前編
ある少年がいた。
彼は某少年雑誌の恋愛ハーレム物の主人公の様に色んな美少女が彼の周りにいた。
ロリな義妹・ツンデレ幼馴染・男勝りな先輩・眼鏡巨乳の後輩・色っぽい女教師・おっとり巨乳の義母と属性盛り沢山な女の人達と元同級生はちょっとエッチなハプニングがありながらも楽しい疑似ハーレム(肉体関係を結んでいないのであえてこの表現で)生活を謳歌していた。
それが今は……
「――――今日も欠席は一人か」
担任は眉間に皺を僅かに寄せながら出席簿を見ていた。
欠席になっている一人とは特定の人物。ここ三ヶ月程ずっと学校に来ていない。担任としても頭が痛い問題だろう。
「…………もう皆知っていると思うが、現在ずっと欠席している××(彼の苗字だ)だが実は此処三週間もの間自宅に帰っていないそうだ。――つまり現在行方不明となっている」
此れにはクラスメイト達も騒めき始めた。何せその行方不明になっているクラスメイトは家出する様な人物ではない事は誰もが知っているのだ。
「静かに!! ……何か知っている者がいれば我々教師に直ぐ報告に来る様に。この件は警察も動いているから小さい事でも良いから気になる事があればすぐに話して欲しい」
それだけ言うとホームルームは終了した。
「アイツどうしたんだろ?」
「家出なんてする様なタイプじゃないだろ彼奴。……誘拐とか?」
「あいつを誘拐するメリットて何だよ? 家が金持ちな訳ないし」
彼と仲が良かったクラスメイト達がヒソヒソとアレコレ話していた。誰もが彼の事を心の底から心配していた。
「それにしても猿は何しているだ!? 一応アイツとは親友同士だろ!?」
「ダメダメ。サルの奴はエロの事しか考えていないエロザルだぜ?」
「そもそもあいつとあのエロ馬鹿は何で友達をやっているだ?」
クラスメイト達にボロクソに言われている人物は彼の親友だった人物。容姿はチンパンジー、もしくは日本猿に似ていると周りから良く言われる人物でエロい事しか脳みそにない馬鹿である。
女子がいる教室内でエロ本を隠す事なく大開で見る為女子達の人気は最悪だが、男子からは其処まで嫌われていない人物だ。因みに男子達からは『猿』とあだ名を付けられている。
「そう言えば猿の噂……知っているか?」
「いやー流石にガチ目の嘘だろ? だってあのサルだぜ? 彼奴なら兎も角。サルがどんだけ女子達に嫌われているか分かっているだろ?」
「さるの性欲は強めだとかさるのアレが学校の男子の中で一番デカイとか確かにマジな話だけど……噂になっている人達って」
「言うな。それ以上はアイツだけじゃなくて彼女達の名誉も傷付く」
それ以上は誰に語らなくなり、重苦しい雰囲気が周りに漂った。
まあその噂も殆ど本当の話だけど。
全てを知っている私は薄ら笑いをマスクの下にしながらガチャを回した。
私はクラスのカースト最下位と自認している。
デブ・ブス・根暗・コミュ障・ボッチにトドメにオタクと底辺のお手本の様な私がカースト最上位な訳が無い。故に友達なんて誰もいないのだ。
『ガチャイベ限定上限いきました~!!!!』
『おめでとうございます!』
『もうですか!? イベント開始してまだ一日目ですよ!!』
『いや~~押しキャラの初めての限定衣装なのでハッスルしましわ』
『ばるあさんはカイト君押しですからね』
SNSのフォロワー達とこうやって好きな事を語り合うだけで十分満足だ。顔が見えない分気が楽でこうやってふざけた言い回しだって出来る。
『それにしても良くこれだけガチャを回せますね』
『確かばるあさんは学生の筈では?』
『いや~バイトに汗を流していまして』
『どんなバイトですか? やっぱりコンビニとか?』
『イヤイヤ! 私の様なコミュ障が接客業は無理ですわ!! 個人情報があるので詳しくは言えませんが『子守り兼家事手伝い』の様な事をしてます』
『一応聞きますがそれは合法?』
『モチのロンですよ!! ちゃーんと保護者の許可は取ってますよ!』
「……嘘は言ってないけどね」
レトルト品が多いが一応のご飯の材料が入ったエコバッグを肩に掛けて自分の家に帰宅した。
「たーだいま」
玄関に一歩踏み出すとむわっとした熱気と微かにイカ臭い匂い。
「……あんにゃろうリビングでするなって言ってんのに」
ドスドスとワザと音を鳴らして廊下を歩きながらリビングのドアを乱暴に開いた。
「義兄貴! リビングでヤるなとあれ程言ったでしょ!!??」
「おっ、お帰り妹ちゃん」
やはりと言うべきか義理の兄と兄の悪友数人が上半身裸、下はズボンを履いているならまだ良い方でパンツのままの奴もいる。しかも全員無駄に顔が良いしスタイルも最高だから半裸の姿も似合っているがそんな事私には関係ない。
このクソ義兄と愉快な悪友達は『貞節』と言う言葉が、彼等の中にはないかと言う位に性に奔放だった。本当に奔放だった。
何せ顔合わせしたその日の夜に私はこの大馬鹿共の男同士での大乱交を目撃する事になるからだ。
因みに全員がゲイではなくバイで女をだと妊娠する可能性があるので滅多にやらないそう。(男同士でも性病になる可能性あるのになぁ)
兎にも角にも性行為大好きな人間共の集まりで、最近では顔をボカシているがハメ撮り動画をアングラなサイトに乗せて小遣い稼ぎをしているらしい。顔をボカシていも義兄達のイケメンは隠し切れないのでかなり大人気で具体的な金額は聞いていないが、悪友の一人曰く『全員に平等に配当しても一ヶ月働かないでも生活できる金額』だそう。……この人達AV男優になった方が良いんじゃないか?
話は逸れたがこの人達は大馬鹿義兄の部屋でヤっていればいいのにリビングでヤリまくるから本当に嫌になる。
此処はテレビを見るだけではなくご飯も食べる所だから止めろと、何度も聞いても分からない鳥よりも頭が悪い顔だけの集団である。
そこのリーダーでもある私の義理の兄はミネラルウォーターを飲みながらヘラリと笑っていた。
「ゴメンよ妹ちゃん。ちょーとお酒飲んでいたらムラムラしちゃってつい、ね」
「お日様がコンニチワしている時にお酒とはー良いご身分ですねお義兄様。手前の部屋で酒も乱交もやれて私、口が酸っぱくなるまで言ってたよね? 好い加減にしないとお義父さんにお義兄の事チクるぞ」
「ん~俺と同居する様になってから口悪くなったね妹ちゃん」
この男に何を言っても糠に釘、馬の耳に念仏だ。諦めて当初の目的である彼を探した。
「あの子なら今エイトと一緒にお風呂入っているよ妹ちゃん」
そんな時にリビングの扉が開く。開いたのは兄の悪友の一人であるエイトと探していた相手だった。
お風呂上がりが未だに身体ぁら湯気がポカポカと出ていて気持ちよさそうだ。二人共半裸にズボンだから上半身に無数の赤い痣が見えて目に悪い。
「妹ちゃんだ~!」
彼は私の顔を見るとぼうっと生気のない顔から花が咲いた様にパッと明るい顔になって私に勢いよく抱き着いた。その衝撃で少し私の身体は倒れ掛けたけど何とか踏ん張った。
「ッ!! コラ! いきなり飛びかかったら危ないでしょうが!!??」
「えへへへへごめんなさい」
怒られた当の本人は気にしていないのかまるで子供の様に笑って私の胸に顔を埋めた。
クラスメイト達が心配していた彼は今では義兄の愛人となっていた。(別に義兄は妻帯者ではないのだが、恋人と言うのは言えずペットの方が言葉としてはあっているが幾ら何でもあんまりなので妥協案として愛人と言う事にしている)
彼は親しい女性達を目の前で寝取られた。そのショックで彼の心は木端微塵に壊れてしまったが、粉々になった心を拾い上げたのは他でもない私の義兄である。
忘れもしないあれは大雨の夜の事。
何時まで経っても帰らない義兄に流石に心配の心が芽生えた頃に義兄は帰ってきた。ボロボロになった彼を肩で担いで来た状態で。
流石に私も絶句するしかなかった。何せ義兄が連れて来たのは私のクラスメイトでカースト上位の子達と仲良くしていて、しかも可愛い子達が周りにいる事で有名な好青年だからだ。明らかにウチの義兄とは正反対でとても関わりの内二人が、しかも片方がボロボロの状態だったから私は咄嗟に『警察!』と叫んで電話を取ろうとしたが義兄に止められた。
曰く、帰る途中で路地裏の隅で蹲っていた所を発見し声を掛けても反応がなく、目は開いているけど瞳に光がない状態で流石に放置は危険だと思い連れ帰ったとの事。
私はこうなった原因に心当たりがあった為、義父―――義兄の実父に連絡を取って心療内科に勤める先生を紹介して貰った。彼が起きたらその人を紹介して一度入院した方が良いと勧めようとしたが……
「ムフフっ。いもーとちゃん」
昔は年相応だったのに今は子供の様な振舞いをする様になっていた。彼の家にはこうなった原因がいるので帰す訳にはいかず、彼の父方の親戚に事情を話して貰い私の家に住まわしている。
ただ住まわしていただけなら良いが、私が知らない内に義兄と彼が急接近していつの間に身体の関係が出来ていた。
気づいた時は彼はビッチになり、義兄の悪友達と乱痴騒ぎの仲間入りとなっていた。自分達を信用して彼を預かった親戚の方に土下座して心底謝罪したかった。……合意の上だったので止めたが。
動画撮影に出演までは流石にしていない。義兄も愛人の痴態を不特定多数の人物達に見せたくはないだろう。ただ、こうやって悪友達と乱交は許しているが。
「所で義兄さん。学校にこの子の事話した? 今行方不明になっているって大騒ぎになっているよ? 何か警察も動いているとか」
「え~? ……多分伯母さん、義母さん達に何も伝えてないんじゃないの? あの人義母さんと義妹さん達の事嫌ってた感じだし。其の内警察の方に事情を聴きに来た時に話すんじゃない?」
「あー……」
彼の父方の姉に当たる伯母さんを遠目で一度見た事があるが、神経質で生真面目そうな人で明らかに義兄の様な人物を嫌う類の人に見えた。後でお母さんから聞いた話では『弟よりも一回り年下のバツイチ子持ちの女を最初っから信用しておらず、弟が病気で亡くなってから甥を引き取るつもりだったのに、本人と母子の強い願いで其の侭暮らし続けた事を許容した事を後悔している』らしい。
今現在伯母さんの家は受験生のお子さんが二人もいて、到底甥の精神ケアまで手が回らないので彼を私の家に住まわしている事を了承している。曰く『あんな淫売共に預けるよりも此処に預けた方が百倍マシだ』と。……実際はこの家の方がかなりヤバかったのだが。
自分の事を話している全く気にしない、と言うか耳に入っていない様子の彼は悪友達の中で世話好きな奴に服を着替えさせて貰っている。
「お姫さん(彼の事を悪友達はふざけてこう呼んでいる)。そろそろ学校に戻った方が良いんじゃないかい?」
「ん~……ヤっ!」
「おやおや。お姫さん。何が嫌なのかい?」
「…………何か嫌な気分になるから嫌」
「ん~? 妹ちゃんどうしよう?」
困った顔の義兄に少し胸がスッとしたが、このまま彼を不登校のままにするのも後々めんどくさいからせめて一度は学校か家に連絡を取って貰わないと。
「ん~。ちゃんと学校行って卒業したら色々めんどくさい事が無くなるよ? そうすれば合法的に義兄貴とずっと暮らせるよ?」
「妹ちゃんも一緒に暮らす?」
「何で私まで……就職するまでは家にいてあげるわよ。保険室登校でも良いから学校に通いなよ。何だったら一緒に登校する?」
「ん~なら行く!」
ニコニコとご機嫌な彼は上機嫌なまま歌を歌い始めた。悪友達も囃し立てて彼のコンサートを盛り立てていた。
「何でお義兄ちゃんだけではなく私も一緒に暮らしたいのかねぇ」
「それは妹ちゃんがあの子の事をとっても可愛がっているからだよ。後……多分妹ちゃんがあの子の昔の取り巻き達と違うタイプの人間だから安心しているかもね」
「まぁそれもそうか」
彼の病状を知っていればね。