議席を減らしました。

 現在の与党である生和党が戦後始めて衆院第一党になり、政権交代が行われたんですね。


 はい、では教科書一五六ページ。

 新たに任命された山田桟総理大臣の下、数々の改革が行われます。


 その中で特に有名な政策はなんだと思いますか、光岡君。

 ……お、しっかり予習してきていますね。

 そうです警察の民営化です。


 無駄を削減して汚職の根絶。

 より国民の視点に立った新しい警察。

 NJPという通称ではもう誰も呼んでいませんね。


 直後に始まったのが反社会的組織への厳格な処置でした。

 これも今の若い子には信じられない事でしょうが、当時までは繁華街の中に普通に暴力団体の事務所があったりもしました。


 警察の民営化を機に国を挙げての暴力団体の一斉検挙が開始。

 軍やクリスタのバックアップもあり、一ヶ月経たずに日本中の暴力組織はすべて解体されます。


 また少年法の改正、移民法の施行により、若年層の行き過ぎた犯罪行為や不法移民者も厳しく取り締まられるようになりました。

 おかげでその年の凶悪犯罪発生数は前年の十分の一にまで減りましたが……これはまた別の問題を発生させることになります。


 さて、そんなこんなで表面上は平和な日本でしたが、前世紀末から続く不況はいよいよ抜き差しならないところに来ていました。


 企業の海外への拠点移動と大規模な人員削減。 

 自殺者数は毎年記録を更新し与党は厳しい批判を受け続けました。

 そこからの十年間は先行きの見えない暗い時代だったと言っていいでしょう。


 犯罪率が下がった代わりに暴人窟と呼ばれる犯罪者の街が至る所に形成されました。

 男女の出生比率は緩やかに崩れ、暗いニュースが連日流れていた頃です。

 皆さんも幼い頃に覚えがあるのではないでしょうか?


 ところが二〇一九年。

 ある一つの発明によって世界は大きく変わります。

 今では皆さんの日常に決して欠かすことが出来ないものですね。


 それがEEBCです。

 正式名称を言える人いますか?

 はい、エレクトロニック・エネルギー・ブースト・コアですね。


 日本が誇る大企業連合ラバースコンツェルン。

 中核企業のラバース社はそれ以前から日本を代表する企業ではありましたが、EEBCの発明によって世界に並ぶもののない覇権企業となります。


 様々な業種を吸収合併し、瞬く間にクリスタカルテルを越える規模の企業連合体となりました。

 電気エネルギーを何万倍にも増幅して運動エネルギーに変えるEEBCは近現代における最大の発明と言っていいでしょう。


 エネルギー問題は一夜にして解決。

 EEBCを積んだ製品の輸出であっという間に国内景気は上向きになりました。

 失業率は0、1パーセントを割り、二〇二一年は歴史上始めて日本がGDP世界一位になった年です。

 明るい未来がこの国に戻ってきたのです。


 とは言え、世界はまだまだ多くの問題を抱えています。

 いくつかの例を見てみましょう。

 次のページを。


 出生率の低下によって日本の人口は去年ついに一億人を割り込みました。

 暴人窟で暮らす犯罪者は戸籍から除外されるので実数はもう少し多いかもしれません。

 ちなみに暴人窟は久良岐市内にもありますけど、絶対に興味本位で近づいてはいけませんよ。


 ラバースコンツェルンの躍進による諸外国との摩擦も深刻です。

 クリスタ合酋国をはじめとする外国企業はライセンス契約によってEEBCを組み込んだ商品を製作し販売していますが、EEBC本体の作り方はラバース本社の門外不出で未だ類似品すら作られていません。


 当然ながら製造技術を独占したラバースコンツェルンには世界中の富が集中してしまいます。

 それでもEEBC発明以前に比べればどこの国も景気は上向きになっているので、大っぴらに問題提起をする国は現れていませんが……あまり良くは思われていないでしょうね。


 外国にも問題は様々です。

 前世紀から続く中東・アフリカ問題。

 遅々として進まない清国の復興とアジア地域の再編。


 そしていま一番大きな問題は旧欧州連合内で対立を深めたドイツ、フランス、イギリスによる三国冷戦でしょう。

 三年前に欧州連合が解体されてからというもの、ヨーロッパはにわかに緊張を帯びています。


 現在は何とかギリギリのバランスを保っていますが、欧州が三分されるほど冷え切った関係が今後も続いていくのは間違いありません。

 武力衝突にならないことを心から願うのみです。


 と、もうこんな時間ですね。

 ごめんなさい、結局今日も途中からずっと喋りっぱなしでしたね。

 まとめのプリントを後で配るので、自分なりにノートをまとめる人は利用してください。


 と言ってもこの辺りはテストに出ないんですけどね。

 それじゃ、次の授業からはまた江戸時代に戻ります。


 行ったり来たりしてわかりにくい?

 時代で勉強量が偏らないようにって先生なりの配慮ですよ。

 歴史順に勧めていたらどうしても近代史が駆け足になっちゃいますから。


 ちょっと時間が半端ですけど、今日の授業は終わりにしましょう。

 日直さん、号令をお願いします。


「起立、礼。花冠先生、ありがとうございました」


 はい、どうもありがとう。

 このクラスは約一名を除いて真面目に授業を受けてくれるから助かるわ。

 と言うわけで、そこで気持ちよさそうに眠っている本田君は後で職員室に来るように。

 誰か伝えておいてください。


 では、また明日。

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