4 アミティエについて
ひまわり先輩はシンクにアミティエという組織についての説明をしてくれた。
アミティエとは一言でいえば超能力者たちの集団である。
ただし、所属する人間本人が特殊な異能の力を所持しているわけではない。
ジョイストーンという超能力を引き出す宝石があって、彼らはそれを使用しているのだ。
その超能力をJOYと言い、扱う者をJOY使いと呼ばれる。
組織を運営するフレンズ社はゲームや玩具などのエンターテインメント事業を取り扱う企業である。
アミティエのメンバーたちは建前上、そこの非正規社員ということになっていて、組織の指揮権はフレンズ社のお飾り社長であるルシフェルに一任されている。
ただし一般の従業員たちとの繋がりはほとんどない。
アミティエの主な目的は彼らとは別系統の力を持つ『SHIP能力者』を探し出して保護することだ。
ここまではルシフェルから聞いた通りである。
非正規社員扱いなのは初耳だったが、大まかな説明は一緒である。
「他の活動としては、違法なJOY使いの検挙なんかもあるわね」
「違法……?」
ジョイストーンを発明したのはラバースコンツェルンの中核企業、ラバース社とのこと。
会社から貸し与えられたその宝石を使って発揮するのがJOYという超能力だ。
つまり能力者はすべてラバースコンツェルンの関係者のはずである。
「違法使用者は大きく分けて二種類いるわ。もともと私たちと同じくどこかのラバース関連企業傘下の能力者組織に所属していた人間で、何らかの理由によって脱退し、そのままジョイストーンを私物化した者」
「裏切り者ってことですか」
シンクの問いにひまわり先輩は頷き肯定する。
「彼らはこちらの手のうちを知り尽くしているから厄介なのよ。バレないよう犯罪行為に手を染める人間もいるわ。彼らが裏にいる事件が発生した場合、警察からの要求があれば捕縛に協力したり、陰から支援を行うこともあるわね」
「警察って」
なんだか話が大きくなってきた。
確かにクラブ活動の一言で片づけられるレベルではないようだ。
「もう一種類は?」
「ラバース傘下企業の統制下にない能力者集団。つまり非正規の能力者の集まりよ」
「そんなのがいるのかよ」
「元を辿ればやはりラバース関連の何らかの分野と関連があった人たちみたい。詳しいことは私にもよくわからないわ」
「つまりどっちも仲間割れの成れの果てってことか」
「あとは不確かな情報だけど、ラバースコンツェルンとは全く関係ない能力者の団体もいるそうね。こっちに関してはほとんど何もわかっていないのだけど……まあ、こんな所かしら」
物騒、かついまいち不透明な部分の多い説明だったが、敵に関する話は以上のようだ。
「班っていうのはなんですか? 結局、アミティエのリーダーはルシフェルなんですか? それとも竜崎先輩なんですか?」
「私はただの班長よ。アミティエには全部で四つの班があって、私たち第三班は久良岐市を拠点に、横須賀・三浦辺りまでを担当しているの。あなたは家から少し遠い面倒かもしれないわね」
「遠くても知り合いがいる方がいいですよ。通えない距離じゃないですしね」
「あなたの自宅や岡高周辺は第二班の担当地区だから、間違っても近所で問題を起こさないで頂戴ね」
シンクたちが通う岡高は南橘樹市にあるが、マナやひまわり先輩の家は久良岐市内にある。
つまり学校やシンクの自宅は第二班の担当地域になるそうだ。
この辺りが少しややこしいところである。
「それら四つの班を統括するのがフレンズ社でありルシフェルよ。と、言ってもあいつが現場に出てくることはほとんどないわ。単なる管理責任者ね。そうそう、忘れないうちにこれを渡しておくわ」
ひまわり先輩は引き出しからカードの束を取り出して、その中の一枚を机の上に置いた。
それはまさしく噂に聞くVIPカードだった。
「とりあえずアシだけでも用意しておきなさい。免許を持っていないなら手続きすればこちらで都合してあげる。他にもいろいろ役に立つけど、あまり無駄遣いはしないでね」
さらりと違法な言葉が耳に入ったが、それよりも気になったことがある。
「こんな大事なものをそんな無造作に扱っていいんですか! しかもそんな大量に!」
ざっと見であの束にVIPカードは一〇〇枚以上ある。
もし盗まれたらどれだけの損害になるかは想像もつかない。
「別にいいのよ。この建屋にはいつも誰かしらJOY使いがいるから、普通の犯罪者は侵入して来ないし。能力者なら危険を冒してまで盗みはしないでしょう。もちろん私に面と向かって喧嘩を売るような愚かな者は第三班にはいないわ」
不敵に微笑むひまわり先輩にシンクはなぜか背筋が寒くなった。
というか実際に部屋の気温が下がったような気がする。
クーラーが利きすぎなのかと部屋の中を見回してみるが、どこにも空調がないことに気づく。
「……先輩も自分の能力を持ってるんですよね」
「もちろんよ」
「ジョイストーンっていうのは、手に持っていなくても使えるものなんですか?」
「あら、どうして?」
「先輩さっきからずっと能力を使い続けているでしょう」
ひまわり先輩は面白いものを見るように目を細める。
その眼で見つめられるとまた一段と寒気が強くなる。
「なかなかの洞察力ね。じゃあ、私の能力っていうのはなんだと思うの?」
「……周囲の温度を調節する、とかですか」
この部屋にクーラーがないこと。
さきほどの部屋を出るときの少女の言葉。
それらのヒントから考えてシンクはそう推測してみた。
「ハズレよ。そんな貧弱な能力で班長は務まらないわ……そろそろ話は終わりにしましょうか」
ひまわり先輩はソファから立ち上がると、机を回ってシンクの頭を撫でた。
目つきの冷たさとは裏腹にその手のひらは人並みの温かさを持っている。
「これから頑張ってね。新入りくん」
「……バカにしてるんですか?」
「期待しているのよ。さあ一緒に下に戻りましょう」
「まだ答えを聞いてませんよ」
「私の能力なら近く知る機会もあるでしょう。これ以上あなたを独占していると、あそこで覗いているマナに文句を言われそうだしね」
ひまわり先輩は足音を殺してドアに近づくと、勢いよく手前に引っ張った。
聞き耳を立てていたらしいマナが勢いあまって室内に転がりこんでくる。
「何やってるのよ、マナ」
「あは、あはは。ちょっと新規ちゃんの様子が気になって……ほら私、ナビゲーターだし」
照れ隠しの笑いを浮かべるマナ。
そんな彼女をひまわり先輩は呆れたように見下ろした。
何気ない日常の一幕に見えるが、シンクはほほ笑ましく見守る気持ちにはなれなかった。
ドアの向こうにいたマナの存在にまったく気づいていなかったからだ。
「……それも能力の一端ですか?」
振り向いてひまわり先輩はこう答える。
「いいえ、ただのカンよ」




