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星の下  作者: 路傍の石
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坂田のロケット

僕が中学二年の頃、同じクラスに坂田という生徒が居た。

性格も見た目もおかしな奴で、クラスメイトからしばしば避けられる存在だった。


僕はその日、なんとなく放課後に図書室に寄った。

中心にある長机に生徒が一人座っているだけで、中はがらんとしていた。

その生徒が坂田であることに気付いた僕は

咄嗟に入口へ引き返そうとしたのだが、彼の方が一足早く僕に視線を向けた。


ヘビのように細い目でじっとこちらを見つめている。

目を合わせなくとも確かに気配を感じ、背中からはじっとりと汗が噴き出した。

唇に収まりきらない前歯がチラリと顔を出している。


冗談じゃない、どうして僕は坂田なんかにビビっているんだ。

そう自分に言い聞かせながら僕は彼と目を合わさず、

口も聞かずに無表情で本を探し始めた。


ズ……っと椅子を引く音が聞こえる。

坂田が帰るのか? 安心したのも束の間、

その足音は明らかにこちらに向かって進んできている。


僕は戦慄した。

ヘビに睨まれたカエルのように体が硬直して動かない。


「ヒマワリだ」


気付くと坂田が僕のすぐ横まで来て声を上げていた。


「人工衛星」

「え?」


僕は目線を上げた。

右手には表紙に人工衛星が写った分厚い図鑑が握られている。

僕がなんとなく手に取った本の表紙に、坂田は目を大きく開いて興奮している様子だった。

その姿はまるで無邪気な子どもで、いつもの坂田とは明らかに違っていた。

僕は彼の言葉を無視できなかった。


「詳しいの?」

「うん、僕は宇宙人だから」

「お前……バカかよ」


そのやりとりをきっかけに、結局その日は

全校生徒が帰る夜6時過ぎまで坂田と図書館で語り合った。

彼は本当に宇宙人なのかと思うほど宇宙について詳しかった。

僕にはとても抵抗できず、聞く話すべてが新鮮で価値ある内容だった。


その中でただ一つ、坂田の個人的な話として聞いたのは

お姉さんが最近亡くなったということだ。

これから高校生としての新しい一日が始まるタイミングで、

大型トラックが無情にも彼女の命を奪った。即死だったらしい。


飲酒運転で捕まった中年オヤジは彼女の信号無視を主張したが、

目撃者の発言と監視カメラの映像から事件の全貌が明るみになり、実刑判決を受けた。

目撃者は坂田だった。


坂田は、お姉ちゃんはただ星に帰っただけだと僕に笑いかけた。

学校で初めて会話する相手にどうしてそんな話をするのかわからなかったが、

話せる相手が居なくて辛かったのだろうと察することはできた。

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