星の家 2
工藤さんに導かれ、博物館の奥へと進んでいく。
非常灯のようなものはついていたが、館内は薄暗く
ガラスケースの中に安置された宇宙服が怪し気にこちらを見下ろしていた。
館内には宇宙開発に関する様々な情報が書かれた展示パネルやレプリカ製品、
読書スペースや視聴覚室などが備わっており、少年少女の勉強場所として愛されてる。
ただ、一時間もあればすべて見れてしまう小ささに加え
レプリカへの有難みの薄さから、リピートして通うような人物はほとんどいない。
それでも夏になれば自習室が開放され、多くの学生が訪れる。
やがて僕らは大きくて厳重そうな扉の前までやってきた。
ちょっと待ってね、と工藤さんがカギを扉に差し込む。
思いのほか“ガチャン”と大きな音が鳴り、僕はびくっと反応した。
重そうな扉が開かれると、少し冷たい空気と共に静寂が押し寄せてきた。
人の気配がなく、本当に星が住み着いているのかと思えるほど異様な黒い空間だった。
目が慣れると同時に興奮が押し寄せてくる。
目の前に巨大な天体望遠鏡の神々しいボディが露になったのだ。
「凄いでしょ? ちょっと隙間風が寒いけど。こんな立派なのなかなか無いよ」
工藤さんは目をキラキラさせながら天体望遠鏡に近付くと
白く冷たい表面を優しく撫でた。
「凄い! 本当に使っていいんですか?」
「もちろん。そのために案内したんだからさ。あと敬語使わないで良いよ」
望遠鏡の部屋は床に埋め込まれた照明のみで薄暗く、とてもロマンチックな空間だった。
どんなにクサい台詞を吐いても、すべてがこの世の心理に聞こえてしまうほど
神聖な雰囲気が漂っていた。
工藤さんは望遠鏡の横から軽く僕を手招きした。
指差したのは根元に繋がった接眼レンズ。
「ここから見るんだよ。足場上がってきて」
黒い足場を慎重に上り、やっと望遠鏡に手が触れる場所にたどり着く。
近くで見るとより大きく、とてつもない力強さを感じた。
「今カバー取るから、心の準備してね」
工藤さんが目を細めてやけに大人っぽい目線を僕に向けた。
この人もかなり気分が高揚しているようだ。
これから僕は星に一歩近付くことになる。
今までただ地面から見つめることしか出来なかった僕が、
星と真正面から向き合うのだ。
室内の闇がうっすら青く見えて、
僕はこの小宇宙に佇む小さい有機物に過ぎないことを実感する。
「準備できた?」
工藤さんがまるで自分のことのようにソワソワし始めた。
「う、うん!」
年上相手にタメ口というのはやはり慣れない。
そんな僕の様子を見て、工藤さんは悪戯っぽくクスクス笑った。