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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十五話 ニューワールド
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8 反逆のルシフェル

 携帯端末の着信音が鳴り続けていた。


 アオイは盗んだ車を走らせて軽トラックを追っている。

 国道に出て赤信号に捕まったら車を乗り捨て飛び移るつもりだ。

 車通りも少なく見通しのいい臨海団地方面に逃げられたのは幸いであった。


 紗雪があのような暴挙に出た時は焦ったが、結果的にあのジョイストーンがアオイの手に入るのは間違いなく……


「あーもう、うるさい!」


 一向に鳴り止む気配のない着信音に業を煮やす。

 多少の余裕も出てきたため、ハンズフリーで応答した。


『やあ、アオイ』


 質の悪いスピーカー越しにルシフェルの声が車内に響く。

 取り込み中と言うこともあって不快感は倍増だ。

 必要以上にぶっきらぼうに返事をする。


「何よ」

『メッセージは読んでくれたかい?』

「今忙しいのよ。急ぎじゃないなら後にしてもらいたいわ」

『そう言わずに車を停めて話を聞いてくれ。どうせ青山紗雪のジョイストーンなら君の追っているトラックには乗っていないよ』


 思わず急ブレーキを踏んで路肩に停車した。

 後ろから何かに追突されたが、たいした衝撃はなかった。

 車間距離を開けておかなかった原付あたりだろうし気にしている余裕はない。

 文句を言ってきたら氷漬けにしてやるだけだ。


「悪趣味ね。いつから監視していたの?」

『いやいや勘違いしないでくれ。別に君を見張っていたわけじゃなく、監視をつけていたのは荏原新九郎の方さ』


 理由はどうあれ行動を把握されていたことは不快である。

 しかし紗雪のジョイストーンが無いとは一体?


『常に周りを出し抜こうとする君の姿勢と行動力はむしろ評価しているよ。ただ、今回は少し詰めが甘かったようだね』

「どういうことよ」

『汎用能力だよ。低レベルな幻覚能力とジョイストーンを手元に戻す能力。以前に君のところのメンバーに貸していたものを使われたんだ』

「幻覚……忘れ物……まさかっ!」

『そう。今回ばかりは()()の方が一枚上手だったのさ』


 アオイは歯がみした。


 やられた。

 ()()()()()()()()紗雪までも籠絡されていたとは。

 本社との繋がりにばかり気を取られて、足下を疎かにしていたツケを払わされた気分だ。


『心配しなくても、どう転んでも青山紗雪のJOYは我々の手に入る。期待しているほどのモノかはわからないけどね。その上でもう一度言うぞ』


 ルシフェルは言葉を句切り、無理して低くした声で言葉を続ける。


『僕の元から離れるな、竜崎ひまわり。君の才覚を最も活かせるのは間違いなく僕だ。もちろん君が今までに築いた方々とのパイプは決して無駄にさせない』

「まるで私がアミティエを裏切ろうとしていたみたいな言いぐさね」

『すべて許そう』


 本名で呼ばれたことも気に障ったが、親の七光りの分際で、この尊大な物言いには不快感を覚えざるを得ない。


「そういうあなたこそ、本社に反旗を翻そうとしているように聞こえるわよ」


 アオイは意趣返しのつもりで挑発をしてみたが、


『そのつもりだ』


 間髪を入れずに即答された。


「……っ、冗談はやめなさい。いくらアミティエの戦力を集結しても、本社の能力者を相手にするのは自殺行為よ。あなたが総帥の息子とはいえ正面から敵対すれば潰されるだけでしょう」

『その車でテレビは見られるかい? ウィステレビを見るんだ。なければ通話を切ってもいいから携帯端末で確認してくれ』

「は?」


 急に話題を変えられて戸惑うが、アオイは言われた通りに備え付けのカーテレビの電源を入れた。


 右上に表示される数字は最初からルシフェルに言った局に合っていた。

 慌てた様子のアナウンサーの声が大音量で車内に響く。

 音量を絞る間に映像が鮮明になっていく。


「これは……!」


 映っていたのは川崎本町駅前の様子だった。

 熊ほどの体格のある巨大な白い虎と『燃ゆる土の鎧』で武装したテンマが闘っている。

 テンマの傍には彼を援護する第二班の班員たち。

 さらにその周囲には無数の一般人が野次馬をしている。


『どうだい? ようやく待ち望んだ時がやってきたのさ』


 ルシフェルが能力者の存在を世間に公表しようと目論んでいたことは知っている。

 ただし、その実現には多くの障害があるはずだった。


 世間への影響を考えれば相当慎重に行わなくてはならない。

 間違ってもこんなやり方で一気に浸透させるべきではなかったはずだ。

 もちろんこんなことを本社が許すわけがない。


「とんでもないことをして……!」

『そうそう、君の所にもモンスターとウィステレビの取材クルーを向かわせているよ。なんといっても君はアミティエの花形だからね。せいぜい見栄え良く暴れてくれたまえ』

「え……わっ!」


 急に車が大きく揺れた。

 ルームミラー越しに後方を確認すると、角の生えた馬がいた。

 さっき急ブレーキをかけた時にぶつかってきたのはこいつだったようだ。


『君が勝てないような相手ではないが、本気で襲うよう設定してあるから怪我をしたくなければ真剣に対処してくれたまえ。終わったら迎えに行くからそれまでにテレビクルーを撒いておいて――』


 ルシフェルの声をかき消すように携帯端末から轟音が聞こえてきた。

 バラバラバラ……という音はヘリコプターのプロペラ音だろうか。


「ルシフェル! ちょっと、おいこら、このクソガキ!」


 いくら悪態を吐いてもプロペラ音しか聞こえない。

 アオイは仕方なく通話を切って携帯端末を助手席に投げると、ドアを開けて外に飛び出した。


「イギィィィィィ……ッ」

「黙りなさい」


 不快な金切り声を上げて襲ってきた角付き馬を一瞬で氷漬けにする。

 氷塊の中に閉じ込められたモンスターは数秒後には光の粒となって霧消した。


「くだらないわね」


 子どものお遊びにも道化のようなヒーローごっこにも付き合うつもりはない。

 アオイは舌打ちをして再び車に乗り込むと、早々にその場を立ち去った。

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