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十七品目 ジャスティン鮟鱇(前編)

 ランドルが二階の部屋から山海亭に下りて行こうとした。

 子供が山海亭の裏口にいる姿が見えた。子供は三㎏にもなる鮟鱇あんこうを持っていた。


 子供が大将に鮟鱇を渡して金を受け取る。子供は上機嫌で裏口から立ち去った。

 大将がいたので訊く。


「大将、今の子供って何をしていったん?」

 大将が優しい顔で教えてくれた。


「ジャスティン湾で獲れるジャスティン鮟鱇を売りに来ていたんですよ」

 ランドルは不思議に思った。


「鮟鱇って深海魚やろう。ジャスティン湾のような浅い場所で獲れるの?」


「それが、なぜか今年は獲れるんですよ。それで、子供たちが浜から一本釣りをして吊り上げているんです。釣れたジャスティン鮟鱇を魚屋や料理屋に売りに来ているんですよ」


「そうなんか? それで美味いんか?」

「鮟鱇に負けず劣らず、美味しいですよ」


 その日、ランドルはジャスティン鮟鱇の鍋物を注文して食べる。


(ほんまや。身は淡白ながらも、しっかりとした旨味がある。肝は脂が載っていて、美味い。味は鮟鱇にそっくりやな。これは、今年の流行りになるかもしれん)


 気になったので、翌日に釣りの準備をしてジャスティン湾に行く。

 ジャスティン湾では三十人以上の子供たちが釣り糸を垂れて釣りをしていた。


(子供たちがおるわ。なかなかの人気スポットやなあ)

 ランドルは釣りを始める。当たりが来るので、引き上げる。


 釣れたのは魚ではなく、小さなクラゲだった。

 クラゲを見ると、毒のある電気クラゲだった。


(しようもないもんが、釣れたのう)

 再び釣り糸を垂れる。また、同じ電気毒クラゲが釣れた。


 こういう時もあると釣ると、また電気毒クラゲだった。そのあとも、次から次へと、電気毒クラゲが釣れた。


(ダメや。完全に外れしか釣れん。今日は運が悪いんかなあ)


 陽が暮れる。子供たちが浜からすっかり姿を消した。それでも意地になって釣り糸を垂れていると、大きな当たりが来た。それ、と引き上げてみると、二㎏弱のジャスティン鮟鱇だった。


 飛竜便でブレイブ村に帰って生態研究所に行く。

 研究員の助手をしているコボルドのコリーを呼んでもらった。


 コリーは赤毛の若いコボルドである

「これを見て。今、話題のジャスティン鮟鱇や」


 コリーは、ちょいとばかり顔を(しか)める。


「ランドルさん。これをハンターさんたちは、ジャスティン鮟鱇と呼んでいますけどね。これは姿形が鮟鱇なだけ。鮟鱇ではなく、鮟鱇の仲間ですらないんですよ」


「何や。やっぱり違うんか? でも、味は似とるで」

 コリーは、うんざりした顔で説明する。


「味は生物学には関係ありませんからね。それに、ランドルさんが手にしているジャスティン鮟鱇ですが、それ、まだ稚魚ですよ」


「ほんまか? でも、これでも、二㎏近くあるで」

 コリーは真顔で説明した。


「成長すると、ジャスティン鮟鱇は大きさが八m、重さ六tにもなる魔魚です」

 ランドルは嫌な予感がしたので尋ねる。


「そんなにでかくなるの? 餌は何?」

「小魚、甲殻類、貝からオットセイまで、何でも食べますよ」


「何やて? そしたら、子供が海に落ちた時に成魚がいたら、危ないやん」

 コリーは冴えない顔で愚痴る。


「海に落ちた子は確実に死にますね。でも、子供たちに警告を出しても、子供たちは聞かないんですよ」


 ランドルは子供たちの気持ちもわかった。

「大物が釣れて面白い上に、小遣いにもなるからのう」


 次の日、ランドルはホークの家を訪ねた。

「ちょいと、お願いがある。巨大ジャスティン鮟鱇釣りをやりたい。船を出してもらえんか」


 ホークは気乗りしない顔をしていた。

「ランドルさん、知っているかい? あのジャスティン鮟鱇って、成長したら六tにもなるんじゃよ」


「昨日、知った。そんでも、今のままやと、子供が犠牲になるかもしれん。だから、今の内に親を吊り上げてしまおうと思う」


「そりゃあ俺は漁師だから、船を出してくれと頼まれれば、船を出す。でも、ランドルさん一人で、巨大ジャスティン鮟鱇を倒せるのかい」


「そこは仲間のハンターを三人雇う。四人で挑む」

 ホークは渋った。


「ハンターが四人か。ハンターの腕にもよるけど、倒せない布陣ではないなあ。でも、いいのかい?」


「何がや? 何か、問題あるんか?」


「ハンター三人分の雇用料に俺の日当を入れたら、かなりの出費じゃ。巨大ジャスティン鮟鱇をハントできても、赤字になる」


「そん時はそん時や。ただ、今のまま黙って見ていたら、わいは後悔する。後悔はしたくないねん」

 ホークは優しい顔で決断した。


「わかった。ランドルさんがそこまで思っているなら、俺も船を出す」

 ホークがやる気になったので、ハンター・ギルドに行き、ブリトニーにお願いする。


「ハンターを三名、雇いたい。依頼を出すで」


 ブリトニーは不思議がる。

「珍しいですねランドルさんが人を募集するなんて。何か、目当ての魔獣がいるんですか?」


「魔獣やない。相手は魔魚や。巨大ジャスティン鮟鱇や」

 ブリトニーは表情を曇らせて、やんわりと意見する。


「ランドルさん、いるかどうかわからない魔魚を対象にした仲間の募集なら、集まらないですよ」

「日当を出すや。倒せたら、報酬はもっと積む。ただし、素材の優先権はわいで、どうや?」


「それなら人は集まります。でも、巨大ジャスティン鮟鱇の素材にいくらの値が付くかわからないので、完全な博打になりますね」


「ええねん。儲かる時は儲かる。損する時は損する。それがハントやろう」

 ブリトニーは控えめな態度で意見を述べる。


「何か、いつものランドルさんらしくないですね」

「わいかて、たまには博打を打ちたくなるねん」


「わかりました。募集依頼を貼っておきますね」


 ランドルが募集を出す。日当がいい条件もあって、中堅ハンター三人が、すぐに応募してきた。

 ランドルは大王牛に船を牽かせて浜に行く。ランドルたちは鉤爪が付いたロープを用意する。


 鉤爪の先には獣脂を付ける。あとはロープに浮きを付けて海中に入れる。

 人喰い蛸を釣った時と同じ要領だが、これでよいと思った。


 子供がやって来て興味津々な顔で訊く。

「おじさん、何やっているの?」


「でかい魚を釣ろうと思うとるんや」

 子供はランドルたちを笑った。


「そんな大きな魚なんか、いないよ」

「だとええんやけどな」と答えると「変なの」と、また笑われた。


 海中に餌を入れると、すぐに当たりが来た。大王牛二頭と五人で綱を引く。

 掛かっていたのは、二tクラスの電気毒クラゲだった。


 次に同じように綱を入れるとまた、電気毒クラゲが掛かる。さらに、もう一回とやると、またまた、電気毒クラゲが掛かった。


 夜になる。夜の海は危険なので漁を中止する。ハンターは少しでも依頼人のランドルの役に立てばと、電気毒クラゲから発電器官と毒袋を外してくれた。


(毒袋と発電器官は金になる。せやけど、一日の出費からすれば、焼け石に水やな)

 その後、三日に亘って釣りをしたが、電気毒クラゲしか釣れなかった。


 三日目の晩にホークが優しい顔で意見する。

「なあ、もういいじゃろう、ランドル。ここで電気毒クラゲだけ釣っても、しかたあるまい」


「でもなあ、こういうのって、諦めた翌日か翌々日に出るからのう」

「でも、いつまでもこうして、ここにいるわけには、いかんじゃろう」


「わかった。もう三日だけ待って。そんで、巨大ジャスティン鮟鱇が出なければ、諦める」

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