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星の下  作者: 路傍の石
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星の家 3

僕は慎重に接眼レンズに近付く。

頭が妙に冴えて瞳が渇き、何度も瞬きした。

永遠のように濃縮された時間……

ただ、レンズの奥に見えたのは暗闇だけだった。


一瞬これが普通なのか、きっと室内が暗いせいだと思ったが

いくら目を凝らしても一向に見えてくる気配がない。


「工藤さん……何も見えないんですが」

「え?」


工藤さんは僕を移動させた後、自身でレンズを覗き込んだ。


「本当だ、真っ暗だね。操作が間違ってたのかな?」


キョトンとしながら工藤さんは望遠鏡の根元から突端までをよく見まわした。


「あ! バカだね私。まだドーム開いてないじゃん」


工藤さんは飽きれ笑いを漏らしながら、急いで部屋の隅にあるガラス張りの小さい個室に入った。

そこは望遠鏡の操作室のようで、たくさんの大きな機械が設置されている

さながら秘密基地だ。


なにかのボタンを押す動作をすると、お腹の奥に響く低い機械音と共に

天井がゆっくり割れ始め、その隙間から黒い夜空が顔を出した。

そのダイナミックな動作に感動を覚えながらも、妙な違和感を覚える。


いつも星の家の天井から突き出して見えていた筒状の何か。

あれが望遠鏡だったとしたら、わざわざ天井を開かなくても星々が見えるはずではないのか。


「工藤さん、おかしいよ? ここの屋根からはいつも望遠鏡が飛び出ているのに……」


そう言いかけたとき、すべての謎が解けた。

望遠鏡の先が真っ二つに“割れた”のである。

天井と一体化していた望遠鏡の先が中心部分から分かれ、

巨大な空洞の中から全長が三分のニ程度に小さくなってしまった、

天体望遠鏡本来の姿が現れた。


僕は突然のことに口を開けたまま停止した。


「うわ~寒い! もう冬が近いからね~」


工藤さんは目の前で起きた出来事を全く気に留める様子はなく、

未だに瞳をらんらんとさせている。


「もしかして屋根から出てたのは偽物……?」

「え? あー! あれは気持ちの問題だね」


屈託のない笑顔でふふっと笑う姿に誘われ、

僕もたまらずその場で吹き出してしまった。


開ききったドームからは紺色の透き通った空がずっと先までよく見えた。

駅から近いというのに街の灯りが気にならない絶好の観測ポイントだ。


「今度こそ大丈夫だって。ほらほら! 月が見えるよ!」


月、その響きに僕の胸は高鳴った。

頭の中で名曲『Fly me to the Moon』が流れ出す。

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