坂田のロケット 2
翌日、坂田は校庭に巨大なミステリーサークルを書き上げた。
それは全校生徒が登校している最中の出来事で
教師たちは顔を真っ赤にしながら坂田を追いかけ、叱った。
両親を呼び出されて坂田は三日間の停学となった。
クラス中で坂田は笑われ、罵倒された。
中には差別的な言い方をする生徒もいた。
たった一日親しく話しただけ……僕はそう自分に言い聞かせながら
友人たちと坂田の悪口を話した。
罪悪感がじわじわと胸にこみ上げてきて、
授業がすべて終わる頃には無言になっていた。
僕は帰りに図書室に寄って
昨日坂田との会話のきっかけとなった図鑑を借りた。
家に帰り、自分の部屋でページを捲っていると固定電話が鳴った。
相手は坂田だった。
「どうしてあんなことをしたんだ?」
「仲間の宇宙人へのメッセージだよ」
坂田はそう繰り返した。
「アニメの見過ぎじゃないのか? クラス全員からハブられるぞ」
「いいよもう、そんなのは。僕はメッセージを送らなきゃならないんだ」
「……お姉さんに?」
「うん」
坂田の声は途中から震え始め、やがて嗚咽交じりになった。
「姉ちゃんは僕のせいで周りから白い目で見られてた。
弟をしっかり躾けてないからあんな風になったって。
でも本当は僕がバカなだけ。
それでも姉ちゃんは大丈夫よって、いつも僕を守ってくれてた。
姉ちゃんが高校生になれば新しい学校でイチから友だちも作れるから、
僕は嬉しかった。でも死んじゃった」
「そうか……」
「姉ちゃんが死んだとき、うちに来てくれた人はいないよ。
居なくなっても興味ないんだ。だからあいつらに見せつけたかった」
「少し休んで落ち着けよ。切るぞ」
僕はいたたまれない気持ちで受話器を置いた。
何も考えていないように見えた坂田に
そんな葛藤があったことに僕はまず驚いた。
翌日になって学校へ行くと校庭のミステリーサークルは跡形もなく消え、
坂田に関する会話すらほとんど聞かなくなった。
日常を取り戻した校内は無機質で冷たく、足音の反響が鬱陶しく響く。
もしあの日図書室で坂田と出会っていなかったら、
僕はほかの連中と同じように無知の笑顔を晒していただろう。
その日の授業はいつも以上に退屈で、頭に入ってきた情報は皆無だった。
僕は家に帰ってすぐに坂田の家へ電話を掛け、開口一番に伝えた。
「坂田、あんな絵じゃ宇宙に届かない。ロケットを上げよう。でっかいロケット」