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五品目 悪魔ニンニク(後編)

 翌日、ランドルは厩舎でブレイブ村に出入りする馬車の流れを調べた。狙いは、外からやって来た馬車だった。


 悪魔ニンニクはヒッソス樹海でしか育たない。実はこれが思い込みで、悪魔ニンニクが外から持ち込まれた可能性を考えるためだった。


 馬や牛を預かる厩舎が休憩時間になった。厩務員に金を握らせて、話を訊く。

「二週間前の話なんやけどな、この村に定期便とは違う、妙な馬車が来とらんか?」


 厩務員のコボルドが難しい顔をして答える。

「妙な、と言えるかどうか、わかりませんが。荷物の空の馬車が来ていましね。帰りは魔獣素材を積んで帰りましたけど」


(おかしいのう。ブレイブ村の特産品を買いに来たのなら、行きも何かしらの荷物を積んで来るはずや。そうしないと、片道の運賃がもったいない)


 ランドルの頭に推理が浮かんだ。

(もしかして、行きに、どこか別の場所で採れた悪魔ニンニクを積んできとったのかもしれん。それを村の近くに隠す。そんで、さも樹海で採ってきたように偽装したかもしれんなあ)


 悪魔ニンニクは天使味噌に漬ければ長持ちするが、そのままでは(いた)み易かった。

(遠くから運ばれた悪魔ニンニクなら、跡を追うのが困難や。でも、近場なら追える)


「その、行きが空の荷馬車の話を、もう少し詳しく聞かせてくれ」

 厩務員は困った顔をした。


「詳しく、って頼まれてもねえ。そういえば、荷馬車の荷台。野菜も薬草も積んでいなかったのに、臭かったな」

(お? これは、もしかして、推理が当たったか?)


「もしかして、悪魔ニンニクの臭いか?」

 厩務員の顔は渋い。

「どうだろうな。僕、ああいう臭いの強い食べ物は嫌いだから、よくわからないんです」


「その荷馬車、どこから来たか、わからんか?」

「御者はニックさんだったから、隣のミルト村からですよ」


 ミルト村はブレイブ村から徒歩で四時間ほど行った場所にある農村だった。取り立てて特産品はない。


 だが、村に小麦や野菜、生活必需品を運んでくる中継地点だった。

「御者のニックとは、親しいんか?」


 厩務員は難しい顔で考え込む。

「親しい、ってほどではないですよ。挨拶くらいは一応しますけど。でも、二週間前は人を避けるようにしていたな」


(段々と怪しくなってきたで)

 ランドルは翌日、朝早くにブレイブ村を出て、ミルト村に向かった。


 ミルト村には昼前に着いた。宿屋兼酒場に行き、昼食を摂る。

 宿屋はこれから昼食に来る客で賑わいそうだった。


 給仕の男性にチップを渡して、訊く。

「この辺りで悪魔ニンニクって採れる?」


 給仕の男性は素っ気なく答える。

「採れませんね。悪魔ニンニクの壺漬けなら手に入ります。ですが、生が欲しいのならブレイブ村まで行かないと」


(やはり、樹海でしか採れないのか。勇み足だったかのう)

「そうかー、ちなみに、この村に森の悪魔の死骸ってある?」


 給仕は苦笑いした。

「お客さん、そんな物騒な物はありませんよ」


 すると、話を聞いていた酔っ払いの老人が横から口を出す。

「いいや、レイの家ならあるかもしれないぜ。何せ、奴は錬金術師だからな」


「何や? この村に錬金術師が住んでおるんか?」

 給仕の男が冴えない表情で教えてくれた。


「錬金術師っていっても、自称ですよ。本人はかなり凄腕のつもりですけどね」

(怪しいのう。何か、関係しているかもしれん)


「レイさんにちと話が聞きたい。家を教えて」

 ランドルは給仕にレイの家を聞いた。


 情報を教えてくれた老人には、赤ワインを一杯プレゼントして別れる。

 レイの家は古くなった牧場だった。牛舎と隣に建つ大きな家が目印だった。


 外から観察する。敷地を囲う柵は見える。

 だが、牛舎は現在は使われていないのか、牛の姿は見えなかった。


(一見すると、単なる古民家やな。だが、なぜ、こんな広い土地をレイが必要としたのか、不明やな)


 正面から行って警戒されると困るので、夜を待つ。

 月明かりの中、ランタンを片手に、ランドルはレイの牧場に侵入した。


 一番に気になる牛舎に見に行く。牛舎の扉は施錠されていた。だが、牛舎に空気を入れるための、六mの位置にある窓は開いていた。


 ランドルは扉を無視する。ランタンを咥えて、壁に張り付き、壁をすいすいと登った。

 窓から中を覗いた。牛舎の中には、何か大きな丸太のようなものが多数、置いてあった。


 窓から牛舎内に中に侵入して、ランタンで丸太を照らした。

 しゃがんで調べると、丸太は森の悪魔の死骸を切断したものだった。死骸からは悪魔ニンニクが生えていた。


 一本とって臭いを嗅ぐ。臭いは天然物より薄かった。

(見つけたで。ここが秘密の栽培場や。レイは特殊な方法で、樹海の中でしか育たない悪魔ニンニクを樹海の外で栽培する方法を見つけたんやな)


 ランドルは、その日はミルト村の宿に泊まって、翌朝レイの家に行く。

 レイの家のドアをノックする。


 白い髪をした、痩せた二十代後半の色白の男性が出てくる。男性は灰色のローブにサンダル履きと、いかにも錬金術師らしい恰好をしていた。


「ブレイブ村のハンター・ギルドから来たで。レイさん、あんた、栽培物の悪魔ニンニクを天然物と偽って売ったやろう。嘘やと主張するなら、牛舎の中を見せてもらおうか」


レイは沈んだ顔で弁解した。

「違う。偽装して売る気はなかったんだ。ただ、悪いハンターが勝手に僕の悪魔ニンニクを持ち出して、許可なくブレイブ村に運んで売ったんだ」


「なら、なして、盗難をハンター・ギルドに届けなかったんや?」

「理由は二つある。まだ、研究結果を表に出したくなかったのと、産地を偽装して売った罪を着せられるのが怖かったんだ」


「なるほどのう。でも、黙っているのは、いただけないで。おかげでハンター・ギルドは要らん仕事をした」


 レイは困った顔で提案した。

「そのことなんだけど、取り引きできないだろうか。僕は悪いハンターに騙された事件を黙る。だから、ハンター・ギルドは栽培物が天然物として出回った事態を黙ってくれないだろうか」


「ハンターの評判を下げない代わりに、レイさんの悪評も立たんようにする取り引きか?」

「そうだ。今年だけでいい。来年は盗まれないように対策を講じる」


「わかった。レイさんの提案を上の人間に持っていってみる」

 ランドルはブレイブ村に戻って、エイドリアンに報告する。


「失踪は殺人やなくて、盗人の逃亡。栽培場は樹海の外にありました」

 エイドリアンはむすっとした顔で報告を聞いた。

「何、どういうことだ? 詳しく聞かせてもらおうか」


 ランドルはレイとのやりとりを全て聞かせた。

 エイドリアンは思案顔をする。

「事件の概要はわかった。問題はレイとの取り引きを飲むかだな」


「今年だけと、レイも申告しておる。こちらからハンターの評判を下げる必要もないと思いますよ。ここは、提案を飲んだらどうでしょう?」


 エイドリアンは不機嫌な顔だったが、了承した。

「そうだな。悪魔ニンニクの季節も、もう直に終わる。今年はこれで手を打つのがいいかもしれない」


 かくして、悪魔ニンニクの秘密の栽培場の真相は闇に消えた。

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