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DRAGON CHILD LEN -Jewel of Youth ep2-  作者: すこみ
第十二話 ファーメモリー
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2 シンクVSショウ

 ショウがゆっくりと歩いてこちらに近付いてくる。

 能力を発現させることもなく、用心するそぶりすら見せない。


「それ以上近づいたらぶっとばす」

「やめようぜ、争う理由はないだろ」


 亮にアミティエを裏切らせたあの事件の黒幕はALCOだという話だ。

 ならば、目の前のこいつは亮の仇も同然である。

 そうでなくとも裏切り者だ。


「ALCOに味方してる時点で、てめえは敵だろうがよ……!」


 拳に炎を宿す。

 亮の≪爆炎の魔神(イーフリートブラスト)≫のコピー能力。

 そのパワーを全開にして撃ちだす必殺技『バーニングボンバー』を、


「この人殺しのテロリスト共が!」


 怒りの叫びと共に放つ。

 本来の持ち主である亮と同等威力の一撃だ。

 班長クラスと言えども、ノーガードで食らえば無事では済むまい。


「……マーク、ALCOは人死にが出るようなテロ活動もやってるのか?」


 着弾後の爆煙の中から、平常そのものの声が聞こえてくる。


「いや、そんなことはしてないはずだよ。間接的な被害を考えれば絶対にないとは言えないけど」

「そうか。まあ、今のこいつに何を言っても無意味だろうな」


 風が吹いた。

 くすぶっていた煙が一瞬で消し飛ぶ。


「ふっ!」

「っ!」


 直後にショウが飛び込んできた。

 反射的に氷を具現化させて進路を塞ぐ。

 しかし、即席の盾はまるで役に立たなかった。


 一瞬にしてショウはシンクの背後に回った。

 放った爆風にシンクの体は枯れ葉のように宙に舞う。


「くっ……!」

「遊んでやるよ。正義感の強い新米班長」


 ショウは吹き飛ばされたシンクに自ら追いついて来る。

 中途半端に開いた拳に風が集まっている。


 追撃がくる。

 そう判断したシンクは瞬間移動で逃げた。


「上等だ、この野郎!」


 ただし距離は離さない。

 ショウの背後に移動し、反撃の拳を叩きこむ。

 確実に入ったと思ったが、拳が当たる直前でショウは一気に加速する。


「ヒュゥ!」

「逃げんな!」


 とんでもない機動力だ。

 風使い、確かに最強を名乗るにはふさわしい能力かもしれない。

 だがシンクには瞬間移動と、レンの≪龍童の力≫をコピーした身体能力がある。

 総合的な速さなら負けないはずだ。


「っと、人払いの効果はマークを中心に発生してるんだったか。おい、お前もあんまり動き回らないよう気をつけろよ」

「うるせえ、ケンカ中に喋るな!」

「ついてこいよ」


 戦いの余波を一般人にまで広げるのはシンクも望むところではない。

 ショウは公園の砂場に降り立ち、シンクも空間を渡って彼の正面に立った。




   ※


「あーあ、二人とも熱くなっちゃって……」


 マークは公園に降りたショウたちを見て肩をすくめた。

 そして傍にいる混乱した様子の女の子に目を向ける。


 やれやれ、この状況なら簡単に彼女を攫えてしまうじゃないか。

 あちらの彼はもうショウとの戦いに夢中になってしまっているらしいね。


「どうする? ボクたちも彼らのところへ行ってみるかい?」

「あ、あなた達は、いったい何者なの? 本当に本物のマーク=シグーなの……?」


 思いっきり警戒している様子である。

 彼女はカバンで顔を隠して身構えていた。


 まあ、無理もないだろう。

 能力のことなど何も知らない一般人と聞いている。

 いきなり超人バトルを目にして、すんなりと現実を受け入れられるわけもない。


 彼女自身は本当に何も知らないのだ。

 たとえ、彼女の肉親が()()()の関係者だとしても。


「ボクは本物のマーク=シグーだよ。少なくとも、君がテレビで見たことのあるマークとは同一人物だ。ここにはロックスターとして来ているわけじゃないけどね」

「能力ってなんなの? あなたや新九郎は超能力者なの?」

「ボクはともかく、彼らに関してはその認識で間違いないかな。詳しい説明をすると時間がかかるんだけど」

「私に何の用があるんですか。私は新九郎が超能力者だってことも知らなかったんですよ」

「らしいね。その割に結構落ち着いて見えるのは、さすが『あの人』の血縁だけあるってとこかな」

「あの人……?」


 おっと、余計なことを言ってこれ以上の警戒をされては都合が悪い。


「心配しないでいいよ。ショウは短絡的だからああ言ったけど、ボクは無理やり君を連れ去るつもりはない。ただ少し話を聞いてほしいだけなんだ、あの二人の決着がついたらね」


 あの新九郎という少年はいくつかの能力を複合して使っている。

 かなりの実力者なのだろうが、ショウを相手にしてそう長く持つとは思えない。

 マークも相当に鍛えてきたつもりだったのに、久しぶりに会ったショウにはあっさり完敗した。


 ショウは強すぎる。

 いや、彼の持つ能力がと言うべきか。


「下手に逃げるとショウが乱暴するかもしれないから、とりあえず大人しくしていることを勧めるけど……ええと、麻布紗雪さんだっけ?」

「青山です……なんで母の旧姓を知ってるんですか」

「おっと、失礼」


 マークは彼女の質問に答えず、軽く頭を下げて公園の方に向かって歩きだした。

 紗雪の方を見ないのは大人しく従うと思っているからではない。

 逃げられることがないとわかっているからだ。


 彼女のことはすでに『憶えた』から。

 半径百キロ以内ならどこに逃げてもすぐに見つけられる。

 気絶させて拘束することもできるが、自分たちは悪役じゃないからそんなことはしない。




   ※


 なんだ。

 なんなんだこいつは。


 半端じゃないスピードだとか。

 人間を簡単に吹き飛ばす暴風だとか。

 大木も切り倒す真空波だとか。

 内臓を潰すような圧縮空気弾だとか。


 いいように翻弄されたシンクの体はすでにボロボロだが、そんなことはどうでもいい。

 なんでこいつには、俺の攻撃が一切通じないんだ?


「どうした、もう終わりか?」


 爆炎も。

 氷塊弾も。

 散弾銃のように放った岩石礫も。


「この野郎っ!」


 通じない。

 苦し紛れに投げつけた石礫が、ショウの目の前で半透明のバリアに弾かれる。


「だからさ、俺に遠距離からの攻撃は通じないんだって」

「なんなんだよそれ! ふざけんな!」


 どんなに死角から攻撃しようが、自動的に発動するバリアが奴の体を守っている。

 シンクが使える最強威力の攻撃であるフルパワーの『バーニングボンバー』を正面から受けても焦げ跡一つつかない。

 そして、奴は十メートル近い距離を一瞬で詰められる機動力を持っている。


「もうちょっと頑張れよ。せっかく武器も使わずに相手してやってんだからよ」


 風を纏った拳が来る。

 シンクは腕に纏った岩と氷の盾でガードした。

 だが威力を完全に相殺することはできず、不様に地面に転がされる。


「がっ……」

「テンマを倒した上海の龍童に勝ったんだろ?」

「こ、のっ、インチキ野郎っ! 調子に乗んな! ぶっ殺す!」

「その意気だ。気合い入れて攻めてみりゃ、まだ逆転の芽はあるかもしれないぞ?」


 口ではそんなことを言っているが、自分が負けることなんて微塵も考えちゃいない。

 数々の激戦を潜り抜けてきたシンクが完全に格下扱いだ。


 これが、第一班の班長。

 これが、最強の能力者、ショウ。

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