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星の下  作者: 路傍の石
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コーヒーショップ

僕は街角の小さいコーヒーショップでコーヒー片手に

ノートパソコンをタイプしていた。個人経営の店だが、

店内のアンティーク調の家具や静かな雰囲気が好きでよく通っている。


今日は曇り空だ。

今夜から明日の朝にかけて雨が降るらしいから、きっと星は見えない。

旧型のノートパソコンはジージーと耳障りな電子音を放ち、

業務ファイルの入ったCDRを懸命に回していた。


僕は何をしている? 会社の仕事か? 休日だというのに。

そのせいで大事なものを失ったばかりだというのに!

最近こんなことばかりだ。気付けば仕事をしている。

いつの間にかパソコンの電源を入れてキーボードを叩いている。


上司は僕のことをよくできる人間だと言った。

仕事は一度も失敗しない、誰かが間に合わなかった仕事は休日に引き受けて済ませる。

自分なりに会社に尽くしてきたつもりだが、

上司は僕より後に入ってきた新入社員を役員に推薦した。


会社にとって僕はただ仕事をするだけの機械なのかもしれない。

飲み会、コンパ、社員旅行、すべて断った。

上司の誕生日だってさっさと家に帰った。


その新入社員は事細かに上司や社員の好み、誕生日、人間性を把握し

コミュニケーション力で役職を勝ち取った。

仕事に関してはお世辞にも出来る方ではなかったが、誰よりも信頼された。


情けない。僕は今自分が惨めでどうしようもなかった。

やきもちをやいているのか、彼がただごますりだけで昇級したと、

僕の方が優れていると、そんなことを考えていたのだ。


コーヒーを一口飲む。ノートパソコンの光が嫌になって僕は電源を切った。

それまで聞こえなかった野外の鳥の声に気付く。こんなビル街にも鳥は巣を作るのだ。

店内に響くジャズミュージックは毎回変わって、そのたびに僕は良いセンスだと感心した。


「田辺さん!」


その声に振り返ると同僚の女性社員、野口の姿があった。


「偶然ですね。隣いいですか?」


彼女は僕の返事も聞かず隣の席に座ると、慣れた手付きでカフェモカを注文した。


「今日会社休みですよ? まさか仕事してるんじゃないですよね」

「違うよ。ただのネットサーフィン」


人事部の彼女に外での仕事がバレるわけにはいかない。

公共の場で会社の資料作りをしていたとなれば大問題だ。


「田辺さん、他の人の仕事までやってるそうじゃないですか」

「暇なんだよ」

「先週末も終電間際までやってたって。体壊しますよ」


黙ってコーヒーをすする僕を野口はじっと睨んでいた。


「まあ仕事の話はやめましょう。今日は休みだし」


カフェモカが来ると同時に彼女はスイッチをオフに切り替え、

ふっと肩の力を抜いた。

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