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十六品目・午睡のお茶(後編)

 三日で作戦に必要な昼寝バッタが集まった。ハンターはギルドから招集を掛けられた。 ランドルの元にも、使いのコボルドがやって来る。


「ランドルさん、ハンター・ギルドから緊急招集です。仕事を断ることもできますが、断った場合は、ペナルティーがあります」


「皆がやるんやろう? やるで。わいだけ、ペナルティーを貰うわけにはいかん」

 ランドルがハンター・ギルドに行くと、五十人以上のハンターが集まっていた。


 エイドリアンが皆を前にして、厳しい顔で意見を告げる。


「明朝、凶鳥のハントを行う。ハントは昼寝バッタを餌として食わせる。眠ったところで麻酔薬を嗅がせて捕獲用ネットを掛けて自由を奪う。それが作戦の概要だ」


 新人ハンターが神妙な顔で噂する。

「何か、随分とあっさりした作戦だな」


「いいだろう。わかり易くて。俺は難しい作戦は駄目だ」

 エイドリアンが作戦の説明を続ける。


「班は三つに分ける。ネットを掛けて拘束する班は俺が指揮する。麻酔薬を嗅がせる班は、マックス、お前が指揮しろ」


 マックスが畏まった顔で応える。


「わかりました。ただ、相手は麻酔が効かない可能性もあるので、その時は臨機応変に対処します。よろしいですか?」


 エイドリアンは真剣な顔で了承した。

「それでいい。最後に昼寝バッタの管理だが、ランドル、お前がやってくれ」


「へえ、わかりやした。きちんとこなしてみせます」

「詳しい班割りは掲示板に貼っておく。後は班長と相談してくれ」


 ランドルは自分の班を確認する。副班長がスニークになっていた。

 他にはコボルド三十人に、ハンターが十人の班だった。


 ランドルはスニークに頼む。

「スニークはんは、コボルドの統制を頼むわ」


 スニークが自信たっぷりに答える。

「任せて置け。それでまず、何をする」


「皆で現場を確認しようか。まずは、それからや」

 コボルトとハンターたちと一緒に移動する。


 捕獲作戦の現場は、樹海深度二にある直径二百mの平地だった。

 平地の中央には、直径三十mもの大きなドーム型の竹籠があった。


「何か、お誂え向きな仕掛けがあるのう。こん中に、生きた昼寝バッタを入れて生き餌にするんやな」


 スニークが胸を張って答える。


「別の魔獣を捕まえるために用意された仕掛けじゃ。じゃが、使われなかったので、放置されておった。今回、もしかしたら使うかもと思い、前々から修理しておいた」


 ハンターの一人が竹籠の具合を確認する。

「この強度なら、中に入った昼寝バッタに籠を壊される事態には、ならないな」


「よし、わいらは今晩から働くで。深夜ギルド前に集合や」

 ランドルはブレイブ村に帰る。ないとは思うが、凶鳥との戦闘は考えて、弩を準備しておく。


 後は食事を摂り、仮眠を摂って夜に備える。

 夜になった。ランタンの明かりを頼りに、生態研究所から眠っている昼寝バッタを運び出す。


 昼寝バッタは纏めて飛行船で空輸して、一頭ずつ竹籠に入れる。

 念を入れて、昼寝バッタには午睡の茶葉の睡眠効果を上げる薬を塗しておく。


 最後に、昼寝バッタの餌になる、午睡の茶葉も入れておいた。

 籠に昼寝バッタを二十以上ほど入れた段階で、マックスとエイドリアンがやって来た。


「餌にする昼寝バッタの搬入は滞りなく終了しました、エイドリアン先輩」

 エイドリアンは竹籠を見て満足気に頷く。


「よし、あとは俺とマックスの仕事だな」

「ほな、コボルドたちは一旦、村に帰しますわ」


 飛行船に乗って、コボルドは帰って行った。

 あとは、ハンターが平野の外周に立つ木陰に隠れた。


 陽が昇った。その日はぽかぽかと暖かく、気分がよかった。

 若いハンターたちが談笑する。


「凶鳥と言っても、ただのでかい鳥だろう。ここまで準備が必要だったかな」

「五十人は多いだろう。もっと少なくても狩れるだろう」


 ランドルは注意する。


「ハントに危険は付きものやで。それに、エイドリアン先輩が荒野まで追っていって仕留めきれんかった獲物や。注意してや」


 ハンターたちは、ただ苦笑して顔を見合わせるだけだった。

 陽が昇ってから一時間ほどすると、大きな影が平地をよぎった。


 竹籠の中の昼寝バッタが慌てて騒ぎ出す。だが、竹籠の中からは出られない。

 凶鳥がゆっくり降下してくる。凶鳥は籠の天井部分を脚で握り潰す。


 凶鳥は空いた穴から顔を突っ込む。凶鳥は頭ずつ昼寝バッタを食べ始めた。

(大好きな昼寝バッタや。腹いっぱい食うてくれよ)


 十二頭目の昼寝バッタを食べ終わった時だった。凶鳥がうとうとし出した。

 凶鳥は竹籠から滑り落ちるようにして眠った。


 マックスが手で合図して、十五人からなるハンターで近づく。

 ハンターは大きな樽を三つ用意していた。気化したガスを樽から吸わせる。


 並行して、エイドリアンが指揮するハンターたちが捕獲用のネットを凶鳥に掛ける。

 凶鳥捕獲用のネットは綱にワイヤーが編み込まれていた。


 綱は一本の太さが十二㎝にもなる太いものだった。

 ランドルの班の若いハンターが安心した顔で告げる。


「何だ、意外と簡単だったな。あっさり行ったぞ」

 ランドルも成功かと思ったとき、凶鳥の目が開いた。


「杭を打て」とエイドリアンが怖い顔で叫ぶ。

ハンターたちが用意していた杭をネットの隙間に打ち込もうとする。だが、間に合わなかった。


 暴れる凶鳥により次々とハンターが吹き飛ばされる。

 それでもネットは凶鳥に絡まっており、凶鳥は飛び立てない。


「まだ行ける。一斉攻撃や」

 ランドルが指示すると、弩を手にしていたハンターが攻撃を仕掛ける。


 凶鳥の体が光った。凶鳥の体から高温の炎が吹き上がった。

 炎により、ワイヤーを編み込んでいた捕獲用のロープが焼き切れた。


 自由になった凶鳥は怒りの咆哮を上げた。凶鳥は上空を飛ぶ。

 凶鳥が口を開けた。口から炎が噴き出した。


 火に焼かれるハンターが出た。

「あかん、捕獲失敗や、みんな樹海の中に隠れるんや」


 捕獲失敗を悟ったハンターたちが樹海に隠れる。

 凶鳥は口から猛然と炎を吐く。凶鳥は火を吐き、暴れる。炎は樹海に火を付けた。


 赤い炎の色が見える。煙の臭いがした。

 樹海は混沌としていた。どこに逃げれば助かるか、わからない。


 それでもランドルは、必死に覚えていた地図を頼りに、火から逃げた。

 どれくらい逃げただろうか、夜の闇が降りてきた。


 凶鳥の鳴き声はしない。だが、まだ煙の臭いがして、赤い炎の色が見えた。

 どこまでも、炎が追ってくる気がした。


 顔に冷たいものを感じた。見上げれば、大粒の雨が降ってきた。

(助かった。雨や)


 雨は二日に亘って降り続き、樹海の火災を消した。

 ランドルはぼろぼろになって、キャンプ地から飛竜便でブレイブ村に帰った。


 汚れた服を脱ぎ、ランドルは眠った。

 一夜が明ける。銭湯で朝風呂を浴びて、ハンター・ギルドでスニークと会う。


 スニークはランドルの身を案じていた。

「ランドル、お主。無事じゃったか」


「何とか、助かったわ。他のハンターは、どうや?」

 スニークが厳しい表情で告げる。


「エイドリアンとマックスは、戻ってきた、他はまだ帰らぬ者がいる」


「樹海の火災に巻き込まれたか。だとすると、帰らぬハンターは多いかも知れんな。凶鳥は、どうなったんや?」


 スニークは悔し気に語る。


「生態研究所の観測班の話じゃ、また、凶鳥は荒野に戻ったと訊く。ただ、いつ出てくるか、わからない。じゃが、凶鳥は樹海に火災を引き起こすような存在じゃ」


「迂闊にこちらから手出しは、できんか。ハンターも大勢、失ったから、今年はこれ以上の調査もままならん、か」


「悔しいが。ハントは失敗じゃ。儂らの負けじゃ」


 その後、ハンターたちがぽつりぽつりと帰ってきた。だが十六名のハンターが戻らなかった。

 凶鳥戦はランドルたちハンターの敗北で終わった。季節は冬本番に向けて移っていく。

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