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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十四話 バトルフィールド
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4 LUSU

「LUSU2に続いてLUSU4まで倒されたか……まあ、このくらいは想定の範囲内だ」


 ルシフェルはデスクに顎肘をつきながら呟いた。


 頭には変わらずヘッドマウントディスプレイが装着されている。

 彼が見ているのはショウたち五人のプレイヤーがいるバーチャル世界である。

 手元のキーで三次元的に視点を移動させ、空間内のどこでも自由に監視することができた。


 また、画面上部にはさまざまな現象を起こすためのコマンドボタンがある。

 左下の小マップにはプレイヤーとモンスターの大まかな位置がしっかり記されている。

 この仮想空間内にいる限り、神の視点を持つルシフェルの目から逃れることは決してできない。


 彼らに言った通り、この世界はコンピューター上にデータとして存在するゲームの空間である。

 バーチャルリアリティ技術はすでに完成の域に達しており、あとは安価なハードの構築と安全性の確保さえできれば、いつでも市販できる状況にある。


 現在、このレベルのVR技術はフレンズ社が独占している。

 市販されればゲームの概念を大きく変えると同時に、莫大な利益を得られるだろう。

 そのどちらもルシフェルにとっては全く興味の無いことである。


 それに作り物の世界にショウたちを強制的に閉じ込めたのはあくまでJOY能力だ。

意識転移フィーリングムーブ≫と≪人機同期マシンユニオン≫、そして≪探索発動サーチエフェクト≫の能力を複合させ、アミティエ第一班の班員役三十名の協力を得て入念な下準備をさせたからこそ可能になったことである。


 実はルシフェルは先ほどひとつ嘘をついた。

 ショウたちの肉体は現在どこでもない空間に存在する。

 あえて言うならゲーム空間そのものと同化していると言うべきか。


 彼らがゲーム内で死亡すれば、元々いた場所に意識を失った状態で現れる。

 その後はあらかじめ待機させてある第一班の班員が速やかに回収するだろう。

 裏切り者三人に加え、ALCOの重要人物の捕縛にほぼリーチをかけた状態だ。


 ショウたちが倒れるのは時間の問題である。

 現実世界で神器を持つショウに勝つのは非常に難しい。

 何度も煮え湯を飲まされた神田和代も一筋縄ではいかないだろう。


 だが、ゲームの中なら話は別だ。

 七体のボスモンスターには『LUSU(ルゥス)』というコードネームが付いている。

 デビルウルフ、ホーンホース、キラービー、スカーラルサイズ、デススライムら五種の雑魚モンスターとは違い、複雑な情報で構成されたボスモンスターだ。


 データ上の存在ではあるが、長い時間をかけて作り上げたワンオフユニットであり、その構成情報は非常に複雑でコピーすることはできない。


 丹精を込めて育て上げたそれはゲーム内でのみ生きる生物のようなものである。

 ルシフェルにとっては可愛いペットも同然だった。

 同時に最強の兵士でもある。

 特に最高傑作であるLUSU7は理論上ショウでも絶対に敵わないはずだ。


 とはいえ、決して油断はしない。

 まずは初期作品を最初にけしかけて消耗させる。

 そして無限にわき出る雑魚との戦いに疲れた頃に最高傑作でとどめを刺す。


 せいぜい足掻くがいいさ。

 真に最強の名にふさわしいのはショウでも、親父のとっておきでもない。


「この世界を統べるのはこの僕とLUSUだということを教えてやるよ。くくく……」


 冷え切った薄暗い部屋にルシフェルの低い笑い声が響いた。




   ※


 シンクたちは逃げ続けていた。

 ザコモンスターは倒してもすぐまた別の場所に現れる。

 マコトが見立てた所、いくら倒しても周囲の絶対数は減っていないようだ。


 これでは戦っても時間と体力の無駄である。

 マコトの誘導に従って敵の少ない方角に向かう。

 身を隠せそうな建物があれば進入して防御を固める。


 ……というのが当初の作戦だったが、何度建物に入ってもモンスターの大群に襲われ、撤退を余儀なくされてしまうということを繰り返していた。


「そろそろ休憩したいですわっ」


 驚異的な体力で全力疾走していた和代だったが、いい加減に疲れてきたようだ。

 戦闘には参加していないマコトもずいぶん前から肩で息をしている。

≪龍童の力≫でSHIP能力者並の体力と運動神経を得ているシンクだけがまだ余裕だった。


「なあ、もしかして俺ら見張られてんじゃねえか?」


 シンクはふと思いついたことを言ってみた。

 さっき隠れようとした浄水場なんて進入した時は周りに一匹もいなかった。

 なのにバリケードを作っている段階で急に二十匹近いモンスターに取り囲まれてしまったのだ。


「いや、それらしい視線は感じないよ。望遠鏡みたいなものを使われてるとしても、こっちを見張っている気配があればすぐに気づけるんだ」

「でもここはゲームの中だぜ? プレイヤー画面の端っこに常に全体マップが映ってるみたいに、何にも無いところに視点があるとか普通にありそうじゃねえか?」

「……」

「おい、反論しろよ」

「ちょっとマコトさん?」


 二人に詰め寄られてマコトは後ずさる。

 ここまでずっと彼の指示に従って走り続けてきたのだ。

 現実世界との相違を考えてなかったなんて言い訳は今さら聞きたくない。


「そ、それよりも悪い知らせだ。たったいま五十メートル先と三十メートル後ろに直前までいなかったモンスターの反応が同時に現れた」

「やっぱり見張られてるんじゃねーか!?」


 三人がいるのは片側が林になった道路。

 車二台がギリギリすれ違えるくらいの狭い下り坂である。

 こんな狭い道路で前後を塞がれるよう二カ所同時にわき出るなど偶然ではないだろう。

 やはり自分たちの位置は完璧に把握されてると思って行動した方がよさそうだ。


「こりゃ強硬突破するしかないな」


 左手側は民家だが、その向こうは高い崖。

 右手側の林に逃げ込んで万が一待ち伏せがあったら厄介だ。

 どこにいても敵が湧き出てくるなら、視界が悪い場所での戦いは絶対に避けたい。


「下りの方が敵の数は少ないですわね。そちらを抜けましょう」

「俺が爆風で道を開く。お前らは向かってくる敵を適当に迎撃してくれ」

「耐久力の高い角馬と紫狼は私が引き受けますわ。マコトさんは巨大蜂と鎌リスを優先して狙ってくださいな。新九郎さんは余裕があったらスライムを」


 モンスターの呼び名は和代が勝手につけたものだが、わかりやすく特徴を表している。

 何度かザコ敵と交戦してわかったことがある。

 和代がスライムと呼んだ不定形の生き物は物理的な攻撃が通用しない。

 その代わりに代わりに火にも冷気にも弱いようで、シンクなら全く苦戦せずに倒すことができる。


「わかった。そっちのあんた、コインの弾数は足りるのか?」

「使い切ったら小石でも拾って投げるさ。威力は落ちるけどな」


 シンクとマコトは互いに目配せして頷き合い、


「行きますわよ!」


 和代の合図で一斉に走り出した。


「食らいやがれ!」


 まずは敵の密集地帯に全力で爆炎を撃ち込む。

 直撃を受けたモンスターはそのまま残骸も残さず塵となった。

 横から回るように動きの速い小動物系と集団から離れていた紫狼が襲いかかってくる。


「ちっ、大人しく引けよ!」


 連続での『バーニングボンバー』の使用は体力的にも厳しい。

 シンクは≪龍童の力≫で強化した脚力を頼りに一気に敵の群れを駆け抜けた。

 ついでに残っていたスライムに向けて氷の礫を浴びせておく。

 その後をマコトが散弾のようにコインをばらまきながら続いた。


「そらっ!」


 彼の手から放れたコインは一発の無駄もなく鎌リスと巨大蜂を葬っていく。

 威力こそそれほど高くないが狙いは百発百中である。


 和代は最後尾から一定の距離を取りながら紫狼ら中型モンスターを確実に仕留めていく。

 一匹倒すのにおよそ二秒ほど振動球を当て続けなければならない。

 うかつに敵との距離を縮めるわけにはいかないのだ。


 その代わり威力は≪龍童の力≫を使ったシンクの全力攻撃よりも強い。

 やがて三人はモンスターの群れを突破することに成功した。


「どこに行けばいいんだ!?」


 芳しい答えが返ってくるとは思わないが問わずにはいられない。

 全力疾走を続けながら数秒の間を置いてマコトが口を開いた。


「やっぱ、ボスモンスターを、倒すしか、ないんじゃないかな!」

「バカがすべてを始末するまで待っている余裕はなさそうですわね」


 どこかにいるはずの元アミティエ第一班班長ショウ。

 手も足も出なかった男の顔を思い出してシンクは苦い気分になった。

 あいつを頼りにするのはかなり癪だが、この状況下では協力するしかないか。

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