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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十三話 グランドジャスティス
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6 気づかぬ邂逅

 ある程度歩いたところでシンクは見覚えのあるコンビニにたどり着いた。

 何も買えないのだが、いちおう道路地図を立ち読みして距離を確認しようと思う。


「ちょっと、まだ見つかりませんの!?」

「いま探してるからもうちょっと待っててよ……」


 店内に入るなり、女の怒鳴り声が聞こえてきた。

 ドアのすぐ脇、まさに用のあった道路地図を男が手に取っている。


 横で文句を言っている金髪ツインテールの女が声の主である。

 見たところ男の方は大学生くらい、女の方は二十代後半前後だろうか?

 仕方ないからこいつらがいなくなるまで漫画雑誌でも立ち読みしていよう。


「気がついたら川崎市に入っているとかふざけてるとしか思えないんですけど」

「だって和代さん、マンション名だけでたどり着けとか無茶だぜ。せめて住所くらいは聞いといてくれなきゃ」

「これでもやっとで手に入れた情報なんですのよ。というか、あなたは周囲を把握するのが得意なのではないんですの?」

「そういう便利な能力じゃないから。ナビ代わりとか無理だから。あーもう、載ってねえ!」

「なら適当にそこら辺の人に道をお聞きなさい。早く。今すぐ。これ以上私を待たせるんじゃありません」

「あーはいはい。なあそこの立ち読みしてるあんた、リリィヒル新柿生ってマンション知らね?」

「知ってるけど」


 急に話しかけられたのでつい答えてしまった。


「ねえマコトさん、あなたふざけてるんですか?」

「だって和代さんが今すぐ聞けって言ったから……」

「せめて駅の近くで聞くとかそれくらいの知能は持ち合わせていませんの!? 無関係な人に迷惑をかけるんじゃありませんわ!」

「どの口が……ああ、もうわかったよ。悪かったなあんた。知ってるわけないよな」

「いやだから知ってるって」


 マコトと呼ばれた男は適当に謝罪をして、和代という女の方を向き、それから二人して驚いた顔でシンクの方を見た。


「は? マジで知ってんの?」

「俺もそこに向かってる途中だから」


 事実、シンクが会いに行こうとしていた人はそのマンションに住んでいる。

 駅からは少し離れた場所にある三階建てのこぢんまりとした建物だ。


「それは丁度いいですわ。車で送って差し上げますから、案内してくださいまし」

「いや和代さん、いくら何でもそれは……」

「ああ、いいぞ」

「いいのかよ!」


 突っ込みを入れるマコトという男をシンクは無視した。

 よくわからないがシンクにとってはむしろ好都合である。


 なれなれしい態度は好きではないが、ここから小一時間歩くよりはマシだ。

 万が一テクニカルな詐欺だとしても最初から金は持っていない。


 それにジョイストーンさえあれば詐欺師くらいどうにでも対処はできるだろう。

 面倒そうな二人だが、数分ほど沈黙に耐えればいいだけの話である。

 シンクはこの突然現れた助け舟に乗ることにした。




   ※


「なるほどガス欠で。そりゃ大変だったな」

「出かける前のチェックは欠かしてはいけないということですわね」

「ああ……」


 と思ったら、予想以上に話しかけられた。

 マコトという男が運転し、和代という女が助手席で、シンクは後部座席。

 道を説明する以外はずっと黙っているつもりだったのに、いつの間にか誘導尋問されるように財布を忘れて知人の家に金を借りに行くことまで喋らされてしまった。


 別に仲良くするつもりはないのだが……

 まあ目的地はすぐそこだし、降りたら二度と会うこともないだろう。


「そこ左な」

「あいよー。っていうか和代さん、俺はそれをあなたにも言いたい」

「道に迷ったのはあなたの能力不足ですわ」


 年の離れた恋人同士かと思ったが違うようだ。

 二人の間には明確な上下関係が見える。


 上司と部下か。

 あるいは学生時代の先輩後輩か。

 親しい仲というより、どっちも馴れ馴れしい性格をしているだけらしい。


 目的の建物が見えてきた。

 車がマンションの前で停まる。


「リリィヒル新柿生……ああ、ここで間違いないな」

「それじゃ俺はこれで」


 シンクが車外に出ると、女も降りてきて丁寧に感謝の言葉を述べた。


「ありがとうございます。おかげで助かりましたわ」

「こっちこそ送ってもらって助かったぜ」


 初見の印象とは違うお嬢様然とした仕草である。

 外見通りにツンデレキャラなだけなのかもしれない。

 シンクは心の中でマコトにもっと頑張れよとエールを送った


「ちょっと広いところに停めてくるから、先に行っててよ」

「わかりましたわ」

「あ、部屋番号だけ教えてくれ」


 マコトの質問に和代は黙る。


「おい、まさか……」

「郵便ポストを見ればきっと名前が書いてありますわ!」


 そんなやりとりを背後で聞きながらシンクはマンションの中に入った。

 どこまでもマヌケなコンビだなと思いながらオートロックのインターフォン前に立つ。

 そこで彼らのやり取りが全くの人ごとではないと気づいた。


 自分も部屋番号がわからん。

 思えば来るのはずいぶん前に引っ越しを手伝って以来だ。

 マンションまでの地図は頭に入っていても、三桁の数字までは覚えていない。


 悔しいがポストを見て探すしかない。

 といっても律儀に名前が書いてあるとは限らない。

 後ろにある集合ポストをパッとみた限り名前欄の半分以上は空欄だ。


 祈るような気持ちで左上から順に目線を動かしていく。

 すると、幸いにもすぐ目的の名前は見つかった。

 見間違えるはずもない自分と同じ名字が。


 和代がエントランスに入ってきてシンクと同じように名前を探し始める。

 素早く見つかったことで同じ失態をしていたと気づかれなくてよかった。


「ええと……あ、ありましたわ。二○三号室」


 応答ボタンを押そうとしたシンクの手が途中で止まる。

 後ろで和代が呟いた部屋番号は、今まさに呼び出そうとした部屋番号だった。

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