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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十三話 グランドジャスティス
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8 特異点の男とラバースの関係

 和代は車に戻ると、全開にした窓から腕を出して向かいのマンションを眺めた。


「まさかあの方に息子さんがいらしたとはね……」

「やっぱりSHIP能力者なんですかね?」


運転席のマコトが尋ねる。

 車はエンジンをかけたまま停車している。


「十中八九。覚醒しているか、本人に自覚があるかは知りませんが、あの様子だとL.N.T.については何も知らないようですわね」

「俺たちみたく記憶を改ざんされてんのかな」


 マコトが言う『俺たち』とはショウらアミティエ最初期からの能力者五人のことである。

 L.N.T.を脱出した子供たちのうち、和代たちとは別の国で保護された少年たちだ。


「もしくは単に若すぎて覚えていないだけか。少なくとも、私たちがあの街から連れ出した園児たちの中に彼の姿はありませんでしたわ」

「あの真夏って人はなんなんだ? ついでに調()()()みたけど怪しいところはなかったぜ。少なくとも今はSHIP能力者じゃない」

「そうでしょうね。かつては何らかの能力を有していたかもしれませんが、能力適正年齢はとうに過ぎています。JOYインプラントは行っていないようですし」


 和代はそこで言葉を句切り、「ですが……」と前置きをしてから言葉を続けた。


「それだけの女性を『彼』が生かして外に放つわけがありませんわ」


 代名詞で呼ぶだけで全身に電流が走ったような衝撃を受ける。

 マコトには気づかれないよう窓の外を向いて顔をしかめ、必死に感情の奔流をこらえた。


 特異点の男。

 今の能力者たちは彼のことをそう呼ぶらしい。

 不思議とその呼び方を聞いても心は動かないが、あえて声に出す気にならない。


 すべての元凶の一人。

 和代たちが最も憎むべき最悪の敵。

 その名を口にする事が憚られるのは和代もまた呪縛に囚われているからに他ならない。

 記憶のすべてを憎悪で埋め尽くし、あれから十年以上が経った現在においてもだ。


「考えすぎじゃないかな。どうやったかは知らないけど彼女も無事に街の外に脱出して、こうして今は平和に息子と暮らしてるって風には思えないか? ラバース本社との繋がりもないみたいだし、いまさら何かを企ててるとは思えないけどな」

「いいえ、彼女は絶対に何らかの目的を持って行動しているはずです」

「なんでそう断言できるんですか」

「もう一度言いますが、あの男が善意で解放するなんてありえませんから」


 真夏は和代よりもよほど深くあの男に浸食されているはずの人物だ。

 普通に生活しているように見えても、それはフェイクに決まっている。

 何らかの命令に従い、それを確実に遂行しようとしていると確信できる。


 彼女の目的は和代たちには直接の関係ないかもしれない。

 だが知ることで戦力の増強、もしくは反撃の糸口になる可能性もある。

 あるいは全く関係のないあの男の個人的趣味のような理由なのかもしれないが。


「いまいちわかんないんだけどさ。特異点の男ってのは結局ラバースの味方なのか?」


 和代が『あの男』と呼ぶ者。

 能力者組織は『特異点の男』と呼ぶ者。


 その男はSHIP能力者を大量に残した迷惑者と認識されている。

 各能力者組織は世の中に混乱を撒き散らさないため、その後始末をしているのだ。

 あくまで名目上は、だが。


「味方というより協力者と言うべきでしょうか。いくら強力な能力を持っていようと一個人ですし、さまざまなバックアップを受ける代わりにラバース側も『最初のSHIP能力者』である彼から見返りを得ていたようですわ。当人たちが何を考えていたのかなんて想像の余地もありませんけどね」


 十数年前にラバース社とあの男が協力して『あの街』を運営していたことは事実だ。

 しかしラバースと特異点の男の繋がりを能力者組織に属する若者たちは知らない。


「でも、もうラバースの下にはいないんだろ?」

「ここ数年は完全に行方をくらませていました。ですがあの男の残したものはあまりに大きく、私たちはそれを……なんでエアコンを切りましたの」

「え、切ってないぜ」

「エンジンを停止したからでしょう」


 和代は足下の温風が止まったことに文句を言いつつ窓を閉めようとした。

 ところが、なぜかパワーウィンドウも動かない。


「キーは弄ってないけど……まさか故障か?」

「ちょっと、冗談じゃありませんわよ」

「いや、これは――」


 マコトが何かを言おうとする直前だった。

 和代は異変に気づいて即座にJOYを発動させた。


 転がるように窓から外に飛び出す。

 車の陰に身を伏せたまま油断なく周囲を見回す。


「能力者が付近にいますわ」

「人払いの能力が使われたのか?」

「いえ、すでに術中にはまっています」


 違和感、としか言いようのないこの感覚。

 人払いの能力に近いが、それよりも強烈なものだ。


 おそらくすでに周囲一帯は外界と隔絶されている。

 住宅街だというのに、周りには全く人の気配がしなくなった。

 和代たちを狙っているのか、もしくは巻き込まれたのかはわからない。

 だが、かなり危機的な状況であることだけは確かだ。


「……いた。近くにジョイストーンの反応」


 マコトもすでに自身の能力を発動させている。

 索敵に優れた彼を連れてきたのは結果的に正解だったようだ。


「場所は?」

「マンションの中だ」


 彼が示したのはたった今出てきたばかりのリリィヒル新柿生。

 真夏とその息子がいるはずのマンションである。


「さて、どちらの可能性が高いでしょうか」


 真夏か、その息子か。

 どちらかが和代たちを陥れるために能力を使ったか。


 もしくは偶然このタイミングで全く別の敵に襲撃された可能性も排除できない。

 一応は前者と仮定しつつ、後者の可能性も考えながら対処すべきと考える。


「ジョイストーンの持ち主以外の反応はないな。建物の中には一人しかいない」

「やはりハメられたと見るべきでしょうね」

「逃げますか?」

「冗談を。先手必勝に決まってますわ」


 車が使えないとなると歩いて帰らなければならない。

 そんな疲れることをするくらいなら目の前の敵を倒した方が早い。

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