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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十八話 ヒストリー
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5 レンの去った後

 宮ヶ谷中学校一年六組、山羽輪は困っていた。


「はぁー」


 原因は前の席に座る腐れ縁の幼馴染の本田拓人だ。

 今のは今日六五回目になる彼の吐いたため息である。


 机に顔を突っ伏しているため頭しか見えない。

 以前はムラのある水色の髪だったが、少し前に真っ金に染め直している。


「ねえ、いい加減に元気出しなよ」


 普段はやかましいくらいに元気な彼がこうも落ち込んでいると、こっちまで暗い気分になる。

 テストで全教科一桁を取った時もあっけらかんと笑っていたようなやつなのに。


「だってよー。あー、レンのやつ。おれたちに何にも言わないでよー」


 拓人が落ち込んでいる理由。

 それは彼らの友人の少年が突然転校してしまったからだ。

 クラスの誰も何も聞いておらず、朝のホームルームで教師から初めて知らされたのである。


「確かにいきなり過ぎるよね。清国せいごくに帰る予定があるなんて一言もいってなかったのに」


 輪もこの三ヶ月ちょっとで仲良くなった少年の事を思うと寂しい気持ちになった。

 短い付き合いだったけど彼と過ごした日々はとても刺激的で楽しかった。

 いろんな事件に巻き込まれたし、危ないこともあったけど。


「やっぱ、このあいだの事が原因なのかな」


 輪は小さな声で呟く。

 この三ヶ月でも一番現実離れした出来事。

 駅前で謎のモンスター集団に出くわした事件のことである。


 拓人はハッとして起き上がる。

 それから窓際の席に座るもう一人の友人に小声で尋ねた。


「なあ、もしかしてレンがいなくなったのって、テレビに映ったことと関係してんのか?」


 さすがに他のクラスメートには聞かせられない話であることはわきまえているらしい。

 拓人に尋ねられた髪の長い男子生徒、鈴木烈は肩をすくめて曖昧な返事をした。


「さあな。関係あるかも知れないし、ないかも知れない。少なくとも俺は何も知らないよ」


 この街には超能力を使って悪と戦う正義の組織がいる。

 レンや烈の兄貴はそこに所属していて、悪い超能力者が現れたときに捕まえるのが仕事らしい。


 ちょっと前までなら「漫画の読み過ぎ」と一笑に付していただろう。

 しかし輪は実際にあの小柄な少年がカンフー映画のように怪力男をあっさりと倒した場面を何度も見ている。

 本人はあまり周りに知られたくないようで、レンがとんでもなく強い力を持っているということは学校内ではここにいる三人だけの秘密だ。


「でも、怪物事件が大問題になってるのは確かだぜ。兄貴たちも大慌てだったってよ」

「ネットじゃヤラセだって言われてるけど、私たちは実際に見たもんね……」


 先日、平沼駅で買い物をしていた拓人と輪は巨大な棍棒を持った一つ目の巨人を目撃した。

 彼らが狙われた訳ではないのだが、繁華街に現れた化け物のせいで周囲は大パニックになった。


 異常事態だと思った二人は即座にレンに連絡を取った。

 レンが来るまでの間、一つ目巨人の怪物たちは周囲に威圧感を与え続けた。

 棍棒を振り下ろして地面に叩きつけたり、意味もなく周囲の人間を追いかけたり……


 そんな状況なのに、なぜか警察はいくら待ってもやって来なかった。

 代わりに不自然なほど多いテレビクルーがパニックに陥る人々を撮影をしていたのを覚えている。


 やがて三十分も経たないうちにレンが駆けつけてくれた。

 彼はワイヤーアクションのような派手な動きで一つ目巨人をやっつけてしまう。

 あっさり倒したようにも見えたが実際にはかなり手こずっていたらしく、巨人が煙のように消滅した後に肩で息をしてたのを覚えている。


 レンの戦闘の様子はばっちりテレビカメラに映されてしまっていた。

 映像は全国中継されていたし、ネットの動画サイトで今も見ることができる。


 だが、やはりテレビを通した映像では作り物にしか思えないのだろう。

 実際に現場で闘いの様子を見た者でなければわからない生の迫力というものがある。

 幸か不幸かレンの外見があまりに幼すぎたため、ヤラセ主張派の意見はより勢いを強める結果となった。


 ネット上では未だに議論が交わされているが、ほんの数日前のことなのに、ニュースでは異常なほどさっぱりあの事件には触れなくなっている。


「あー、ちくしょー。レン、帰ってこいよなー」


 ブツブツと文句を言う拓人。

 そんな彼を眺めながら輪は少しだけ複雑な気分だった。

 レンがいなくなったのは自分も悲しいけれど、その寂しがり方はちょっと過剰じゃないかな。

 確かにレンは良い子だし、かわいいし、どっから見ても女の子みたいだし、かわいいし、かわいいけど。


「おい、先生来たぞ」


 休み時間が終わるチャイムが鳴った。

 いつの間にか社会科の担当教師が教壇に立っている。

 若いくせに話がくどくて有名な豊田花冠(カカン)先生二十九歳である。

 チャイムが鳴る前から教室に来るのは少なくともうちの学校でこの女教師だけだ。


「席に着きなさーい。授業始めるわよおー」

「拓人、ほら、起きてってば」


 蹲る幼なじみの背中をつつくが反応は鈍い。


「うー、あー、こうなったら清国に乗り込んで――痛ェッ!?」


 花冠の投げたチョークが拓人の頭にクリーンヒットした。


「はーい、本田君は清国旅行に行きたいのかな? きちんと歴史を学んでからの方が得るものは多いわよおー。というわけで、今日は近代史をやりますねえー」

「こっ、このヒスババア……っ」

「なんか言ったかしらあ? もしかしてもう一発食らいたいのかなあ?」

「何にも言ってねーよ!」


 うん、拓人が元気を取り戻したみたいでなによりだ。

 さすがは熱血女教師。


 でも、チョーク投げはこっちにも粉が飛んでくるから出来ればやめて欲しいと思う輪であった。

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