後編
その後、私と彼は義兄達の奢りで焼き肉屋で夕飯取る事になった。
如何やら今日の義兄達の真昼間の酒飲みの理由は、義兄達の投稿している動画のフォロワーが十万人を突破した記念だそうだ。
良く分からないが、義兄達が登録している動画サイトは十万人を超えると公式認定になるみたいだ。それから色んな特典が付くみたいで詳細は私が未成年だから分からないが、義兄達が此処まで喜ぶから結構良いのだろう。
何にせよ人のお金で食うメシは美味いので有難く奢って貰う事にした。高い肉は物凄く美味しく、彼と『美味い美味い』ご飯を三杯程食べきった程だ。
「ちょっとコンビニで買い物するから先に帰って」
「え~? 夜だから危ないぞ。待ってやるから買って来いよ」
「ちょっと時間が掛かるから待たせてるの悪いし。じゃあそう言う事で」
心配する悪友達に手を振って建物の陰に隠れて一息をついた。
「……隠れてないで出てきたらどう? 今なら色々聞けると思うけど?」
現れたのは女教師と義母以外の元疑似ハーレムメンバー達。私を見る目は憎しみと妬みと嫉妬が入り混じった目だった。……少なからず嫉妬は君達がする資格はない筈なんだけどなー。
「一応言っとくけど、彼の伯母さんとウチの親で話を纏めていたから別に誘拐とかしていないし、保護者や学校に伝えなかったのは悪かったと思うけど両親も伯母さんがてっきり話していると思ってたそうですよ」
「あの人が私達に話す訳がないでしょ!! あの人がどれだけ私やママを嫌っているのか分からない訳!?」
「分かる訳ないでしょ」
噛みついてくる義妹に意図せず冷たい声が出てしまった私。
「『ロッテンマイヤーさんみたいな見た目だな~』と思ったし親から話聞いただけでその人となりなんて赤の他人である私に貴女達の家庭事情なんて分かる訳ないでしょうが」
「お兄ちゃんは話してないの?」
「残念ながらすっぽりと貴女達に関する記憶はありませんね。で? 義理のお母様と先生はどうして此処にいないのですか?」
「……ママ達は何か男の人達と色々話している。途中ママに追い出されたから誰かは分からないけど」
それを聞いて他の女性陣も顔色が悪くなり始めた。多分義妹以外は男性陣の正体が分かっているだろう。因みに私も義兄経由で事情は聞いている。誰も言わない様なので私、優しいから特別に同じ『義妹』の彼女に教えてあげよう。
「多分男の人達は先輩達のお父様方か彼等に雇われた弁護士じゃないですか?」
「えっ?」
「分かるでしょう? 貴女達の処女を奪った相手が今現在行方不明になっている事実を」
心当たりがあるのか義妹の顔が青から白に早変わり。もう面倒なので早く片付ける事にした。
「で? 私達の後をストーカーみたいに付け回っている理由を聞かせても?」
「私達は……」
「因みに彼に謝って以前の様な関係近い状態に戻したいとかそんなおこがましい事言わないよね?」
まさかだと思うが念の為に先制攻撃として言ってみたが、途端に幼馴染が口を閉ざしてしまった。えっ嘘でしょ?
「貴女達何様のつもりなの? 彼をあんな風に追い込んだ癖に今更やり直せると思ったの? どの面下げて言えた訳?」
根暗でカースト最下位のコミュ障ボッチである私に此処まで罵られて彼女達はたじろいてしまっている。たが気の強い幼馴染が私に嚙みついてくる。
「わ、私は、私達はあの男に騙されてたの!! あの男に騙されてっ」
「だから彼の目の前で性行為する姿を見せた?」
喉から空気が出る様な歪な音が幼馴染だけではなく、他の女性陣からも鳴り響いた。
「……確かに貴女達と彼は恋人同士ではない。血の繋がりがないとは言え『家族』ではある義妹である君も誰と付き合おうが勝手よ。…………だけど貴女達は『友達以上恋人未満』、友情・家族愛以上の感情は皆持っていた。少なからず貴女達の処女は彼にあげたいと思っていたでしょう? …………まぁあのエロ猿君にあげちゃったけどね」
そう。この疑似ハーレムメンバー達は彼の親友だったクラスメイト達から『エロ猿』と呼ばれている男に全員処女を捧げたのだ。しかも最悪な事にセックスしている最中を彼の目の前で見せつけた。
「……確かにアンタ達の中で恋人を選ばずずっとウダウダしていた彼も悪かったかもしれない。だけどそれならアンタ達が彼に詰め寄るなり呆れ果てて捨てるなりすれば良かったじゃない。何であんな、それもよりによって彼の親友だった男とヤッて元の関係に戻ると本気で思っているの?」
……彼も彼女達も今の関係が壊れるのが恐かったのだろう。彼の唯一になりたいと思う一方、もし断られたら今の関係に戻れないと言う恐怖が付きまとっていただろう。
そこにつけ込んだ自称親友が一番悪いだが、なし崩しでセックスして挙句に大乱交をやった時点で同情の余地もない。
「話はそれだけ? 兎も角彼に会わせる訳はいかないし話をしたいなら貴女達の保護者もしくは弁護士経由でやって。……それじゃあ帰るから」
「待って!!」
帰ろうとする私の手首を思いっきり掴む幼馴染。あまりの痛さに顔を顰めた。
「お願い会わせて!! 彼に謝りたいの!!!!」
「いや無理だから! 手放して折れる!!!!」
力が強く暴力的なツンデレで有名な幼馴染は平均的な女子高生の握力よりもかなりある。貧弱な私の手首を折るかと思う位に握られた。私を取り囲む様に他の女性達も周りに囲み始めた。
色々何か言っているが余りの手首の痛さで頭が一杯で話の内容は分からないが、恐らく彼との復縁だろう。興奮しているのか私の肩を小突いたり髪の毛を引っ張ったりした。痛さのあまりに涙目になるし幼馴染も激高して握り締める力が強まっていく。このままでは手首を握り潰されてしまうんじゃないかと覚悟を持ち始めた時だった。
「俺の『義妹』に何しているの?」
透き通る様なテノールが聞こえたと思うと私の手首の痛みが突如として治まった。
見ると何時の間にか現れた義兄が幼馴染の腕を掴んで私の手首を解放していたのだ。
気が付くと私は守られる様に義兄の悪友達に囲まれてくれている。唯一世話好きな奴はいないが恐らく彼の傍にいるのだろう。
「君達ねぇ。よってたかって弱い物いじめはいけないよ? 悪いけどさっきのリンチシーンは動画にとってあるからこれ以上騒ぐなら出るとこ出るよ?」
其処まで言われて流石に大人しくなった女性陣。それを見て私は色んな感情が入り混じった溜息を一つ吐く。
「…………お節介かもしれないけど、セックス依存症の専門外来に行った方が良いよ。ぶっちゃけた話、学校で噂になってるよ」
「えっ?」
「隠していたつもりかもしれないけど、敏い奴は敏いから。……姿が見えなくても喘ぎ声とかセックスの時に出る音とか聞こえるし、彼の家で見知らった顔の女の子達が見知らぬ男と一緒に入って長時間家に籠っていたら誰だって怪しむよ」
クラスメイト達が話していた『噂』
それは『自称親友が彼の疑似ハーレムメンバー達を寝取った事。しかも毎日セックス三昧の日々を送っている事』
疑似ハーレムメンバー達は隠していた様だが『人の口に戸は立てられぬ』と言う言葉がある通り、何処からか噂が出始めた。ただ、彼女達の人柄やサルの変態性のお陰で大きく広がる事はなかったが、それでも根強く噂は残っていた。噂をしていたのは『人の不幸は蜜の味』な下世話な人間や自称親友か疑似ハーレムメンバー達の事を嫌っている人間達だったのでやっかみ半分と見られていただろう。
ただ残念な事にその噂は本当だったけど。
「お世話になっている精神科の先生も貴女達がセックス依存症の疑いがあるって。早い内に治療すれば何とかなるかもしれないって言うから早めに診断受けなよ。今は噂も小さいから何とかなるよ」
「お、大きなお世話よ!!」
「確かに大きなお世話だけど~今のままだとそのうち妊娠するよ? あの男に全員の子供を認知して子供を育てるお金あるとは思えないけど」
確かあのエロ猿君の家は普通のサラリーマンの家だ。最低六人の子供の養育費を成人まで払える家庭ではない。エロ猿君が高校を中退して働くにしても心苦しいだろう。共働きにしても高校中退で働ける仕事も給料も少ない。と言うか、あの男責任取る様な男じゃない。
「……此れはもう私達子供だけで終わらせる問題じゃないよ。だから貴女達の父親や弁護士が出てくるんだよ。私は部外者だし『彼』関しては論外。後はウチの親と義兄、貴女達の両親とあの男の両親と弁護士、当事者達で解決して」
「と、言う訳で部外者で未成年の妹ちゃんはこのまま家に帰らせて貰うよ。君達も親御さん達に連絡したから其の内迎えがくるから。と、言う訳でバイバーイ」
もうめんどくさくなったので、後の事は義兄達に任せて家に帰ろう。多分彼も今頃家で大泣きしている頃だろう。彼は私か義兄がいなければ子供の様に癇癪を起して大泣きする子だ。子守りをしている悪友もきっと苦労している筈だろう。
明日は休みだし、ご機嫌取りとして彼の好きなアイスでも買ってお気に入りの映画を見て義兄が帰って来るまで夜更かししよう。